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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第七章『巡り合せの一悶着順争―集いし力―』
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(27)『止めちゃおっか』

「おや、バレましたね♪」


 SPA幹部の一人、ミルフィの広域展開型監視スキル【特種蝶報機感フォーリア・ファミリア】によって頭上に作り出されたモニターウィンドウを見上げながら、アプリコットは急にそう呟いた。


「……何がバレたって?」


 まだ何かやってたのかよ――――なんて嫌な予感を覚えながらも俺がそう訊き返すと、アプリコットがくっくっと楽しげな笑みを浮かべ、イネルティアが嘆息した。


「今回のクラエスの森は苦労して出した最難環境なんですよ♪」

「苦労したのは私とストレロークです」


 間髪入れずに訂正するイネルティアをよそに、俺はアプリコットの見ていたウィンドウを見上げ、そこに映っている中型モンスターの姿に納得する。

 何度も言うが、このフィールドは比較的平和だ。モンスターも大した強さではないし、好戦的なモンスターは(ほとん)ど姿を表さない。多少の個人差はあれ、俺たちや参加者のような上位プレイヤーにとっては安全な市街エリアとあまり変わらない。

 しかし出現確率は低いが、倒すのが面倒くさいという意味で厄介なモンスターは五種類(通称クラエス五天王(ファイブ))程いて、そのひとつが今≪弱巣窟(ネストネスト)≫からの参加者二人が対峙しているアルマジロ型モンスター『大輪転装甲獣アーマード・アーマディロウ』。

 このモンスターの出現は同時に、他の四種――

 『百羽百舌ストライク・シュライク

 『百磯城百足センチネル・センチピード

 『冥土竜(ヘルホール・モール)

 『竜血樹龍(ドラセナ)ドラガーヴィ』

 ――も出現していることを意味している。勿論(もちろん)面倒くささだけならキャプチャーイベントを発生させる玄烏(クロガラス)も負けていないが。


「というか、まさか頑張ったって……」

「アプリコットの命令でここ数日、私とストレロークの昼夜交代制で出入りと出現モンスター調査を繰り返し、大輪転装甲獣アーマード・アーマディロウ出現を確認した時点から環境保存のためフィールド内で待機していました」


 イネルティアはジトッとした目をアプリコットに向けつつ、当て付けるように“命令”を強調するが、アプリコットは全く意に介さない様子で、


「優秀な部下を持ってボクは幸せです♪」

「鬼ね……」


 そう返しつつもイネルティアに加勢してジト目をくれてやるが、逆にウィンクを返してくる始末だ。ここにいる連中だけならいつでもアプリコット節でペースに持ち込める、というアピールだ。

 たぶんそのアピール、俺とイネルティアにしか通じてないだろうが。

 確かにあまりにもフィールドの条件が酷い場合は、可能なら一度フィールド外に出てまた入り直すことで環境判定をやり直すのは比較的普通の話だが、問題は出現モンスター調査とやらだ。

 当然、出現モンスターの一覧をシステム側が開示してくれるわけもなく、要するに出入りする度にこの広いフィールド内をぐるぐると探し回って、今イネルティアが言った通り大輪転装甲獣アーマード・アーマディロウが見つかるまで同じことを繰り返していたのだろう。


「さすがの刹那でもそこまで人を()き使ったり――――しない、かな……」


 ちょっと自信はない。

 少し前なら誰でも出来ることは俺に、それ以外はアンダーヒルに結構押し付ける傾向があったが、以前の刹那はもっと酷かったからこれでも直ってきている方だ。

 理不尽なキレ方もかなり減ってきた方だしな。俺に以外は。


「いやいや、まったくシイナんは何言ってんですか。そもそもボクと刹那んじゃ比べようがないですよ。ボクはあくまでもこの≪シャルフ・フリューゲル≫のトップ。刹那んは立場上はあくまでも、悪魔でもシイナんの部下なんですし――」


 アプリコットはそう言うと、澄まし顔で自身のウィンドウに視線を落として何かの作業に(いそ)しむイネルティアの方に振り返り、


「――部下は使ってこその部下です」


 とびっきりゲスい笑顔を浮かべてそう言った。




 クラエスの森南西部――。


「避けて、ルーク!」

「わかってるっすよっ」


 大木の幹を背にして追い詰められていたルークが、瞬時に広げた白色の生体翼を羽搏(はばた)かせて飛び上がった。次の瞬間、ルークの眼下を回転突撃(ローリング)で突っ込んできた大輪転装甲獣アーマード・アーマディロウが、木の幹を木っ端微塵に砕いて通過する。

 そして文字通り根幹を潰された大木は地響きを立てながら倒れ、偶然後ろに立っていた若い木々と共に呆気なく崩れ落ちた。

 ルークの種族は神使鳥(カラドリウス)

 空中機動に関して突出した性能を持つ種族で、さらに進化を重ねると炎属性強化と特異なスキルで有名な不死鳥(フェニックス)になることができる。限定的とはいえライフ全損を回避できる種族スキル【不死鳥の甦りアンデッドリィ・リボーン】は自演の輪廻デッドエンド・パラドックスの影響下にある現状況に()いては非常に強力なものだ。

 鳥人種(フェザード)からの進化先に迷っていたルークに不死鳥(フェニックス)に進化できる神禽種(ラプター)を勧めたのは他でもないシャノンであるわけだが。


「やっぱ木の上に登っても丸ごと潰されるっすね。何か特効策はないんすか?」


 空中で翼を畳んだルークはシャノンの隣に飛び降りると、回転突撃(ローリング)で木々を薙ぎ倒しながら大回りに回って戻ってくるアーマード・アーマディロウを遠目に観察する。


「うーん……あの子とは正直あんまり()ったことないんだよねぇ。多分今回で三回目かな」


 ルークの隣で上下に微震動しながらふわふわと浮くシャノンは、【死屍竜槍(ししりゅうそう)ルナーズアイ】の先端を常にアーマード・アーマディロウの方に向けながら思案顔を浮かべる。


「基本的にはローリングだけっすか?」

「近付いたら爪で攻撃してくるよ。あとたまに毒ガス吐くから注意(ちゅーい)っ」

「うへ、マジっすか」


 毒ガスと聞いて、ルークはうんざりとした顔になる。

 FOに()ける状態異常は、基本的に顕著に症状が現れる。例えば毒なら本当に具合が悪くなるし、麻痺なら身体が動かなくなる。睡眠なら起きた後でもしばらく気怠(けだる)さが残る。

 基本的には誰も味わいたくないのだ。


「でもあの子からって逃げられないんだよね……。空は言うまでもなく対空砲花スティンガー・リンカーがあるし、地上とだとローリングに巻き込まれるしね~。中間だと倒された木が危ないからさ。正面から倒しちゃった方が早いんだよね。楽じゃないけど」

「地下の水没林に逃げたらどうっすかね?」

「その手は考えたけど、逆に森に戻れなくなりそうなんだよ~。ずっと張り込まれたら危な過ぎて。本当なら遠距離攻撃か魔法で仕留めるべきなんだろうけど……。ほら、私()()使()()()()し」


 ゴロゴロと(とどろ)く地響きが再び近付いてくる。

 ルークは【灰炎槍(かいえんそう)焔大蛇(ホムラオロチ)】の大楯(シールド)を構えつつ、再び翼を広げて羽搏(はばた)かせると、地上から三メートルほどの場所で滞空飛行(ホバリング)する。


「最近大した相手狩ってなかったから、落とし罠(ホールトラップ)も持ってきてないっすし」

「じゃあ()()()()()()()

「それこそ、マジっすか!?」


 二人がそんな遣り取りを交わすすぐ真下をギュルギュルと激しい擦過音を上げるアーマード・アーマディロウが通過し、二人はその回転突撃(ローリング)で薙ぎ倒された木の幹や枝葉を避けるため、シャノンがルークの手を引く形で空中を器用に移動する。


「とりあえずやってみよっか。気になることもあるし」

「さっきからこっちを見てる連中のことっすか?」


 ルークが小声でしれっとそう言ってのけると、シャノンは一瞬驚いたような表情になり――――すぐにその表情を巧妙に隠し、空中でくるりと一回転して手近な木の枝に掴まった。


「気付いてたんだ。出来る子になったね、ルークも」


 お姉さん口調でそう言ったシャノンが足を枝に引っ掛けてぶら下がり、再びアーマード・アーマディロウが戻ってくるのを待つような素振りを見せると、地上に降りたルークは同じ木の後ろに位置取って大楯(シールド)を構えて細い補助杭を地面に射ち込み、耐久姿勢に入る。


「ただの様子見か傍観ならともかく、下手なこと考えてたらどうするつもりっすか?」

勿論(もちろん)決まってるでしょ。排除(ハ・イ・ジョ)

「うわぁ、おっかねー……」

「こらこら、ルーク♪」

「わかってるっすよ。とりあえず今はあのアルマジロに集中、っすよね」


 ゴロゴロゴロ……!

 再び転がりながら戻ってくるアーマード・アーマディロウの地響きが轟き、ルークは大楯(シールド)を支える腕により一層力を込める。樹上ではシャノンが目を閉じ、響いてくる音に耳を澄ませてタイミングを合わせるようにハミングを口ずさむ。


 ゴゴゴゴ……!

 アーマード・アーマディロウの転がる音の間隔が短くなって音が変化した瞬間、シャノンはとんっと枝を蹴って身体を宙に投げ出した。その手に武器――死屍竜槍(ルナーズアイ)はない。

 そしてシャノンは腕を、手のひらを下に向け、まるでプールに飛び込むような姿勢で自由落下し――――ゴゴゴゴロゴロゴロ!

 シャノンの視界に地面が迫った、その一瞬。視界の端から目の前に激しく回転するアーマード・アーマディロウが現れ、その手のひらの正面――真下を通過する。

 そのコンマ一秒。


「――“反射慟力(リフレキネシス)”――」


 シャノンの両手の甲と額の小さな宝石が光を放ち、次の瞬間球状に変化したアーマード・アーマディロウの形状(シルエット)が大きな(ひず)みを抱いた。

 この能力(チカラ)はスキルではなく、通称PA(ピーエー)と呼ばれる“超能力(サイコアビリティ)”。シャノンの種族である上位種(オーバード)を初めとして四つの種族にしか使用することができない特有の能力だ。


 ドンッ!

 まるでゴム球のように一瞬潰れたアーマード・アーマディロウは地面で斜めに跳ね、空中で球体モードを解除されながら周囲の木々に激しく叩き付けられて、ドーンと地上に落ちてきた。

 体力(LP)こそまだ残っているが、全身の外甲は今の一撃で(ほとん)ど部位破壊が完了し、地面に頭から落ちた衝撃で気絶(スタン)状態に陥っている。およそ四十秒、アーマード・アーマディロウの動きは著しく鈍り、引っくり返っている状態の今は起き上がることも出来ない。

 完全な無防備だった。


「相変わらず凄まじいっすね、能力(アビリティ)って……」

「代わりに数も少ないから工夫しなきゃいけないけどね」


 その隙を狙って再びその手に死屍竜槍(ルナーズアイ)を出現させたシャノンは、ルークと共に間合いまで寄り、お互いに頷き合って槍の手元のレバーを引く。

 ガジャコッ! と再び遊底(ボルト)が前後に動き、排莢口(エジェクションポート)から空薬莢が排出され――――ガジャコッ!

 さらに二人は手元のレバーを引く動作を繰り返す。

 ガジャコッ!

 さらにもう一回。

 ガジャコッ!

 そして最後にルークだけ一回分多くレバーを引く動作をすると、順番に吐き出された大型の空薬莢合計七つが二人の足元に転がった。そして二本の槍に用いられた死屍竜(ししりゅう)炎蛇竜(プロミナンス)が――――内部の機構砲が起動し、瞬く間に組み変わっていく。


「行くよ、ルーク♪」

「うぃっす」


 二人は槍の中から現れた砲口を、アーマード・アーマディロウの背中の外甲に突きつける。


「「――(ゼロ)距離全弾発射(フルバースト)――」」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 “巡り合せの一悶着順争トラブルスポット・トラベリングツアー”――


 現在の脱落ギルド。

 ≪ロードウォーカー≫

 ≪黄金羊(ゴールデンシープ)


 ――タイムリミットまで残り六十七時間八分。

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