表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第七章『巡り合せの一悶着順争―集いし力―』
295/351

(14)『コイツらはアレか……?』

「何があったんだ、コレ……?」


 グラン・グリエルマを出ると、俺は思わずアルトにそう(たず)ねると、即座に「あたしが知るかよ」と返された。

 当然だが。


「あ、用事は済んだです?」


 大戦鎌(デスサイス)を片手に滞空(ホバリング)していたアキラが、羽搏(はばた)かせていた翼の動きを止めてスタンッと飛び降りてきた。

 その周りには、ボロボロの人たちが血塗(ちまみ)れで倒れ伏している。

 その数九人――――ほとんどが男みたいだが、女も一人混じってるな。


「誰だ、コイツら」


 アルトがうつ伏せに倒れたまま動く様子のない女を蹴飛ばすように足でひっくり返しながらアキラに訊ねる。

 扱い酷いな、鬼か。


「わからないですけど、いきなり襲いかかってきたので応戦してたです」

「アルト、これ……」


 (アルト)の足蹴にも反応しない死屍累々の紅一点、名前(PN)[ルシカ]を検分していた俺は、亜竜(リザード)系素材のスケイルアーマーで露出の多いその胸元をアルトに指し示す。


「あたしの方が小さくて悪かったな。お詫びにヤキ入れてやろうか?」

「何の話をしている」


 胸元を()り気なく隠すようにしながらチッと舌打ちを返してくるアルトに「とりあえず見ろよ」とアイコンタクトで伝え、もう一度問題の部分を――――鉤裂きにされた傷跡のような趣味の悪い造型のタトゥーを示唆してやる。

 一瞬眉を(ひそ)めたアルトはそれを屈むようにして覗き込み――――明らかに目付きが変わった。


()()()()()()()……!?」

「全員そうみたいだね」


 他の男たちもひっくり返したりして検分し、腕やら手の甲やら頬やらにそのギルドのシンボル・タトゥーを確認する。


「あの連中、最近噂を聞かないから不審には思ってたんだが、また動き出したってこと……なんだろうな」


 アルトが唇の下に指を添えて思案顔で(うつむ)き、何事かをブツブツと(つぶや)き始める。


「とりあえず刹那たちに報告入れとかなきゃなー。……後でバレた時怒られるから」

「後半本音が出てんじゃねーか。……詩音(シオン)、あたしらの方もギルドに連絡入れとけ。簡単でいいぞ。どうせ後で説明させられるのあたしだしな……」

「うぃー、らじゃーっ」


 アルトも詩音(シオン)に――椎乃(しの)に案外振り回されているらしい。


(俺もリコ辺りに任せるか……)


 と後ろを振り返ると――――諸事情からリコに頼むのは諦め、その隣で苦笑いしていたサジテールに向かってメッセージウィンドウをドラッグ投げして代打ちを頼む。


「で、コレは全員お前がやったのか?」


 アルトが睨むような目付きでアキラを見て、そう(たず)ねた。


「はいです」

「コイツでさえこれだけ一方的……っつーことはだ。ここにいる連中は最弱レベルの愚図どもってことか、あるいは……」


 アルトの懐疑の目がアキラに向く。


「ねーアルトっ。誰に送ればいい? アンダーヒルさん?」

「あたしらは元々竜乙女達(ドラグメイデンズ)だろがッ!」

「みゃぐっ!?」


 シリアスムードをぶち壊すようにアホなことを言い出した詩音が、額に半ギレアルトのデコピンを受けて地面に転がった。


「アルカナクラウンの方に送ってどーすんだ、アホ。間抜け、愚図」


 そこに容赦ないアルトの罵倒が降り注ぐ。アルトにしてはあまりにも普通すぎる罵倒かと驚く奴もいるだろうが、これは妙に遠回しだったり皮肉だったり長すぎたりすると、詩音(バカ)が罵倒だと気がつかない可能性があるからだ。

 地面にぺたんとへたり込んだまま直接的で単純明快な罵倒を受けた詩音は、若干涙目になりながら俺の方に振り向き、


「兄ちゃん、アルトが酷いよぅ」

「アホ」

「一言で切り捨てられたっ!?」


 選択肢がそれしかなかったからな。

 地面に『の』を書き始めた詩音は「連絡送れって言ってんだろが」とアルトに頭を(はた)かれて、ようやく指示通りドナ姉さん宛ての報告書を作り始めた。


「また私は……戦いを逃したのか……」


 ついさっき目を逸らしたばかりだというのに、失意体前屈をしていたリコの呟きが背後から否応なしに耳に入ってくる。

 どれだけ血が見たいんだよ、お前。


「いや、でもこの人数差でこんなヤツに負けるなんてどんだけ弱いんだ、コイツら」


 そう言うとアルトは倒れている男の脇腹を八つ当たり気味に爪先で蹴り、呻いたソイツを再び(かかと)で踏みつけて強制的に黙らせる。

 刹那か――もとい鬼か。

 元からそんな素質は十二分にあったが。


御主人様(マースター)。刹那から返信来たよー」

「何て?」

「『忙しいからどうでもいい報告しないで、バカシイナ』だってさ」

「アンダーヒルに送り直しといて。最初に刹那に送ったのがそもそも間違いだった」


 毎度毎度こっちの親切心を何だと思ってやがる、あの性悪女……。


「狙われたのはあたしらってトコだな。となると(デコイ)の可能性か」

陽動(フェイント)にしては随分と情けないみたいだけどね」


 通りすがりの犯行にしては人数が多すぎるし、俺たちがドレッドレイドの情報を公開して以降は連中も動きづらいはずだ。こんな分かりやすい格好で大人数は動かさないはずだ。それにしても中途半端な人数だが。


「……今、アルカナクラウンで単独(ソロ)行動してんのはアプリコットだけ……だよな?」


 アルトが声を潜めて訊ねてくる。


「っていってもここに来る前の話だから何とも――――少なくとも聞いてない」

「アプリコットだけなら正直どーっでもいいんだが、他の連中は人海戦術で潰れる可能性は残ってるんだしな。とりあえず早くギルドに戻った方が良さそうなんだが――」

 

 アルトはぎろりと周囲に不機嫌そうな視線を泳がせ、同時にわずかに姿勢の重心を落として腰の後ろに吊っていた鎖鎌(チェインシックル)にスッと手を伸ばした。


「――どうもすんなり帰してくれる気はないみたいじゃねえか」


 アルトがそう言い放つと、いつのまにか人通りの少なくなっていた通りの陰という陰から赤衣の集団がぞろぞろと現れた。途端、失意体前屈で影が薄くなっていたリコの目がギラリと光り、ゆらりと妖しげに揺れて立ち上がる。


「シイナ……コイツらはアレか……? 蹴散らしてもいいアレだな……? そうなんだろうな……?」


 禁断症状なのか、人格が多少変わってる気がする。

 久々にオブジェクト化した可変機械斧槍(アクス・バンカー)偽りの洗礼プリテンド・バプティズム】を何処となく重そうに振り上げたリコは、「ふふ……ふふふふふ……」と色々とまずい部類の笑い声を口から漏らしながら一歩一歩踏みしめるように赤衣の集団に近づいていく。


「おい、あれは大丈夫なのか……?」


 直前までノリノリだったアルトがリコのあまりの変貌振りにドン引きの表情で訊ねてくる。


「ほっといていい。リコはどうせ戦ってる時何にも考えてないから欠く冷静さもないし」


 そう言えば亡國地下実験場(メガロポリス・エデン)(ハカナ)に切り捨てられた直後、似たような感じになってた気がするな。今回ほど顕著ではなかったけど。

 まさか『(ハカナ)<戦闘』ってことになるのだろうか。


「サジテール、後衛お前しかいないけど大丈――」

「え?」


 バチバチッ……!

 轟く雷鳴、放たれる閃光、吹き飛ぶ群集。


「――夫そうだな、色んな意味で」

「あ、ごめん御主人様(マイマスター)。早くも試しに入っちゃってた」

「うん、大丈夫そうだから好きにしてていいよ」


 と言うか指示を待つ間もなく詩音とリコは戦闘モードだし、サジテールは既に戦闘中。アルトはまた周りの見えてなさそうな詩音のフォローに入るように動いてる。


「ん……?」


 アキラのヤツ、何処行った……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ