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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第六章『トゥルース・ヒカリ―衝突と消失―』
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(15)『竜の咆哮』

 火山内部に足を踏み入れた俺たちは、滅びの隕石(クライシス・メテオ)から逃れられた代わりに灼熱地獄を彷彿とさせる熱気に見舞われていた。

 さっきまでは暑い暑いと騒いでいた刹那も、苛立ちと無力感の間をとったような表情でただ足を動かしていた。ブツブツと口の中で何かを呟いている様子は、普段の彼女らしくないためか傍から見て恐怖感をも煽られる。そして不気味だ。


「シイナがカラミティ・クロス手に入れられなかった時のメルトダウンが心配だな」

「臨界点突破か?」

「無駄骨無駄足が大嫌いだからな」


 シンとリコとリュウが隣で余計なフラグを立てつつ、様々な雑談に興じている。

 今回の場合、三人には被害が及ばない確率が高いからあれだけ余裕ぶっていられるのだろう。あるいは暑さを忘れさせるため、その意味での余裕のなさを誤魔化すためにわざとそんな言い方をしているのか。

 さっきはギルド内の人物相関図について考えていたようだが、アプリコットについて少し揉めているようだったから放置した。

 ちなみに外見は人型だが機械の身体を持つリコとサジテールは、この暑さにも『外気温が高い』という程度の意識らしく、要するに平気らしい。しかし放熱のためか、リコは背中の武装展開のためのエジェクターを開け放し、サジテールも下半身の騎馬外装を装着している。

 アンダーヒルとトドロキさんは同じく暑さを紛らせるためか暇潰しのためか、駒盤なし(エア)将棋を指しているようだ。様子をみている限りトドロキさんの三連敗で四戦目に入っている。

 言わずもがな当然だが、傍から聞いている俺は十数手でついていけなくなり観戦もできない。頭のスペックが違いすぎる。


「【死竜拳(しりゅうけん)】! 兄ちゃん、今何してるー?」

「暇で送ってみたメールの文面みたいな台詞を目の前にいる人間にぶつけるなよ。お前の隣歩いてんだろ」

「【烈風脚(れっぷうきゃく)】! そなの? 私は今暑中見舞いしてるよ~」

「人の話聞いてるか、お前」


 しかも『暑中見舞い』はそんな使い方できる単語じゃない。

 アホなことを言いつつも、めまぐるしいフットワークでスキル(アーツ)の練習をする詩音は汗を流すのが楽しくて仕方がないという笑みを浮かべている。そういえばコイツ、運動バカなんだよな。

 スタミナだけならトップクラスかもしれない。成長パラメータもSPに多めに振ってあるみたいだし。


「兄ちゃん、アレナニ! そっちの端にある岩みたいなの!」

「いや、アレは岩だろ」


 すぐに興味が別に移るのも子供の時から変わっていない。悪いことと言い切れるわけではないものの、成長が見られないとなると心配にもなるだろう。

 ちなみに卓越したお馬鹿思考スーパーポジティブシンキングも昔からまったく変わっていない。


「じゃなくてその向こう。マグマの中に浮いてるあの黒いの」

「黒いの?」


 詩音が指差す方に視線を向ける。

 岩壁が噴火の爆発で吹き飛んだかのようにぽっかりと外に抜ける巨大な穴。その足元に広がるマグマ溜まりに黒い塊のようなものが浮かび、緩やかに噴き出す溶岩の流れに揺られて上下している。


「波で浮いてるだけの軽石じゃないか?」


 と適当に答えると、持ち前の地獄耳で俺と詩音の会話を聞いていたらしいアンダーヒルが、突然ローブの中から巨大な対物ライフル、【コヴロフ】を引き抜いた。

 そして、唐突に――――ガァン!

 発砲した。

 一瞬で視界を抜けたコブロフの銃弾はまるで吸い込まれるような正確さで浮き岩に到達した。

 これで普通の岩なら表面の一部を抉り取り、砕いた岩片を弾き飛ばして終わっただろう。しかし、それならアンダーヒルがここまであからさまな警戒信号(エマージェンシー)を発したりしないだろう。


 ギィンッ!

 12.7ミリ口径の銃弾は岩塊と接触した瞬間、激しい火花を散らして弾かれ、虚空に消えていく。

 途端、まるで眠りから覚めるようにぐぐっと持ち上がった岩塊は、地響きにも似た唸り声を響かせ、そして次の瞬間――――


 ぐヴぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!


 ――――咆哮した。

 高温の液状溶岩(マグマ)の中から平然と腕を振り上げた巨大なそれは、口からシュウシュウと水蒸気を噴き出しながら地上に這い出してくる。

 紅い瞳と大きく裂けた口、そして鼻先に大きな一本角を持つ遠目には漆黒の艶を持つ岩石の塊に見えたそれは――。


「竜!?」


 思わず叫ぶ。

 その声に反応したのか、身体中がいかにも硬質そうな外殻に覆われたデカブツは長い首をぐぐぐっと持ち上げ、頭をもたげて俺たちを見下ろす。

 さらに首を伸ばせば天井ぎりぎりまでいけるだろうから、その高さは二十メートルを優に超えるだろう。

 しかしその巨体と対比してもおかしいのは、一対の前腕だった。まるでその部分だけさらに巨大な竜のパーツを取って付けたようにアンバランスな大きさを誇り、それぞれに生えた四本の大爪は漆黒の体色と対比するように白銀色に光っている。


妖岩龍(ようがんりゅう)ヴォルカ」


 黒竜が頭を地面まで下げガタガタと顎を震わせるような初期の威嚇動作に入った時、アンダーヒルが静かにそう言った。


「以前、ミッテヴェルトの第百四十層『火岩の対流(ラヴァー・フロー)』で一度だけ見た覚えがあります。ステータスは見た目ほど高くないので倒すことは簡単ですが、見ての通り全身甲殻に【常堅反射(ハード・スケール)】を持っているため、あらゆる銃弾は弾かれてしまいます。(ゆえ)に相手にしないのが得策かと」


 【常堅反射(ハード・スケール)】は【跳弾装甲(サーフェス・フェイス)】(堅い部分に当たった飛び道具のダメージの九割を相手に返す戦闘スキル)の下位互換で、単純な跳弾スキル。しかし、相手にはダメージが通らないのは上位と共通しているのだ。


「全身鎧の怪物ってワケね。相手にするだけ危険(あぶな)そうだし逃げるわよ」

「お前の弱腰発言は珍しいな、刹那」

「何よ」


 茶化すシンに相変わらずの殺気視線を送りつつ、刹那は走り始める。当然、他の全員もそれに続く。逃げる選択肢に反対はいないようだな。バトルマニアのリコは不満半分未練半分といったところだが。


「シイナ、モタモタ走っとると死ぬで?」


 トドロキさんにツッコまれ、足の下の地面に意識を集中した時、背後から再び竜の咆哮が聞こえてきた。

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