(4)『お前はコンピュータか』
FO最古にして、俺がGLを務める少数精鋭ギルド――≪アルカナクラウン≫
FO第三位の実力者ドナドナが君臨する、男女比二:八の偏編成女系ギルド――≪竜乙女達≫
第二位にして白夜の白昼夢の二つ名を持つFO最高のトリックスター、アプリコットの有名ギルド――≪シャルフ・フリューゲル≫
人格者と名高いトップランカー、ガウェインによって組織されたユニークスキル持ちオンリーのエリートギルド――≪ジークフリート聖騎士同盟≫(通称SPA)
これまで、攻略に参加していたのはこの四つのギルドだけだった。
他のギルドは、攻略参加への準備を整えていたのか、ただ単に意味もなく引きこもっていたのか、今まで意志表明はほとんどなかった。いくつかの中堅級ギルドから最前線参加の声が上がっていたのだが、その度に調査を重ねたアンダーヒルが「足手まといが増えても時間の無駄です」とばっさり切り捨てていたのだ。容赦ない。
実質的には戦線参加は早いと断念し、物資供給を申し出てきた隣接ギルド――≪クレイモア≫だけが褒められた成果だ。
刹那と俺だけでなく、大人げなくも三百一頭の激情の雷犬の群勢を使ったことすら水に流してくれている。物資を渡す連絡役を買ってでたらしい[Nora]さんとは、フレンド登録を交わすほどの顔馴染みだ。
ちなみに何故GLの俺が連絡役をやっているかは察してもらいたい。
「四十一って……どうしてそんなに増えてるんだよ。かなり助かるけど、むしろそこまでいきなりだと怪しいぞ」
具体的に陰謀だなどと騒ぐほどではないが、気にならないと言えば嘘になる。
そんなことを考えていると、アンダーヒルはゆっくりと目を閉じた。
「アルカナクラウン。地底地。アンフィスパエナ。終末戦団。地獄の厳冬。聖極天。キラーホェール。グラインドパイソン。クリスタル・ユニバース。GhostKnights。黄金羊。ジークフリート聖騎士同盟。強靭巨人。シャルフ・フリューゲル。○○○○近衛隊。最後の星屑。ソロモンズ・シンクタンク。永久凍土。天龍騎兵団。ティンクルハート。天恵の果実。トキシックバイト。TRIAL。竜乙女達。罠々々民。螺旋風。弱巣窟。白兵皇。HALO。陽炎の蜉蝣団。超越種研磨機関。フルーツカスケット。五芒星団。ミステリアス・レイディ。メビウスリング。終焉の邪龍。らっぷるりっぷる。雨天鶴。レティクル・スカーレット。ロードウォーカー。戦目の獣耳。以上の四十一のギルドです」
アンダーヒルは何も見ることなく該当するらしいギルドの名前を全て言ってのけた。コイツに限っては今さら驚くほどのことでもないが、お前はコンピュータか。
隣のニャルラトホテプ改めフェレスも感心したように黙りこくっている。
そしてアンダーヒルが羅列したものを改めてみると、聞き覚えのあるギルド揃いだ。特殊なギルドもいくつかあるようだが、それでもやはり有名なのは既に攻略参加している四ギルドだろうな。
「理由は恐らく先日のハロウィンの準強制参加イベントの結果、何か思うところあったのでしょう。少なくとも私のデータベースと今日までの調査の結果、敵対勢力≪道化の王冠≫及び≪ドレッドレイド≫との関わりの可能性が比較的高いのは≪地獄の厳冬≫≪終焉の邪龍≫の二つのみです」
「あるのかよ」
「この二つは発足当時からPKを謳うギルドですので関与を否定はできません」
「PKギルドか……。スペルビアから多少話は聞けるかもな」
「ええ。しかし、否定しきれないだけで即戦力を切り捨てられるほど余裕はありません。故に、あなたへの報告と共に意見を仰ぐようスリーカーズから承っています」
「あの人、普段俺の意見無視するくせに肝心なところだけ俺任せかよ……」
たぶん根っこのところは、GLとしての責任がかかってくる重要な懸案では俺を立ててくれていると言うことなのだろうが。
「一度そのギルドのGL全員と直接話す方が早いかもな……」
「アプリコット・ドナドナ・ガウェインはどうしますか?」
アンダーヒルは、まるで「その意見は想定内です」とばかりに間髪容れず、すぐに言葉を投げ返してくる。
「……新規参入と俺たち四ギルドで分けてさ。何だかんだアプリコットとドナ姉さんも頭も勘もいい連中だし」
残念なことに性格まで含めると、頼みの綱はガウェイン一択なのだが。
「それぞれのギルドから一人ずつ補佐兼護衛役をつけることにすれば、各者のブレーキの同席も自然だし。どうせその時はお前も来るだろ」
「はい。ではスリーカーズと共に検討し、後日報告します」
そう言いつつ、アンダーヒルはウィンドウを開いて高速で文字を打ち込み始める。どうせ記憶にも残っているのだろうが、記録にも残しておくのだろう。
一分と経たない内にウィンドウを閉じたアンダーヒルはぬるくなってしまったらしい紅茶をじっと見つめながら、
「フェレス、レナ。少し席を外していただけますか」
俯いたままそう言った。
俺だけに用があるってことか……?
「?」
「了解。ククッ」
疑問の表情を浮かべるレナに対して、全てわかっているかのように笑うニャルラトホテプはアンダーヒルの“お願い”に従って素直に立ち上がった。
「行くヨ、黒イノ」
「黒いのだと?」
レナは見え見えの挑発をするニャルラトホテプを睨み付けたが、すぐに冷静になったのかアンダーヒルを一瞥し、
「終わったら呼ぶがよい、我が主よ」
スタスタと歩み寄ったレナに油断していたのか、易々とツインテ触手を掴まれたニャルラトホテプは転びそうになりながらも引っ張られていく。
「シイナ」
アンダーヒルは俺の名を呼ぶと、ティーカップをテーブルの上に置いた。かと思うと、次いで立ち上がろうとした俺の腰掛けている椅子に歩み寄ってくる。
「今日の予定は何か入っていますか?」
隣に立って俺を見下ろしながら、そんなことを訊ねてきた。
「予定?」
「……はい」
「……確か特にはなかった……かな」
「では少し付き合ってください」
「は?」




