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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第一章『デッドエンドオンライン―豹変世界―』
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(3)『頭おかしいんじゃないの』

賢き仲間を新たに迎え、寓意の船は動き出す。

黒き隠者と強かな魔術師は導きの徒となりえるか、不安は尽きずとも進むしかない。

「入団申請書……?」


 思わず何のことかわからず、俺はぼんやりとそれを見下ろす。


「はい。私とスリーカーズには≪アルカナクラウン≫に入る希望、あるいは必要性のどちらかがあると言えば理解できますか?」

「おい、何かその言い方、微妙どころか普通に引っ掛かる言い方だぞ、それ……」

「どうぞ」


 アンダーヒルは受け取りを促すように申請書の巻物(スクロール)データをさらに俺の方に差し出してくる。

 ていうかこの申請書って礼儀として使用を推奨されてはいるけど、別になくてもギルド加入はできるという謎の代物(アイテム)だぞ。今さら律儀に使う奴がいるとは思わなかったってぐらいの。

 とりあえずGLである俺に差し出してきているのだろうそれを受け取って開くと、二人のプロフィールの一部が添付されていた。

 その一項目に目が吸い寄せられる。


『単独到達勲章数:50個』

『単独到達勲章数:113個』


 1 1 3 個 !?

 単独到達勲章というのは、文字通り巨塔(ミッテヴェルト)の単独到達階層の数を示している。つまりプレイヤー一人だけのダメージでボスモンスターを倒したフィールドを確認するための勲章だ。

 一部、第六層『蜘蛛竜の巣窟ドラゴン・ドラッグネット』などのようなボス不在フィールドもあるが、その例外もクリア条件を一人だけで満たせば単独到達勲章が貰えるため、つまりは計500個。

 しかも入手条件はそれだけでなく、そのクリア階層以下の全ての勲章を持っていなければ貰えない鬼仕様だ。一応、後で足りない下階層の勲章も手に入れれば同時に条件を満たしている全ての勲章が手に入れられるため、鬼畜やら気違いやらで評されてはいないのだが。

 そして、俺を初めとする≪アルカナクラウン≫の面々も、勿論この勲章をある程度取得している。『単独で塔を第50層まで攻略し、かつ現ギルドメンバー全員に認められ許可された者』なんて条件を入団資格にしておいて現ギルメンが持ってませんなんてことになれば当然評判はがた落ちになるからだが、普段から塔の攻略最新層だけはギルドで攻略するようにしている俺たちはこの勲章を別に取りに行かなければならない。

 一度攻略したとはいえ、単独(ソロ)プレイと複数(パーティ)プレイではソロの方が難易度が跳ね上がるのは、全くゲームに触れたことがない人間でもわかるだろう。

 人数によるモンスターのパラメータ補正がないFOでは、人数が多ければ多いほどボスの攻略は容易になる。元々がゲームバランス崩壊疑惑を通り越して、それが一般認識になっているレベルに難易度がぶっ壊れてる“巨塔(ミッテヴェルト)”だからこそそれで十分成り立っているのだが。


 前置きは差し置いて本題に戻るが、現在アルカナクラウンに所属している四人の単独到達勲章の数はそれぞれ、

 [シイナ]128個

 [竜☆虎(りゅうこ)]139個

 [†新丸†(あらたまる)]111個

 [刹那(せつな)]89個。

 ちなみにリュウが一番多いのは【剛力武装(カーム・バイオレンス)】による双剛大剣(パニッシャー)という戦闘スタイルの関係上、一人でも大ダメージを期待できるためで、刹那が少ないのは逆に双短剣(ダガー)ではそれが期待できないからだ。

 これらと比べても113と言うのが、どれほどの数字かよくわかるだろう。全体で見ても十分トップランカーレベル。俺やリュウ、シンと同じベータテスターでもかなり数は限られてくるはずだ。

 スクロールを改めて見直すと、113層分を単独クリアしたのは“物陰の人影(シャドウ・シャドウ)”ことアンダーヒルの方だった。


「アンダーヒル、お前ってベータテスターだったか?」

「いいえ。私は本サービス開始当日同時刻に初めてログインしました」


 口元まで包帯で覆われているのに、まるでアナウンサーのようにやけに綺麗に響く声でアンダーヒルはそう答えた。

 俺は軽く束ねたスクロールを、『現ギルドメンバー全員に認められ許可された者』という入団資格の条件を満たすために刹那に回す。

 それをチラッと一目見た刹那は一瞬息を呑み、


物陰の人影(シャドウ・シャドウ)、アンタ頭おかしいんじゃないの?」


 まったくもって同意見だが、仮にも初対面の相手によくそんなことが言えるもんだ。こいつの傍若無人もとい暴虐不尽っぷりはいつものことだが。


「まあいいわ。こんな事態になってまで、戦力を選り好みできるほど余裕無いもの。()()、二人とも歓迎するわ」


 刹那は何処となく視線を伏せてそう言いながらスクロールを律儀に巻き直すと、ソファーに座っているリュウの膝に放り投げる。

 リュウがそれを開くと、そのソファの後ろに回ったシンも身を乗り出して二枚の申請書を覗き込んだ。


「ほう、なるほど。これはスゴいな。最低条件は満たしているし、()()()()んじゃないか?」

「僕も同意見かな。実際、実績は申し分ないしね。というか元々僕はこっちから誘うつもりだったんだから、勿論O()K()だね」


 他三人の意見の一致を確認して、俺はさっきと同じ格好のまま、ジッと下から見上げてくるアンダーヒルに向き直った。


「それじゃあ、これからよろしく。アンダーヒル、トドロキさん」

「こちらこそよろしくお願いします」

()うてもウチはアンダーヒルのオマケみたいなもんやけどな。ウチらは明日の早朝から次層攻略に行くつもりやけど、ジブンらはどうするん?」


 トドロキさんは立ち上がり、全員と一回ずつ視線を合わせる。


「ちなみに今から行く、()う意見は勘弁な。初日は皆混乱するやろし、ギルドハウスから出るんは死ににいくようなもんやし。早朝以外の時間もあかんな。冷静さ取り戻しとるウチらみたいなのならともかく、昨日の今日でその辺うろつく連中は何考えとるかわからん。人と顔突き合わせんでも済む早朝から塔に(こも)るんが最善やな」

「私も行くわ。シイナは?」

「あ、うん。俺も行くよ」


 刹那に続いて俺も同意を返すと、シンとリュウが何故かこれ見よがしに腕を組み、ソファに身体を沈み込ませた。


「二人は来ないのか?」

「ふむ……。いや、まぁ、行くのは別に構わないんだが、早い内に(しか)るべき相手に声をかけておこうと思ってな。まずは二百人のベータテスターからだ。どう考えても即戦力がたくさんいた方が有利だろう?」


 リュウがそう言うと続けてシンが、


「明日はそれで動くつもりだったんだよ。でも塔攻略となるとね……やっぱりついていった方がいいかねぇ?」


 ベータテスターは、その半分以上がギルドのリーダーになっている。

 さらに同じベータテスター同士、ある程度の関係を築いている者が多い。上一人を押さえれば下はほぼ全員がついてくるだろうから、規模によっては大量の戦力が手に入るだろう。


「むしろ塔攻略よりも優先事項はそっちの方だわ。シンとリュウがやってくれるなら助かるけど、二人だけで大丈夫?」

「おいおい、僕もリュウもお前より高レベルなんだぜ、刹那。心配する方が失礼ってもんだ」

「ううん、そっちじゃなくて、私よりフレンドユーザが遥かに少ない二人だけで無事に二百人回れるのかなって思って」


 意趣返しのつもりかこの女ァッ、とリュウとシンの心の声が聞こえてくる気がした。特に刹那からは死角になっている右脇腹の辺りで力強く握られた拳の辺りが、その心情をよく表しているようだ。

 そしてその時、俺の後ろに立っていたアンダーヒルにくいくいと袖を引かれて振り返ると、


「現在高レベルのベータテスターは百九十六人です。二人はログインしておらず、一人は既に『自演の輪廻デッドエンド・パラドックス』の影響を受け、一人は43日前にアカウントを削除しています。有力な情報だと主観判断しましたが、いかがですか?」

「え、マジか。もうレベル1まで降格(ドロップアウト)させられたヤツがいるのかよ」

「はい。肉眼で確認いたしましたので、間違いありません」

「ん? 肉眼で?」


 聞き返した次の瞬間、瞬く間に半透明の無数のウィンドウが展開され、アンダーヒルの上半身を覆い隠すほどに広がった。


「な、何だコレ……」


 思わず怯んで後ずさる。


「通称“アンダーヒル・セキュリティ・システム”や♪」

「その通称で呼んでいるのはあなただけですよ、スリーカーズ」


 トドロキさんと謎の遣り取りを交わしたアンダーヒルは、無数のウィンドウに視線を通しながら坦々とした口調で報告を始める。


(ハカナ)による声明直前、彼女に決闘を申し込んだ天浄天牙(てんじょうてんが)というプレイヤーです。戦闘時間およそ2分35秒。その時点で既に“自演の輪廻デッドエンド・パラドックス”の影響下にあったようです」

「あの天浄天牙(てんじょうてんが)がやられたのか?」

(ハカナ)相手なら納得だがな」


 シンとリュウが口々にそう言い、(ハカナ)の強さを知っている俺と刹那も同意するように黙って頷く。

 天浄天牙(てんじょうてんが)はある意味有名なベータテスターだ。

 筋肉質の大男のアバターを使っていて、名前からしてさることながら向こう側に学ラン姿でも彷彿とさせるような痛々しい言動に、使っている武器は〈*聖剣X(エクス)カリバー〉だの〈*天地無双(てんちむそう)極滅(きょくめつ)〉だの〈*虚空殲刃エンドレス・ヴァニティー〉だのそれはもう名前重視の武器ばかりを使用というある種の猛者(もさ)だ。

 下克上というものに並々ならぬ根性(プライド)を持っていて、自分より(色々な意味で)強いプレイヤーを見かけると昭和の道場破りばりの剣幕で決闘を申し込んでくる。

 俺も前は結構挑まれていたのだが、決闘を拒否しようとするとやたら面倒くさくてイライラする挑発をしてくる上、いざ決闘を受けてこっちが勝つと、三日も経たない内に再戦を申し込んでくる。

 一度大人げなくキレたことがあり、逆に二週間近く毎日こっちからしつこく申し込んでやると、それ以降ぱったりと俺には近づかなくなったのだが。


 アンダーヒルは静かに隅々まで見ていたウィンドウをさっと払うような動作をした。その瞬間、無数に開かれたそれらが瞬く間に消えてゆき、アンダーヒルは再び俺の顔を見上げてくる。


「現在確認済みの被害者(デッドマン)は三名ですが、他にも複数名のプレイヤーがPKによってレベル1まで降格している可能性があります」


 PKと言うのはPlayer(プレイヤー)Kill(キル)の略で、つまりはプレイヤーによるプレイヤーの殺害である。


「ということは、天浄天牙以外にも、(ハカナ)の言ったルールを聞いてから、少なくとももう二人もやられたってことか」


 あんな狂ったルール下でもうPKできるって――――()()()()()()()()()()()

Tips:『プレイヤープロフィール』


 ステータスなどとは扱いが全く異なる、誰でも閲覧することのできるプレイヤーの公開情報。プレイヤーネーム・性別・種族・各武器熟練度・決闘回数・決闘戦歴・所属ギルド・開放フィールド・巨塔の単独到達勲章数・所有NPC・現在の装備品一覧・グラフィックデータ・一言自己紹介の他、PK記録・ギルド除名記録・所有NPC辞職記録等不名誉なものまで記載されている。

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