表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第五章『0と零―無効の能力―』
200/351

(23)『ハロウィン・後編』

 魔法少女(アルト)が部屋に引きこもってしまったので、椎乃とミストルティンだけ訓練をつけて午前を過ごし、その昼過ぎ、≪アルカナクラウン≫の門戸を叩いた人物がいた。


「天国!? ここは天国なのよね! リッちゃんもいないみたいだし、お姉さんはっちゃけてもいいのよね、わーい!」


 ≪竜乙女達(ドラグメイデンズ)≫のGL(リーダー)であり、真性GL乙女(レズビアン)のドナドナと――


「おおお、お姉様、シイナお姉様! その格好は私へのご褒美でしょうか!? いちごは嬉しいです! もう死んでもいいくらいなのです、はぁはぁ……」


 竜乙女達(ドラグメイデンズ)戦闘隊(アサルト)副筆頭であり、同じく真性GL乙女(レズビアン)のいちごタルトである。

 明らかにS級危険指定のこの二人を果たして入れていいものだろうかと全力で迷っていたところを椎乃が勝手に開けてしまった、という悲劇的な展開に見舞われたのだった。


 「え? ハロウィンって可愛い子にイタズラしてもいいっていうイベントでしょう?(注:違います)」と一番重要な最後の注意事項を無視して手当たり次第に過激なスキンシップをとろうとするドナ姉さんを、「ボクの仲間(ハーレム)に手を出すなんざ百万年早いんですよ!」と奇跡的な気まぐれを起こしたアプリコットがその場のノリで取り押さえた。元々別の用件で来ていたらしく、ドナ姉さんも少しアプリコットと遊んだだけですんなり引き下がったのだ。

 そして「いちごタルトにはシイナの腕一本与えとけば大人しくなるんじゃない」と人の身体を勝手に取引に使う理不尽カウガールの一言で、事態は何とか収束した。

 いちごちゃんが右腕にくっついてくるせいでかなり暑いが。


「それで今日は何の用?」


 俺の左側に座る刹那が、対面に座るドナ姉さんに問う。

 ドナ姉さんの隣には「とりあえず誰でもいいから女の子を両側に座らせて!」という要求を押し通されたため、雪精霊(アンダーヒル)吸血姫(アプリコット)が座っている。最初は椎乃が座ってもいいと言っていたのだが、「せっかく来たんだからこっちの娘がいい」というので仕方なくアンダーヒルがそこに腰を下ろしたのだった。

 ちなみにドナ姉さんの姿は戦乙女(ヴァルキュリア)、いちごちゃんが花精霊(ブロッサム)。どちらも種族として確立されている姿だった。いちごちゃんが花というのには何処か納得せずにいられない。

 百合だし。


「今日は確認と所用で来たのよ。あなたたち≪アルカナクラウン≫もやるんでしょう? 三時から始まるキャプチャーイベント『ジャック・オ・ランタン』♪」

「あー……そんなのもあったわね」


 キャプチャーイベント、というと一番最初に思い出すのは『玄烏(クロガラス)』だ。基本的に面倒な相手の場合が多い。

 『ジャック・オ・ランタン』と言うからには、やはりあのオレンジ色の化けカボチャを浮かべるわけだが、あれがモンスター化でもするのだろうか。


「やるわよ」

(即答!?)


 俺はまったく概要を知らないのだが、口振りからして刹那は知ってるみたいだな。


竜乙女(うち)はお姉さんとアルトちゃんと詩音ちゃんといちごちゃんで出たいの。こっちから訓練を頼んでおいて悪いけれど今日一日だけ貸してもらってもいい?」

「別にいいけど……アルトは外に出たがらないかもしれないわよ?」

「あら? どうして? そういえばアルトちゃんは何処にいるの? せっかくお姉さんが来てるのに」


 きょろきょろと見回して、アルトがいないのを確認して再び向き直ったドナ姉さんに、隣に座っていたアンダーヒルが、


「ドナドナ。アルトは詩音によって精神的苦痛を強いられ、現在自室に鍵をかけ閉じ籠っていますが」


 言葉を選ぶことなくそう言い放った。途端、後ろの丸テーブルで椎乃がガタンとデコを天板に打ちつける。


「それは大変ねっ。今からお姉さんが行って慰めてくるわ♪」


 目をキラキラさせながら立ち上がったドナ姉さんは、ぎゅうっと拳を握ったかと思うと、何処の部屋かも聞かずに階段をエントランスホールの方に降りていった。

 階はあってる。


「刹那、そのキャプチャーイベントってどんなクエストなの?」


 いちごちゃんの手前、言葉を取り繕ってそう訊くと、


「強いて言うなら大人数合同のキャプチャーイベントね。トゥルムにある全ギルドに参加権があって、四人がギルドの代表として出るの。クリア条件は普通のキャプチャーと同じよ。出現するモンスターを捕まえるか倒すこと。ただしこのクエストに関しては倒すのは諦めた方がいいわ。やってらんないから」

「敵はそんなに強いの?」

「強いというかもうアレはチートね。攻撃なんかまともに当たりゃしないし。去年も捕まえるのがやっとだったもの。ただしこのクエスト中は被撃無効(ダメージキャンセル)が働くから安心して追いかけてね♪ あとウォーミングアップはしといた方がいいわ」

「ウォーミングアップ……?」





(ってこういうことかよ!)


 (トゥルム)を徘徊するモンスター『ジャック・オ・ランタン』を捕まえる。刹那から聞いていた限りではモンスターが多少強いのと特殊な条件が付いてる以外は普通のキャプイベかと思っていたのだが。


「生きたい逝きたい♪ ケケケケケ……」


 三時半を過ぎた頃、金切り声でそう叫び散らしながら逃げるパンプキンヘッドの背中を、俺はひたすら追いかけていた。

 白と灰色の縞模様(ストライプ)の囚人服に赤茶けたボロボロの黒マントを羽織ったカボチャ頭(パンプキンヘッド)との追いかけっこは十五分間も続いていた。

 その間、俺はヤツにただの一度も触れられていなかった。


『Target Capture "Jack-o'-Lantern"』


 ただ1体のモンスター、『ジャック・オ・ランタン』を捕まえるキャプチャーイベントなのだが、それには7つの条件付けがなされている。


 一つ目はギルドの代表者四人による参加。≪アルカナクラウン≫からは足に自信のある俺と刹那、アンダーヒルとサジテールが出ることになった。

 二つ目は被撃無効(ダメージキャンセル)。クエスト中は如何なる攻撃や事故によるダメージも、プレイヤーのLPを一ドットたりとも削ることはない。

 三つ目はクエスト中は街を閉鎖する。出ることも入ることもできない。ただし街同士の移動のみ空間移動施設(テレポート・ポート)で可能だが、街から出た瞬間にイベントへの再復帰はできない。

 四つ目は行動制限。クエスト中は、ギルドの代表者以外のプレイヤー及びNPCはギルドハウスから出ることができない。イベント開始時刻にギルドハウス内にいなかったプレイヤー及びNPCは、ギルドハウス内に強制転送される。

 五つ目はスキル制限。クエスト中は【仮装変奏会(ハロウィン・パーティ)】以外のプレイヤーの使用する如何なるスキルも適用されない。

 六つ目は罰ゲーム。イベント終了の日没までに代表者が『ジャック・オ・ランタン』に触れることができなかったギルド及びギルドメンバーには何らかの罰ゲームが課せられる。これは代表者を選出し、クエストに参加しなかったギルドも適用される。

 7つ目はクリア報酬。『ジャック・オ・ランタン』を捕獲あるいは討伐したプレイヤーの所属するギルド及びギルドメンバーには何らかの報酬が与えられる。

 罰ゲームも未定、報酬も未定なんてイベントは初めてだが、去年の罰ゲームが無敵仕様のNPCモンスター、『複雑戒鬼(セキュリティ・オーガ)』との一時間単独戦闘だったらしい、なんて話を聞かされたら、参加以外考えられなかった。


(トップクラスの上位ギルドとしての意地もあるしな……)


 今のところ、≪アルカナクラウン≫と≪竜乙女達(ドラグメイデンズ)≫の連合パーティは、その意地もある程度他ギルドにアピールできている。アンダーヒルのおかげで先行してどのギルドよりも速く、見つけることができたのだ。

 俺と同じくこのイベントに参加するのが初めてだったアンダーヒルは、刹那やドナ姉さんから詳細なルールを聞いた途端、さすがと言うべきか信じられない作戦を考えつき、速やかにそれを実行したのだ。

 その作戦とは、かなり多くのギルメンを保有する≪竜乙女達(ドラグメイデンズ)≫に協力を持ちかけ、街に散らすことで【言葉語りの魔鏡台(ミラー・オブ・テラー)】の死角(デッドスペース)を塗り潰し、イベント開始時の能力不適用化(スキルキャンセル)強制転送(テレポート)の一秒のタイムラグを利用して、『ジャック・オ・ランタン』の初期出現位置を特定したのだ。

 作戦立案の能力も驚いたが、一秒の間に信じられない数の監視カメラ(ミラーウィンドウ)を確認する能力の方も驚きだ。


「シイナ、ボーッとしないでください」


 偶然俺の配置されたエリアの近くに出現したのを確認したアンダーヒルは全員に位置を教え、誰よりも早くパンプキンヘッドを追いかける俺と合流した。

 普通じゃない。


「ケケケケケ……」


 前を走るパンプキンヘッドが狭い路地の中に入っていく。


「逃がすかっ……!」


 俺が路地に飛び込もうとする直前、背後のアンダーヒルがシャッと光る何かを投げ、


「危ない、シイナッ!」


 俺の腕を掴んで強く引いた。その瞬間、路地から飛び出してきたパンプキンヘッドの振るう刃渡り三十センチの大鉈が鼻先至近距離のところをかすめた。


「ケケケケケ……!」


 そのまま反対側の路地へ入っていくパンプキンヘッドをアンダーヒルが追う。

 ハッと我に返って、再び追いかけ始める時、足元に落ちていたアンダーヒルの投げたモノを見て思わず息を呑む。

 それは割れた鏡だった。

 アンダーヒルは投げた鏡に一瞬映った路地の向こうを見て俺を引き止めた、ということだ。常人離れしすぎだろ。

 しかもダメージを受けない状況下、アンダーヒルは俺の受けるだろう痛みを心配して止めたのだ。

 あそこで俺がその身で鉈を受けていれば、一瞬パンプキンヘッドの動きが止まり、その時に捕まえられたかもしれないのに。


「サンキュー、アンダーヒル」


 追いついて礼を言うと、アンダーヒルはわずかに目を逸らして、


「ど、どういたしまして……」


 そう呟いて顔を伏せた。

 が、すぐにパッと顔を上げてパンプキンヘッドを見据える。


「シイナ、このまま追ってください」


 そう言うと、途中の十字路を右に曲がっていく。


「お、おい、アンダーヒル……!」

「ケケ……」


 一瞬、後ろを振り返った俺を小馬鹿にするように笑うパンプキンヘッドにイラッときて間の距離を詰める。


「そろそろ捕まってくれよ!」


 全力で走りながら、腰に手を遣り、


 パァンッ!

 早撃ち(クイック)を前に走るパンプキンヘッドのカボチャ頭(パンプキンヘッド)に放つ。


 ギィンッ!

 パンプキンヘッドは、こっちを振り返りもせずにバックハンドで鉈を振るい、空中の銃弾を斬り落とした。


(あの野郎……!)

「イケない行けない♪ ケケケケケ……」


 歌うようにそう言ったパンプキンヘッドは突き当たりを右に曲がり、その先にある路地の出口に向かう――が。


「待ってたぞ、カボチャ野郎」


 路地の出口の死角から、ドナ姉さんに説得されて参加を決めたアルトが鎖を振り回しながら姿を現した。


「ケケ……」


 立ち止まったパンプキンヘッドは間髪入れず、壁に飛びついた。


「逃がすかよ!」


 アルトが鎖鎌を投げる――が、


「ケケケケケ……!」


 パンプキンヘッドは、手に持っていた鉈をアルト目掛けて投げつけた。


「なっ、ちっ……!」


 アルトは忌々しそうに鎖を引き、鎖鎌で空中の鉈を弾き落とす。

 その間にも、パンプキンヘッドは反対側の壁に飛びつき、それを繰り返して昇っていく。


「以外と似合ってんぞ、凜ちゃん」

「キメェからちゃん付けやめろっつってんだろうが」


 軽口を叩きあいながら、俺もアルトも背中の翼を広げ、すぐにその後を追う。

 自分の翼ってモノを広げて飛ぶのは初めてだ。最初が獣人(ビースト)で、次が人間(ヒューマン)だからな。淫魔(サキュバス)なんて種族はないが、飛べることを今は感謝しよう。


 バッ!


「「え゛」」


 その瞬間、片手にまだ鉈を携えたパンプキンヘッドが飛び降りてきた。


「ちっくしょう!」


 アルトが飛び退き、ワンテンポ遅れて、俺も翼を歪めて飛び退く。


「ケケケケケケケケケケ……!!!」


 その時、視界に白い人影が映り、上向きに飛ぶ俺とアルトとすれ違う。


「避けれるものなら避けてみなさい。受けられるものなら受けてみなさい」


 彼女にしては挑戦的な台詞を吐きながら、【コヴロフ】から放たれた大口径の銃弾は、瞬く間に掲げられた鉈を割り砕き、パンプキンヘッドの頭をカボチャ片に分解した。

 本日二つ目ですw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ