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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第五章『0と零―無効の能力―』
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(7)『輪唱曲独唱‐カノニック・アリア‐』

「シイナ、先行した地獄の猟犬(ヘルハウンド)が敵影を捉えた。女……いや、少女である。刹那殿と交戦中のようだが、流れはその敵にあり。至急救援を!」


 何匹倒しても湧いて立ちはだかってくる有翼の悪魔モンスター『夜鬼(ナイトゴーント)』に苦戦を強いられていた時、耳をピクピクと揺らしたレナがそう伝えてきた。

 直後、襲い掛かってきた夜鬼(ナイトゴーント)を黒い大きな爪で縦真っ二つに引き裂いて、視線を送ってくる。


「名前はッ?」

「所詮犬の目である。文字を文字としては理解できるはずがなかろう!」


 レナがそう言ったと同時にネアちゃんがリコとアイコンタクトを交わし、


「シイナさん! ここはいいですから、刹那さんのところに行ってあげて下さい!」


 こっちを振り向かずにそう言ってきた。


「でも――」

「つべこべ言う前に早く行け、シイナ! ネアは私とケルベロスが守ると言っているのだ。言ってはいないが暗にそう言いたいということだ、そのぐらい分かれ!」


 結局言っているのか言っていないのかわからないが事実だけ見れば言っていることになるややこしい台詞を叩きつけてくるリコに後ろから突き飛ばされ、夜鬼(ナイトゴーント)二匹のちょうど間に転がる俺。

 信じられないほどリスキーな所業に怒りを覚える暇もなく、左右から薙ぐように襲い掛かってきた痩せ細ったようなシルエットの長い腕を紙一重で前に(かわ)す。

 そこにはちょうど、まるで(しつら)えたように夜鬼(ナイトゴーント)の間をまっすぐ先へと進む通路のような隙間がぽっかりと空いていた。


「ちくしょう無茶苦茶な……」


 思わず毒づきかけて、そんな暇はないと思い直す。背後の二匹を倒して三人の元に戻ろうとすれば、確実に目の前の敵に殺られてしまう。


(行くしかないか……)


 【魔犬召喚術式バスカーヴィル・コーリング】の発動を呟く。

 呼び出すのは当然、騎乗型最速で戦闘能力をも持ち合わせた犬型モンスター、激情の雷犬(エクレール・ラルム)だ。

 それを二十一匹。

 十分な戦闘の余力を残しつつ足一匹を含めた戦力が、立ち並ぶ夜鬼(ナイトゴーント)たちの間を埋めるように姿を現す。


「喰い殺せ」


 二十匹にそう命じ、飛び乗った一匹の白い毛並みを撫でつつ呟く。跳べ、と。

 次の瞬間、バチバチと帯電したその雷犬(ラルム)は、一番近いところにいた雷犬(ラルム)の上に、半ば飛びかかるような勢いで飛び乗った。いや、実際には触れていない。同電荷に帯電した雷犬(ラルム)は磁石の同極同士が反発するように宙に浮き、その反発力を利用して一気に夜鬼(ナイトゴーント)の群を飛び越えた。

 振り返ると、一部追ってこようとした夜鬼(ナイトゴーント)がネアちゃんの魔法による指向性の光線に薙ぎ倒される光景が視界に映った。


(ゴメン……すぐ戻るから……!)




「少々強引になってしまったが、仕方あるまい。この中ではシイナが救援任務には向いているからな」


 リコがそう言って、両肩から伸びたワイヤーアームズで二匹の夜鬼(ナイトゴーント)の胴体を刺し貫いた。


「しかし状況が状況だとて我が主も愚かなり。刹那殿の態度を見れば()の想いは瞭然であろうに……」


 ズキッ――。

 レナの呟きに、思わず魔法詠唱を止めてしまう。わかっていることなのに。改めて言われると、どうしても――。


「ネアッ!」


 リコの声で我に返って背後を振り向くと、夜鬼(ナイトゴーント)の目も鼻も口もない顔が至近距離から覗き込んでいて、その病的な細い腕を振り上げていた。

 全身から血の気が引くのを感じた――――その瞬間。


輻射振動破殻攻撃バイス・フラグメンテーション!!!」


 全長二メートルはある巨体を上から押し潰すように、リコの赤く発光した右腕が夜鬼(ナイトゴーント)を黒い肉片と赤黒い血の山に変える。


「ボーッとするな、ネア! 主戦力の貴様が腑抜けていては暗に任せられたこの場が立ち行かん!」

(そうだ……今はこっちに集中しなきゃ……。今の私はネアだから、戦えるんだから、戦わなきゃ!)


 吹っ切れたわけではないけれど、心の整理がついた。自分を切り換えて――私は……水橋苗でもなければ、もう保護されるだけだった『革天使(レザー・エンジェル)』でもない。アルカナクラウンの『輪唱曲独唱(カノニック・アリア)』だから……!


天使種能力(エンジェルスキル)……【天能の慧眼(キャピタル・アイ)】」


 このスキルは、できる限り使わない方がいいとアプリコットさんとユウちゃんに言われたスキル。これを使った私は大抵無茶をしてしまうから。


黒鉄(くろがね)に宿る武神の霊よ。我が仮初めの刃に宿りて敵を()て! 猛き英霊の円環舞エインヘルヤル・サークルロンド!」


 空気が熱を持ったかのように歪み、存在が浮き彫りになるように大量の黒鉄剣が現れ、周囲を回転し始める。


「神罰を意味する雷の槍よ。闇の(とばり)を引き裂き、その陰に潜みし罪人に裁きの一閃を! 大いなる粛清の槍パニッシュメント・ホーリーランス!」


 頭上に現れた三叉戟が瞬く間に天上に昇っていき、まるで雲を払うかのように、蒼空の穴を空けた。

 詠唱の間、露払いをしていたリコとレナに頷いて見せると、その場で一回転し、全ての敵を視認する。

 そして息継ぎとほぼ同時に、


穿(うが)て」


 無数の黒鉄剣が放射状に――


(つらぬ)け」


 無数の稲妻が上から縦に――

 全ての夜鬼(ナイトゴーント)を刺し(つらぬ)いた。

 しかし、高威力広範囲の魔法とはいえ、これで倒せるほど巨塔(ミッテヴェルト)三百五十層クラスは簡単じゃない。

 だから、続ける。

 黒鉄剣が、稲妻が、夜鬼(ナイトゴーント)の群を怯ませている間にも。


「母なる大地よ。その身を以て邪悪を飲み込み、害たる全てを浄化せよ! 崇然たる土の棺カスケット・アンダーグラウンド!」


 ミシミシと地響きが鳴り、泥でできた巨大な手が弱った夜鬼(ナイトゴーント)を捕らえ、地中に飲み込む。

 それら全ての魔法攻撃が、リコやレナ、そして激情の雷犬(エクレール・ラルム)に影響を与えることはない。

 本来なら標的を決める際、使う魔法によって目標捕捉(ターゲットロックオン)の方法は異なるが、【天能の慧眼(キャピタル・アイ)】はその全てを目視捕捉(シー・ポインティング)に統一するスキル。

 魔力(MP)消費が激しくなる分、効率が格段に上がる。短時間で、強力な魔法を撃てる。何より誤射がないから。


(負けない……! 私はもう、足手まといじゃないんだからッ!)


 目にかかる負担で頭がずきずきと痛み始める。

 でももう少し、もう少しだから……。

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