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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第四章『ドレッドレイド―咬み付く脅威―』
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(29)『恥ずかしかったのだ』

「む? どうした我が主よ。何故、鳩が対艦砲を食らったような顔をしている」


 それは消し飛んでるけどな。あと忘れてたが、ずっと前にシイナって呼べって言ったの無視してるだろお前。


「……マジでケルベロスなのか?」

「ケルベロスではなくレナ・セイリオスだが、客観で言えばケルベロスと同一の意志を持つ個体。今の我は『左』である」

「その格好は何なんだ?」

「格好?」


 キョトンとした顔で自分の身体を見回し、その場でくるりと後ろを向いて身体を確認したケルベロス改めレナは顔だけで振り向き、流し目を向けてくる。

 その格好はボロボロの肌着のみだったのだ。以前テレビのニュースで見た紛争地域の子供にも見えるが、対して身体の方は傷ひとつなく病的に純白の肌が際立って違和感を増長している。


「インナーのようなものだ。こういう仕様になっているだけで装備を着ければ目立つことはないから気にすることもあるまい。どうしてもと言うなら着替えても構わないが」

「いや、いい。それよりお前――」


 そう、格好よりもまず気にするべきことがあるだろう……?


「――女だったのか……?」


 レナは面食らったような顔をして、


「ついに血迷ったか、我が主よ」


 と眉をひそめて、思いっきり怪訝な顔をして低身長のクセに見下ろすような視線を向けてきた。

 主人に向ける目じゃねえだろ、ソレ。しかも『ついに』ってなんだよ。


「我の何処が女に見えると言うのだ」


 心底めんどくさそうな態度はともかくとして、刹那やアンダーヒル並みにつやつやで角のない髪に、見るからに柔らかそうなきめ細かい肌。小柄な体躯に細っこい手足。子供のクセに腰のくびれまでくっきり出ているコイツが女以外の何に見えるって……?


「そもそも永遠を約束された我ら人外は子を成す必要などないが、意識の上で我は雄、男以外の何モノでもない」


 色々とありえんだろっ!

 どう見ても女にしか見えないクセに本人にその自覚がないだって!?


「何か不服そうな顔だな、我が主よ。ちゃんと下にもついておるぞ?」


 と肌着をめくりあげようとするレナを「いいっ! わかったからめくるなッ!」と全力で押し(とど)め、


「……じゃ、じゃあなんで名前がレナなんだよっ!」


 と何故かテンパり気味に訊くと、レナは主の無知を嘆くようなため息をついた。


「レナはドイツ名だ。古くより『再生』の意味を持つ神聖な名である」


 と説明してくれた。日本人にとっては紛らわしいことこの上ない名前だな。


「ちなみにセイリオスは天狼星(シリウス)の語源となった言葉。これも由緒正しい王族の証である」


 ドヤ顔で胸を張ってるところ悪いんだが……。それならどうして【群影刀バスカーヴィル】に封印されて、誰かに使役されるとこまで落ちてんのか訊いてもいいのだろうか。


「なんでこれまではずっと犬の形だったんだよ。もっと前から教えてくれたってよかっただろ?」

「そ、それは……」


 急に狼狽え始めたレナは、頬を朱に染めてチラチラと目を逸らした。

 何なんだコイツ。

 レナは両手の人差し指を突き合わせて、くるくると回しながら唇を尖らせ、


「恥ずかしかったのだ……。メガロポリスでリコを下せば真名を教えるなどと豪語して、挙げ句、爪牙容れずしてシイナに『無理だ』『大人しくしてろ』などと言われれば、こちらから言い出すことなどできぬ……」


 何コレ可愛い。

 いやもうこれ女の子だろ。


「ちなみにこの姿の時は他のNPCと扱いを同じくする。【群影刀バスカーヴィル】を装備さえしていれば、だが。常に存在を保つこともできるし、当然召喚に魔力を使うことも――ま、待てシイナ、我が主よ。なぜそのような怖い顔で詰め寄ってくる!」

「レナ、今まで戦い以外でお前を出した時に消費する魔力を回復するのに使った回復アイテムの総額を教えてやろうか?」


 憶えてないけどな。


「我が非は認めるが、あまり懐の狭いことを言わぬのも主の務めぞ」


 お、開き直った。

 不機嫌そうに頬を膨らませるレナの様子を傍から見ていたサジテールは、リコとレナを交互に見て、


「え? ナニナニ、WG。もしかしてML(こんなの)に負けたの?」


 リコを指差して、やたら楽しそうな無邪気顔を装ってそう聞き返した。

 当然、その発言に、


「貴様、AK! こんなのとはなんだこんなのとは! だいたい貴様とて私に負けていることを忘れるなよ!」


 と激昂するリコ。

 レナも殺気のこもった目でサジテールを睨み付け、


「それは貴様の関知するところではない。リコとは相性が悪い故、勝率が低いだけである。我やリコの絶対的な強さは量れぬ」


 吐き捨てるようにそう言った。


「アレは多人数戦だからノーカンでしょ。私ももうモンスターの枠に縛られてないから、不可能事象(できないこと)制限(ワク)がないんだよね♪」


 サジテールの言葉に触発され、リコが着脱式複関節武装腕バイス・ヴィジテーション・アームズを、レナが【群影刀バスカーヴィル】によく似た黒一色の小太刀二本を、さらにサジテールが金属弓を取り出した。

 俺の部屋で。

 第一次戦闘介入型NPC大戦勃発。

 世界に平和はあるのだろうか……。

 あるのだろうか………………じゃねえだろ、俺……!


「だからやめろってのお前――」


 ヒュンッ! ギュンッ! ザクッ!


「――ら……」


 風切り音に血の気が――引いた。

 振り返ると、背後の壁にサジテールの金属矢(ダーツ)、リコのピンセット・マニピュレーター、レナの小太刀が突き刺さっている。


(と、止めるとか……無理……!)


 気がつくと俺は部屋を飛び出し、三人だけを残して扉を閉めていた。

 背中の扉越しに部屋の中から聞こえてくる破壊音……その原因を考えるのすらイヤになり、思わずその場を立ち去った。

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