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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第四章『ドレッドレイド―咬み付く脅威―』
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(6)『朝食』

(眠い……)


 翌朝、二階ロビーで皆が各々朝食を摂る中、テーブルに突っ伏して眠い目をしきりに擦る俺がいた。

 結局ほとんど寝ていないのに、こんな時に限って早起きした悪魔(リコ)に五時半過ぎに叩き起こされ、今(七時)に至る。


「なんだ、朝っぱらからグルーミングなどして。猫でもあるまいし」


 何故か白米にジャムを乗せているリコが相変わらずな不遜な態度でそう言う。


「別に朝珍しい光景じゃないだろ」


 そもそも目を擦るのってグルーミングに入るのだろうか。ちなみにグルーミングと言うのは、猫が前足を顔に擦り付けるような行動の事だ。

 アンダーヒルとスペルビア、そしてアプリコットの姿はない。

 アンダーヒルは未だ目を覚まさず、スペルビアは理音(リオン)の話から出掛けたことがわかっている。アプリコットはまだ下のソファで眠りこけていた。


「おぅ、シイナ。どうかしたか?」


 朝っぱらからでかい声が頭に響く。仕方なく隣に目を遣ると――がしゃんっ!

 山盛りの食料の乗ったトレーを勢いよくテーブルに置いたリュウが椅子を引いて隣に座る。そして向かい側では同じく大盛りトレーを手にしたシンが椅子を引いた。


「身体がだるい、眠い」

「何か食えば目が覚めるぞ」


 すごい理論だな。

 リュウはそれに従い、トレーの上の()からコーンスープを()()ですくい、俺の前に差し出してくる。

 朝からよくこんなに食えるもんだよ、と今さらなことを考えつつ口を開けると、リュウがスープを絶妙な間隔で流し込んでくれる。やっぱり射音(シャオン)の作るコーンスープは旨いな。


「まるで餌付けだな……」


 リコがぼそっと呟くが、俺には何も言い返せない。傍から見ればただの事実だし。


「もしかしてシイナ、寝てないのか?」


 リュウからのスープ提供が終わると、シンが葉野菜を挟んだ箸を差し出してくる。


「あむ……んっ……ちょっとな」


 身体はまだ重いが、多少目は覚めてきたみたいだ。


「シイナ、口を開けろ」


 リコの声に振り返ると、リコがスプーンを差し出してきている。一瞬反射的に口を開けかけたが、そのスプーンに乗っているモノを見て頑なに口を閉ざした。

 ジャムご飯は要らん。

 リュウが機転を利かせて差し出してくれたロールパンを口に咥えながら身体を起こし、リコから顔を背ける。


「何故逃げる、シイナ」

(おえ)は今、ロールパ(ウア)ンを()()る」


 かなり無理のある方法でジャムご飯を回避すると、斜め前に座っていたネアちゃんと目が合った。

 少し呆けたような表情のネアちゃんは突然慌て始めたかと思うと、何を考えたかオムレツを三等分し、その一つをフォークで刺して、こっちに突き出してきた。


「ど、どうぞ……!」


 両目をぎゅうううぅっと固く閉じたまま、ぷるぷると震えている。


(く、食えと……?)


 気の置けないリュウやシンだったからこそ何の躊躇いもなくできたが、相手がネアちゃんとなると気恥ずかしさのゲージが振りきってしまうのですが……。

 ネアちゃんは恐る恐る目を開けると、フォークの先にまだオムレツがあるのを見て再びぎゅっと目を瞑る。

 食べるまで続きそうだな、コレ。別に俺への餌付け(?)は日課でも義務でもないのに……。

 仕方なくフォークの先のオムレツをつまんで口に放り込むと、三拍ほど遅れてパチッと目を開いたネアちゃんはわぁわぁと何故か慌てたふうに顔を赤らめ、フォークを握り締めながらその先をじっと見つめる。

 食べてよかったんだよな……アレ。

 気づくと、少し離れたところで食べていたトドロキさんはこっちを見て笑いを堪えるような表情で『和むわぁ』などと呟いているし、刹那はムスッと顔をしかめたまま頬杖をついて朝食を次々パクついている。

 二人とも行儀悪いぞ、と注意でもしてやろうと思ったが、さっきの俺以上にマナーの悪い食べ方はないなと思い直す。


「シイナ、三百五十層は何処がやるんだ?」


 お玉からコーンスープを飲んでいたリュウがそう切り出してきた。

 今日はまだ何も聞いていない。

 他とのコネクションを担当するトドロキさんに目を遣ると、


「今日はSPAが動くみたいやで」

「交渉まとまったんですか?」

「ウチは直接話し合いに参加したワケやないから詳しくは知らんのやけどな。やらへんかったら≪アルカナクラウン≫≪竜乙女達(ドラグメイデンズ)≫≪シャルフ・フリューゲル≫の三ギルドでSPA潰しにかかるで~()うたら日中に了承したらしいわ」

「ドナドナを呼べ」


 あの人のことをドナドナと呼ぶのは初めてだよ、ちくしょう。

 俺とアプリコットに何の了承もなくギルドの名前を勝手に使うな。しかも脅しに。


「まあウェイン君はもうやるって決めとったらしいんやけどな。内部に渋っとるヤツがおったらしくて話し合いがまとまらんかったらしいわ。いい加減冷静になって考えればゲームデータなんてしょーもないモンを守るより現実に戻る方が有意義やってわかるはずなんやけど……。現実味がありすぎて現実とゲームの区別付かへんようになっとったら世話ないで」

「聞いた話ではギルドの上層に抑えられて身動きとれない連中もいるらしいぞ」


 シンが何の肉かわからないウィンナーにパクつきながらそう言う。

 確かに一部のギルドでは下は上に逆らえない。規律に厳しいところもあり、下手すると牢に繋がれることもある。


「ま、じゃあとにかく今回は暇ってことだな。よしシン、シイナ、行くぞ」

「おう!」

「へ?」


 リュウに左腕を掴まれ、力ずくで椅子から立たされる。そしてテーブルを飛び越えてきたシンも俺の右脇に腕を通した。途端、視界の中央に俺にしか見えないハラスメントコールアイコンが点滅する。

 これで俺が『コール』と叫べば、無敵NPCが召喚され、瞬く間にリュウとシンは拘束されてしまう。


「ちょっと待て、行くって何処に!」

「まあいいから来いよ。たまには男同士で話そうぜ」


 おいコラ、シン。お前、リコの前で男とか口走るなよ。アイツはまだ俺のこと女だと思ってんだから。

 そうこうしている内に俺はリュウとシンに引きずられていく。


「何処か行くんなら私も――」

「おっと、そっちはそっちでガールズトークに花咲かせててくれや、刹那。たまにはそれもありだろ、なあシイナ」


 確かに昔に比べて≪アルカナクラウン≫も女子率が増した。いや、増したどころじゃない。今や男より女の方が多い。

 かくして俺は拉致られたのだが、リュウやシンにとってどうも誤算だったらしいことがあるのだった。


「私は基本的にシイナと同じ場所にしか居ることができない。何処に行くかは知らんが連れていけ」


 一番背が低いくせに無駄に胸を張るリコの前で、リュウとシンはガクリと肩を落としたのだった。何故だ……?

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