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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第四章『ドレッドレイド―咬み付く脅威―』
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(4)『PKプレイヤー』

「ほな別件の話をしてもええか? ()うてもホンマはこっちの方が主題やってんけどな」


 ミキリの『どうしてミキリが呼ばれたの?』という至極もっともな質問に『呼べって言ったのはトドロキさんだから、俺にはわからない』などと半ば責任転嫁及び思考放棄的な答えを返した時、トドロキさんがそう切り出した。


「ちなみにこれはウチから一個人としてのスペルビアやシイナ、刹那(せつな)、それから()()()への依頼やからな。当然、断ってもろてもかまへんで」


 ミキリにも依頼……?

 トドロキさんだってミキリが協力を拒んでいることを知っているはずだ。

 その意思は今も変わっていないし、ああは言ったもののスペルビアだって≪アルカナクラウン≫に全面協力するつもりはないのだろう。だからこそ、わざわざ『≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫という組織の益のために』と言葉を濁したのだ。


棘付き兵器ホーンテッド・アームズ見えざる凶器(シェイド・シャドウ)魔眼の魔女(ノンストップ・テラー)


 隣に座る刹那、向かいに座るスペルビア、俺の膝に座るミキリと順に流し目を送りながら、それぞれの二つ名で呼んだトドロキさんは最後に俺にも霞めるような視線を向け、


災厄の対剣(カラミティ・クロス)


 ドクン――。

 確かにこの人は知ってる……。

 あの狭い時期の俺の二つ名を。


「また懐かしい二つ名を……。せっかく『魔弾刀』って普通の二つ名に()()したってのにそんな昔の話を持ち出さないで下さい、トドロキさん」


 声が上ずらないよう、さも事も無げに言ってのけると、トドロキさんは少しつまらなそうな顔をして、


「まあそう言うなや。ウチかて何の意味もなくジブンを弄ってるわけやないんよ」


 結局弄ってる自覚はあるんですか……。それにしてもなんで今その二つ名を持ち出してきたっていうんだ……?


「実はナナ……[ドナドナ]から連絡と報告書が来てたんやけどな」

「ドナ姉さんから……あの三人は見つかったんですか?」

「保護はしたみたいやけど……。やっぱりショックが大きかったようやな。三人共怯えきってて、マトモな様子やないみたいなんよ……。それでナナもさっきまでずっと荒れとったらしいわ。無理もあらへんけどな」

「それで報告書っていうのは、あの『ドレッドレイド』の件ですか?」


 俺がそう聞き返し、トドロキさんは無言で頷いた直後にスペルビアが俺の肩をちょんちょんとつついた。


「ドレッドレイドってナニ?」

「聞いたことないの」


 スペルビアが首を傾げ、ミキリは俺の膝の上で振り返って見上げてくる。

 俺が迷ったその一瞬、トドロキさんと視線が交錯し、代わりにトドロキさんの方から説明を始めた。

 最初に偵察隊(スカウト)三人の事件の経緯を説明し終えたトドロキさんは、アンダーヒルにコピーさせていたらしい例の動画データの再生ウィンドウをスペルビアとミキリの前に差し出した。


「――要するに『ドレッドレイド』()うんはこのPK集団のことなんよ。特徴は見ての通り暗赤色(ダークレッド)を基調にした装備で――」

「……グリムリーパー」


 トドロキさんの話を聞いているのかいないのか、瞬きひとつせず動画をジーッと見つめていたスペルビアが突然そう呟いた。


「今、なんて言った?」


 眉をひそめた刹那が聞き返すと、


「ぐりむりーぱー」


 発音の問題じゃないと思う。


「スペルビア、ジブン……連中のこと知っとるんか?」

「知らない。でも、見覚えがある」


 そう呟いたスペルビアは再びウィンドウに目を落とし、性別のわからない2人の内の小柄な方を指差した。


「これがグリムリーパー」


 次に偵察隊(スカウト)の女の子を捕まえたまま放さない大男の一人を指して、


「ラクサル」


 ピクッ――とその聞き覚えのある名前に反応してしまう。見ると、刹那もちゃんと憶えていたようで、俺に語り気な視線を送ってきている。

 隣接するギルド≪クレイモア≫の二階から≪アルカナクラウン≫を監視していた――かどうかはともかく、その監視者のいた部屋の持ち主だ。まさかこんなところでその名を聞くなんて思わなかった。

 そうしている間にも、スペルビアはさらにその隣、あのミナというプレイヤーを羽交い締めにしている男を指差し、


「グスタフ」


 もう一人の性別不明を、


「アリアドネー」


 そして最後に口にボロボロの包帯を巻いた、五人のリーダーらしき男を指差すと、


Redrum(レッドラム)なの」


 スペルビアより先に膝の上にいたミキリがそう言った。

 思わず皆が言葉を失う中、ミキリは床に飛び降りて、


「全員、昔のミキリたちの同業者なの」


 とスペルビアの膝に手を乗せた。


「ア、アンタたち、なんでそこまでわかるのよ。同業者って何の話?」

「ミキリもルビアちゃんも、前はPKで経験値を稼いでた。この五人と同じように、なの」


 そこでようやく、俺はアプリコットから聞いたスペルビアの昔の話を思い出した。中堅ギルドをひとつずつ回り、そのメンバーを全滅させていたというあの話だ。効率的に経験値を稼げるものの、手段を選ばずプレイヤーを狙うその手口は忌み嫌われ、PKプレイヤーはそれだけで蔑まれる、そんな対象だ。


「でも顔を隠してるのに見ただけで名前までわかるわけないじゃないッ」

「手段を選ばず相手を選ぶ」


 まるでPKの心得のような標語を口にしたスペルビアは、ミキリの方に視線で話を流す。それに頷いて応じたミキリは、


「ミキリたちPKプレイヤーは、細かい特徴だけで相手を特定しないと、“不意打ち(カゲ)”も“暗殺(ヤミ)”も“麻痺殺(ウチ)”も“包囲(オリ)”も“誘い込み(エサ)”も“脅迫(ドス)”も“騙し討ち(カタリ)”も“待ち伏せ(トビラ)”もできないから」


 ミキリはPKプレイヤーと一部の知っている人間にしか通じない独特の隠語を使った。俺はアプリコットから聞いたことがあったため全部わかったが、刹那は眉をひそめて疑問符を浮かべていた。

 トドロキさんはどうやら知っているようだが、昔竜乙女達(ドラグメイデンズ)偵察隊(スカウト)にいたのなら知っててもおかしくはないだろう。あそこはドナ姉さんの指示でその辺の調査までやっていると噂に聞いたことがある。


「実のトコロ、この面子(メンツ)にアンダーヒル合わせて五人の特定をやるつもりやったんやけど……」


 呆けたような上ずった声でそう呟くトドロキさんは脱力したように肩を落とした――が、その表情に陰が落ちる。


「にしてもレッドラム……アイツ戻ってきとったんか……」

「今なにか言った、スリーカーズ」


 ほとんど聞こえないような小さな声で呟いたトドロキさんに刹那が聞き返したが、


「あ、いや、なんでもあらへん。気にせんといてや~」


 乾いた笑いを漏らしつつ、何かをごまかすように両手(もろて)を振った。

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