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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第四章『ドレッドレイド―咬み付く脅威―』
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(3)『誰からでも』

「やっほう、ミキリおひさー」


 迎えに来たトドロキさんに続いて、俺と刹那とミキリが部屋に入った途端、字面の割に恐ろしくテンションの低いスペルビアが片手を挙げてそう言った。


「まさかルビアちゃんがここにいるなんて思わなかったの」


 仲間との再会と言えど全く変わらない調子で表情を変えないミキリは部屋の中にトテトテ歩いていき、すぐさまソファの脇にしゃがみこみ体操座りする。しかも縛られたわけでもないのに後ろ手だ。

 慣れたのか……?


「ほな好きなとこに掛け。ようやっと本題に入れるわ~」


 トドロキさんがスペルビアの対面のソファに腰を下ろし、刹那がトドロキさんの隣に陣取る。消去法で俺はスペルビアの隣だ。


「ミキリ、お前もそんなところにいないでこっちこいよ」


 スペルビアの隣に座ることに少し抵抗を覚えて、ミキリに声をかけると、意外にも素直に立ち上がったミキリは――


「何故だ」


 俺が座るのを待って、その膝の上に這い上がってきた。


「影のお姉ちゃんはしてくれないの」


 アンダーヒルがそんなことするとこなんか想像できない。だいたいアイツもミキリほどじゃないけどちっこいからな。ミキリを膝に乗せたら前が見えにくくなるだろう。


「さて――と」


 トドロキさんはスペルビアを見据えて、にやぁと狐のような笑みを浮かべると、


「ほな、まず……アンダーヒルに攻撃した理由から訊かせてもらおか」


 そう切り出した。

 その時、スペルビアは普段通り半開きの眠そうな目で頭をゆらゆらと揺らすと、スッと目を閉じた。そして――パチンッ。

 目を見開いた。


「アンダーヒルの強さを見たかったから」

「力比べゆうことか?」


 コクリと頷く。


「私の二つ名『見えざる凶器(シェイド・シャドウ)』。この名前を付けたの、誰か知ってる?」


 全員が静まり返る中、ミキリがスペルビアの袖に手を伸ばし、くいくいと引いた。


「アプリコットちゃん」

「正解。ミキリ、えらいえらい」


 スペルビアに頭を撫でられ、ミキリの頬がわずかに緩む。


白夜の白昼夢トリック・オア・デイドリーム、彼女は私にわざと物陰の人影(シャドウ・シャドウ)に似た読み名を付けた。どれだけ考えてもその理由はわからなかったけれど、少なくとも物陰の人影(シャドウ・シャドウ)と比較されているんだろうな、って思った」


 アプリコットも(ハカナ)と同じく知らぬ者なんてほとんどいない有名人だ。

 アイツが何かを言い出せば、その影響力は計り知れない。その上、諸事情を引っ掻き回さずにはいられないあの性格だ。どうしたってトラブルは絶えない。そういう意味ではスペルビアも被害者だと言える。


「ジブン、アンダーヒルが物陰の人影(シャドウ・シャドウ)やって知ってたんか」


 少し固い面持ちで訊くトドロキさんに、スペルビアはコクンと頷いた。

 とりあえずこれでスペルビアがアンダーヒルを襲った理由は自供とはいえ判明した。しかしそうなるとアンダーヒルの言葉が気になってくる。


(スペルビアは≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫であり≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫でない。中立であり、中立でない。彼女はドラマツルギー……か)


 そもそもドラマツルギーというのがどういう意味なのかわからない。やはり彼女が目を覚ますのを待つしかないのだろうか。


「次の質問や。ジブン、≪アルカナクラウン≫に入りたいんか?」


 刹那がトドロキさんの横顔に『バカじゃないの!?』と言いたげな視線を向ける。


「どちらにしろ塔は攻略するから。指示があるなら直接協力(パーティプレイ)してもいい」

「指示って、誰からの?」


 俺がそう聞き返すと、スペルビアはこっちを向いて


「誰からでも」


 大雑把すぎる答えを返してきた。


「ほなジブン命令されれば誰の言うことでも聞くんか?」

「ノンノン、命令じゃなくて指示。どの指示を私の目的にするかは直感」


 要するに誰に何を頼まれても、するかしないかを気まぐれで決めるだけでその内容をいちいち斟酌(しんしゃく)して損得勘定することはないという意味だろう。


「元々()()()に、目的なんて大衆向けの崇高な意識はない」


 スペルビアはそう言うと、再びスッと目を閉じて、今度は半分だけ開いた。


「眠い……」


 スペルビアはまるでスイッチが切り替わったかのようにアクビをすると、眠気覚ましのつもりなのかは知らないが、ミキリに向き直ってその頭を撫で回したり頬をつまんでみたりしている。

 二重人格――というわけでもなさそうだけど、威圧的で真剣なモードとテンションの低い惰弱なモード。それを瞬きで切換(スイッチ)しているみたいだった。


「スペルビア、もう塔攻略とか≪アルカナクラウン≫に関わらないで」

「イヤ」


 刹那の言葉に間髪入れず切り返す。

 それを聞いたトドロキさんはキレかけた刹那を左腕で牽制しつつ、溜め息をついてソファにもたれかかって、上を仰ぐ。


「ダメやなぁ。やっぱりアンダーヒルがいないと、ウチはこういうの不向きやわ~」


 時に頼れるお姉さん何処(いずこ)

 結局俺が話を進めるしかなさそうだ。


「今の君はもう≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫とは関係ないのか?」


 少し訊き方を考えて質問をしたつもりだったが、ミキリから顔を上げたスペルビアは眉をひそめて、


「それはない」


 バチンと瞬いてから目を見開き、怒るような調子でそう言いきった。


「仲良しは仲良し。目的が違うだけで、一緒に居ないだけで、それは変わらない。ただ、≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫という組織の益のために()()()が動くことは後にも先にもない。()は寝たいだけ、その意思を尊重する」


 全開き(こっち)のスペルビアはえらく饒舌だな。

 VRMMOは現実とは違う自分、という点から、素の自分とは違う自分を演じようとする者も無視できない割合でいる。ハイクオリティなキャラを演じきる者もいれば途中ボロが出る者も当然少なくない。

 そういう連中は決まって今のスペルビアやアンダーヒルのように、諸メディア作品にしか登場せず現実では変人と称されるようなキャラを演じようとしているのだ。しかしアンダーヒルもそうだがスペルビアもそういう連中とは違って、至極真面目に振る舞っているだけなのだ。

 何故こんなキャラクター性を発揮しているのかはわからないが、前者のスペルビアから情報を引き出すこともできそうだ。

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