表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第四章『ドレッドレイド―咬み付く脅威―』
141/351

(1)『時に頼れるお姉さん』

 ≪アルカナクラウン≫二階ロビー。

 本来今のFOでもっともくつろげるはずのギルドハウス内には殺伐とした空気が漂っていた。

 空気を凍らせんばかりの緊張感が、肌にピリピリとした麻痺の感覚を強いる。


「トドロキさん、アンダーヒルはまだ目を覚まさないんですか?」

「せやからウチはスリーカーズやっちゅうに。心配要らへん、まだ目ぇ覚ましたわけやないけど、ウチに任しとき。それより問題はアレの方やろ」


 カランとグラスの中の林檎酒(シードル)(ニードル・シードのクレイドル・シードルのポーション割り)の氷を鳴らしたトドロキさんは、空いた手の人差し指でロビーの一画を指す。

 その先――壁際に寄せられたソファには、問題の"自称"元≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫のプレイヤー、[スペルビア]が寝転がり、すやすやと寝息を立てて眠っていた。

 周囲の視線が否応なしに彼女に注がれ、完全アウェーの状態である。

 『星蝕複合式不定形骸体エクリプス・デ・ヴォア・ラクテ』との戦闘が終わり、アンダーヒルを連れて≪アルカナクラウン≫に戻ってくると、スペルビアが大扉の前に立って俺たちの帰還を待っていた。

 当然、仲間を傷つけられて激昂した刹那(せつな)がスペルビアに食って掛かったのだが、二人の戦いを止めたのは驚いたことにアンダーヒルだった。

 突然目を覚ましたアンダーヒルは、


『彼女を中に……寝かせてあげて下さい』


 と言い残して再び気を失った。

 アンダーヒルの態度に困惑し、半ば冷戦状態に陥った俺たちは用事とやらを済ませて帰ってきたトドロキさんに、


『アンダーヒルがいい言うたんなら入れてまえばええやん。アンダーヒルにもなんか考えがあるんやろ。ウチらは"諜報部"。情報を扱うウチらはそうでなくても周りは敵ばかりや。スペルビアが≪アルカナクラウン≫の敵と決まったわけやないし』


 と言われ渋々スペルビアを中に入れることになったのだった。


「アンダーヒルに任せたようなこと言っておいて、ちゃんと考えてたんですね」

「ジブン、ウチを何だと思ってんねん。時に頼れるお姉さんやで」


 笑いながらそう言ってグラスを傾けたトドロキさんは、


「ゆーわけでスペルビアから事情聴取してくるわ。アンダーヒルもいずれにせよするつもりやったやろうし、暇やし」

「最後の何すか」


 などと遣り取りを交わして席を立った。

 そして結構な量を飲んだはずなのにしっかりとした足取りでスペルビアの眠るソファに歩み寄り――


「スペルビア、目ぇ覚まし」


 声をかけるも反応がない。

 トドロキさんはスペルビアの襟を掴んで持ち上げ、それでも起きないスペルビアを肩に引っ提げて戻ってくると、


「シイナ、それから……刹那」


 近いテーブルに座って不機嫌そうに何かをブツブツ呟いていた刹那が少し跳ねた。


「アンダーヒルのこと、頼むで。それから――――」


 トドロキさんは突然信じられない一言を言い残して、ロビーの戸を開けて出ていった。


(……い、いいのか?)


 その時、肩をとんと叩かれ、振り返ると刹那が立っていた。


「スリーカーズは何て言ってたの?」

「あ、ああ。……刹那、ちょっと来てくれ」


 怪訝そうに首を傾げる刹那に背を向けて歩き出すと、後ろから足音がついてくる。

 その足音は徐々に間隔が長くなってきて、アンダーヒルの部屋の前で俺が立ち止まって振り返った時に追い付いてきた。

 ギルドリーダーの権限でアンダーヒルの部屋の鍵を開ける。

 奥に据えられたベッドにアンダーヒルは寝ていた。その脇の椅子にはボロボロになった黒いローブ【物陰の人影(シャドウ・シャドウ)】がかけられていて、さらにかなり長い【ブラック・バンデージ】が床に落ちている。椅子から落ちたのだろう。


「まだ起きないのね……」

「疲れてたんだろうな。アイツ、夜も動き回ってたから」


 刹那の呟きに応えつつ――ガチャン。

 鍵に加えてシステムロックをかける。

 ギルドハウス内のシステムロックはかけた本人とギルドリーダーしか開けられない。俺がかければこの上ない堅固なセキュリティになるというわけだ。


「……なんで鍵をかけるのよ」


 急にトーンの下がった声に振り返ると、腕組みをした刹那が目尻を吊り上げてこっちを見ていた。


「誰にも邪魔されたくないからと、いざという時に逃げられないようにするため」

「……は? ちょっ、アンタ、そ、それってどういう意味よ……!」

「ここだ」


 何故か顔を真っ赤にしてジリジリと後ずさりつつ、何事か口走っている刹那に隠しクローゼットを指し示す。

 そう――ミキリを拘禁しているクローゼットだ。


「ダメ、そんな……こんな……」

「ほら早く、刹那」


 俺がそう言って刹那の二の腕を掴むと――ビクッ!!!

 突然、刹那が身震いした。


「お、おい……大丈夫か、刹那」

「だってそんないきなり言われても――」

「いきなり……? お前、まさかミキリのこと知ってたのか?」

「確かに私はアンタが……って、えっ? ミキリ……?」


 顔を真っ赤にしてブンブンと手を振っていた刹那の様子が突然変わった。

 これはアレだ、色々考えすぎてフリーズしたんだな。

 仕方ないので刹那を放置し、クローゼットの扉を開ける。


「こんばんは、そして久しぶり、ミキリを倒したお姉ちゃん。今日はどうしてここに来たの?」


 礼儀正しく頭を下げて挨拶してくるミキリは、相変わらず手を縛られて体操座りで俺を見上げてくる。


「相変わらずそれなりに元気そうだな」


 クローゼットの中に入ると、ミキリは器用にバランスを取りながら立ち上がる。


「影のお姉ちゃんはどうしたの?」

「色々あって今日は俺とうちの面倒くさい手のかかるお姫様だけだ」


 言った直後、背後から修羅の殺気。

 見える。

 凶悪なオーラを放ちながらゆらりと近付いてくる刹那の姿が手にとるように見える。

 振り返れば殺られる。


「面倒くさくて手のかかる女で悪かったわねぇ……」


 凄むような低い声が背後から聞こえ、一瞬死を覚悟した。しかし、いつまで待ってもダガーもアイアンクローもハイキックも飛んでこない。

 恐る恐る振り返ると、少し悲しそうな顔をした刹那が立ちすくんでいた。しかしすぐにいつもの不機嫌状態と同じように視線だけでこっちを睨み付け、拳をぐっと握ってぷるぷると身体を震わせる。

 何かをブツブツと呟いて自分に言い聞かせて、まるで怒りを抑えようとしているかのような珍しい光景だった。

 少しは悪癖を直そうとしているのか、と刹那を見直そうとした時、


「アレは下僕、アレは奴隷、アレは召し使い、アレは所有物……傷つければ……損するのは所有者の私……」


 おいコラ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ