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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第三章『機甲の十二宮―道化の暗躍―』
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(25)『本気出してよ』

「あ――もうッ! 何なのよ、コレっ! ホント、邪魔ッ、重いし、ちょっと動いただけで横に振られるしッ!!!」


 などと俺のアバターの胸にグチグチと文句を言いつつ、慣れない手つきで再装填(リロード)を続ける刹那に、


「大丈夫か、刹那っ」


 と声をかけると、


「うっさいッ! 別にうらやましくなんかねーよ、ちくしょーッ!」


 何故か怒りが頂点に達したらしい刹那は性別の差を越えて完全崩壊した口調でそう叫んでくる。

 人の親切心に怒りで応えるとは……、最近の刹那は特に磨きがかかってるな。理不尽さに。


(しかしまあ改めて客観視すると、俺のアバターって怒ってても見映えするんだな)


 などと平和なことを考えつつ【フェンリルファング・ダガー】と【サバイバル・クッカー】を両手に構え、射手(サジテール)に向かって駆ける。

 俺自身が短剣に慣れていないのは残念だが、スキル(アーツ)を使うのは久々で、不謹慎にも嬉しさを隠せない。

 何故か発現条件を満たしても、【(ゼロ)】以外のスキルを会得できなかったのだ。そのため、未だに使えるスキルは【(ゼロ)】・【魔犬召喚術式バスカーヴィル・コーリング】・【強者の威圧コンパルソリー・アレルギー】・【無力の証明(アンチ・ウィークネス)】・【死骸狼の尾(フェンリルテイル)】・【狼牙の誇り(ウォルブス・プライド)】と汎用性に欠ける面々だけである。


「はぁい、短剣使いのお嬢ちゃん」


 肉薄した射手(サジテール)()()()の側面からガシャンッと金属矢射出器(ピアス・ボウガン)()り出し、間髪入れずにバシュンッと打ち出してくる。


(ハァ)ッ!」


 単純な射線で飛んでくる金属矢(ダート)を難なく一閃で弾き飛ばし、


「【召雷閃(しょうらいせん)】!」


 お気に入りだったスキル(アーツ)を右前足に向けて放つ。水平突きの直後にワンテンポ置いて落雷を発生させる技だ。


「速いけどちょっと物足りないわ!」


 そう叫んで一瞬で右脚を引いた射手(サジテール)は同時に体勢を低くし、左脚を回し鋭い蹴りを見舞ってくる。


「っ!」


 脇腹をなんとか肘でガードするが、勢いを殺しきれず吹っ飛ばされた。


「何やってんのよ、バカッ! 私のカラダ殺したらタダじゃおかないわよ!」


 刹那の怒声を背に受けつつ、空中で受け身を取ってダメージを最小限に抑える。

 自分から処刑を受けにいこうとは思わないからな、さすがに。

 3分近くかけてようやく再装填(リロード)できたらしい刹那が視界の端に映り込む。


「シイナ! (フロント)はやるから側面サイドからお願い!」

「OK!」


 ちなみにネアちゃん(身体はリコ)はその身体パラメータの高さを有効活用して、相手を引き付ける役に回ってもらっている。学習能力の高いネアちゃんは動体視力・反応速度・スピードと三拍子揃ったリコの身体に誰よりも早く順応した。ほとんどの攻撃を紙一重で(かわ)しつつ、時折輻射振動破殻攻撃バイス・フラグメンテーションを当てにいっているほどだ。


(ていうかリコのヤツ……なんで敏捷パラメータ高いのに重い可変機械斧槍(アクス・バンカー)なんか使ってたんだ?)


 (はなは)だ疑問である。

 そして(くだん)戦闘狂(ガンモンガー)、リコは不運にも近接戦闘(CQB)に最も不向きなネアちゃんの身体(アバター)になってしまい、隙を見てちょっとずつ魔法を詠唱している。

 しかしどの魔法を使えばいいのかまったくわからないためか、適当に唱えた魔法は低威力か詠唱をキャンセルさせられるかのどちらかで、リコには悪いが完全に戦力外だ。

 俺は刹那に言われた通り前衛(フロント)退(しりぞ)き、射手(サジテール)の脇を抜けて側面に陣取る。

 ネアちゃんが輻射振動破殻攻撃バイス・フラグメンテーションを使って外装(フレーム)を剥がしてくれたおかげで、ところどころ駆動部が剥き出しになっている。部位破壊されて、電気コードでぶら下がっている状態の金属矢射出器(ピアス・ボウガン)まであった。

 しかしそれでも射手(サジテール)のライフゲージはまだ2割程度しか減少していない。ことごとく急所への攻撃を逸らされてしまうのだ。


「ちょっとシイナ! なんか引き金(トリガー)が動かないわよ!?」

「リロードの後、半起こし状態(ハーフコック)解除したかっ? 撃鉄(ハンマー)を下まで倒さないと撃てないぞ!」

「銃ってなんでこんなメンドクサイの!?」

「おいコラ、礼はどうした、礼は」


 刹那の準備が整ったのを確認して【フェンリルファング・ダガー】を腰だめに構え、


「【毒蠱蜂針撃(どっこほうしんげき)】!」


 穿孔用の刺突攻撃(スタブ)外装(フレーム)の剥がれた左後ろ脚の関節部(ジョイント)に打ち込む。

 手首の回転だけで短剣をドリルのように使うスキル(アーツ)だ。

 刹那の射撃に気をとられていたらしい射手(サジテール)はもろにそれを受け――ガクンッ。


「あっ、きゃあっ!」


 射手(サジテール)は悲鳴をあげながら、ギギギギッと嫌な音を立てた左後ろの脚関節に引きずられるようにバランスを崩し、思わず後ろに飛び退い(バックステップし)た俺の目の前で横倒しになった。


「今よ、ネアちゃん!」


 刹那の指示で下半身の腹側に回ったネアちゃんが右手を引き、輻射振動破殻攻撃バイス・フラグメンテーションの構えをとる。


「あっ、ダメッ!」


 上半身を起こしてそれを見た射手(サジテール)が両手を重ね、心臓マッサージをする時のように下半身の頭部に押し当てた。そして止める間もなく――


「刺し穿て、極棘の槍(ピアース・スピアー)!!!」


 パシュゥッ――と空気の抜けるような音が無数に重なり、射手(サジテール)の下半身の駆動脚・関節部・外装(フレーム)の隙間という隙間から、鋭くて長い針が飛び出した。


「バ、輻射振動破殻攻撃バイス・フラグメンテーション!」


 その反撃(カウンター)に対応できなかったネアちゃんの赤く発光する右手が、一瞬で針の山と化した射手(サジテール)の下半身の腹部外装(フレーム)を貫いた。

 しかし同時に、その腕にいくつもの針が食い込んでいた。


「――――――ッ!!!」

「ネア! 『痛覚遮断(カット・オフ・ペイン)』を意識しろ!」


 いつのまにか駆け寄ってきていたリコがネアちゃんの口を塞いで悲鳴を殺し、必死の表情でそう言い聞かせる。

 直後、ネアちゃんは涙をにじませながら、口の中でモゴモゴと何かを反復した。それと同時にリコはネアちゃんの右手を力任せに引き抜く。


「はぁ……はぁ……」


 息を荒立たせるネアちゃんをリコが引きずっていき、すぐさま動いた刹那が【大罪魔銃(エヴァグリオス)レヴィアタン】を構え――パンパンパァンッ!

 3発連続で射手(サジテール)の腹部の損傷部(ポイント)に撃ち込んでいく。

 カシュンッと再び空気が抜けるような音がして、針が中に戻っていき、刹那がチッと舌打ちをする。

 おそらく同時に傷口に応急外装を張られたのだろう。


「百万年はっやーい」


 射手(サジテール)はガシャンッと金属音を響かせて跳ねるように起き上がり、


「本気出してよ」


 きゅうっと細くなった目で、俺を見下ろしてそう言った。

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