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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第三章『機甲の十二宮―道化の暗躍―』
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(24)『八式戦闘機人・射手‐アルティフィシアル・サジテール‐』

 第9演習場――。


彼岸(ひがん)にて(まみ)えるは必定(ひつじょう)ね!!!」


 俺・刹那・リコ・ネアちゃんの四人一組(カルテット)(戦闘に参加するためどんな遣り取りがあったかは察して欲しい)が演習広場に入ると、何処からかそんな声が聞こえてきた。その声は凛と響いているが、肉声ではない。かろうじて合成音声とわかるほどの、高音質のボーカロイドのような少女の声だ。


「この声は……?」


 俺が驚いて思わず呟くと、背後で『ドクターの趣味でしょうね』とアンダーヒルがため息混じりに呟くのが聞こえた。


「来るわよ!」


 刹那がそう叫んだ瞬間、見計らったように広場の壁を乗り越えて巨大な影が中央に降り立った。

 上半身はその声に見合うような少女の形をしていた。セラミックスで出来ているような白い光沢を放つ肌は透明な何かの膜で覆われ、その上からさらに胸部を隠すように白色のブレストプレートを装着している。細く華奢な印象を受ける両腕で長大な金属弓に太い金属矢を(つが)えていた。

 そして人形のように繊細なその顔は少し眉をつり上げて怒ったような表情をはっきりと表している。そしてその目はリコと同じ強い輝きに満ちていた。側頭から額までを覆う頭部外装(ヘッドギア)の後ろからは、白銀のポニーテールが風にそよいでいる。

 しかし、その下半身は明らかな異形だった。上半身とは違って硬い印象を覚える硬質セラミックスの外装(フレーム)に覆われたそれはまさに金属馬。下半身の頭部には角が生えていて、脚や胴体は無数のサスペンション・フレームの内に覗くパイプ束でできている。前脚にはローラーが履かれていた。

 そしてその後ろ脚の側面には、斜め下向きのブースターらしきものがついていた。


「おい、リコ。あれって……」

「そうだな、シイナ。アレは間違いない。私の……同類だ」


 つまりヒューマノイド・インターフェース。システムに沿って一定の行動パターンに沿って動く他のモンスターとは違う。その場の状況に応じて思考し最適解を導き出せる、リコ同様に感情をも持つNPC(モンスター)なのだ。

 モンスター名は『八式戦闘機人・射手アルティフィシアル・サジテール』、予想通り『射手座(サジテール)』をその名に冠してはいるが……。


「何をどう間違えたらああなる……?」


 背後でまた、『ドクターの趣味でしょうね』とアンダーヒルがため息混じりに呟くのが聞こえた。

 そして、射手(サジテール)は蹄(?)をガンガンッと踏み鳴らし、


(なんじ)が敵を穿てと神は言った。(なんじ)が敵を(ゆる)せと(しゅ)は言った。なれば我は我が弓を何処に向ければよいのか。我が放つ矢は天へと昇り、地上の何処へも降り注ぎ、やがて地の底をも駆けるだろう。しかしながら天より賜りし我が弓も、放たなければ俗弓へと成り下がる。我は弓、我は矢、一時(ひととき)も俗物にはあらず。ゆえに、我、汝らを――射つ」


 張りつめたように凛と響く合成音声で、前口上のようなものを並び立てた途端、それまで(つが)えていた矢を引き絞り――カッ!

 射手(サジテール)の矢が放たれた瞬間、強烈な光が視界を白で塗り潰した。


(なっ……!)


 思わず腕で頭をかばうと、その瞬間身体が浮き上がるような感覚が全身を襲う。


(この感覚……!?)


 もう長いこと感じなかった感覚だが、アレと似ている。VRMMOにログインする時、すなわち感覚接続(ダイブリンク)とまったく同じ感覚だった。

 そして視界がぼんやりと明るみ、徐々に色彩が戻ってくる。


射手(サジテール)は……)


 いた。さっきより少しだけ左に移動しているが、体勢は変わっていない。矢を放った体勢のまま、何故か勝ち誇ったような顔をしている。


(三人は……)


 四人で横に並んでいた俺は左端だ、と右を向くと、そこには誰もいなかった。


(一撃で三人を……!?)

「な、何よコレ!」


 何処からか俺の声が聞こえてくる。


(よかった、無事だっ――()……?)


 声のした左を向くと手前からリコ・ネアちゃん・()と並んでいる。

 そしてその瞬間、まさに瞬く間に、俺は現状を理解した。身体(アバター)に感じるこの感覚は……九ヶ月前のサーバーダウン後、アバターが今のモノになってしばらくの間残っていた違和感だ。


身体(アバター)が……」


 口をついて出る()()の声。


「いや、中身が入れ換わったのか……!」


 射手(サジテール)は移動していたのではない。こちらの視点が移動したのだ。


「せせせせ刹那さん、これはどうなって……」


 とリコが慌てたような声をあげて俺(身体は刹那)の腕を取ってブンブンと揺すってくる。


「えっと……まさかネアちゃん……?」

「は、はいっ! あ、あれ……? 非常時のそのテンションの低さはもしかしてシイナさん……ですか?」


 とりあえずその判断基準についての言及は後回しにするとして、状況判断に処理能力全てを廻らせる。

 俺⇔刹那

 リコ⇔ネアちゃん

 という図式を頭の中に思い描く。


(最悪だ……!)


 中身の入れ換わり事態が最悪なのではない。これはさすがに初めてだが、これまでも突飛な発想のモンスターはいくつかあった。それこそネタのようなものばかりだったが、今回はそれらよりずば抜けて最悪だ。

 この状況の深刻さは、大きく身体(アバター)が変化した俺だけが自覚しているのだろうが、初めて使う武器を使いこなせないように、自分とはまったく別モノの身体(アバター)を使いこなせるわけがない。

 それに加えて入れ換わり方も最悪だ。

 俺は前衛で敵に集中するフロントアタッカータイプで、刹那はミドルレンジから全体に気を回すセンターガード。刹那はフロントで戦えるが、俺はその『全体に気を回す』ということができないのだ。

 そしてそれ以上に前衛特化(フルフロント)型のリコと後衛特化(フルバック)型のネアちゃんが入れ換わったのは手痛い。二人とも互いのポジションを経験したことすらないのだ。


(こん)(はく)とを掻き回し玩弄せよ、との(めい)に逆らうこと我には(あた)わず。(それ)は我の不徳の致すところ(ゆえ)、我と刃を交わす客人方に理解を求む――」


 意訳すると『中身の入れ換わりは誰かの命令で私がしたくてやっているわけじゃない』と言っているのだろう。


「――と必須口上は並べました、と。久しぶりね、ML(エムエル)

「黙れ、AK(エーケー)


 リコ(身体はネアちゃん)ら、射手(サジテール)を睨み付けて、吐き捨てるようにそう言った。

 どうやらプレイヤーの俺たちには関知できない因縁があるようだな。


「さぁお客様。私の矢に射抜かれたい人から順番待ちしていらっしゃいな♪」


 どうしてこうなった……?

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