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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第三章『機甲の十二宮―道化の暗躍―』
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(17)『触腕締圧体内孕機‐プルプ・ヴェルソー‐』

 第11演習場広場に着いてその中央に鎮座する物体を見た瞬間――


「リコ、今回も行ってきていいわよ」

「い、一番戦っていないのはいちごタルトのはずだ。貴様が行け、貴様が」

「こういう時はストーカーが行けば皆ハッピーになれますですっ! だからテメェが生け贄になれ、アンダーヒル!」

「シイナ、よろしくお願いします」


 自然とループが発生するチームワークを発揮しつつも、見るに堪えない(なす)りつけ合いが始まっていた。悲しきかな、その中には当然俺も入ってしまっているのだが、というか第一声だが。

 しかし俺もリコもいちごちゃんもアンダーヒルも、四人の内の誰一人、互いを恨む者はいない。

 何故なら誰もが、それもやむ無し、と考えているからだ。

 池に囲まれ、橋が一本架かっているだけのΩ(オメガ)状の広場。その中央に設置されていたのは金属製の(かめ)、といえばよいのだろうか。高さ二メートルはあろうかという大きな容器だった。

 しかしうちの猛者(?)たちがそんなもので怯むはずがない。何が入っているかわからないから後込(しりご)みをしているわけではないのだ。むしろその逆。

 何が入っているかがわかるから()()との戦闘に消極的になっているのだ。

 上を向いた巨瓶の口からはみ出しているのは――ドロドロとした紫色の粘液に(まみ)れた機械製の柔軟駆動脚(アーム・テンタクルス)

 要するに、触手なのである。

 それが八本、ウネウネとのたうちながら天を衝くがごとく伸びているのだ。あの中には軟体動物的なメカが入っているに違いない。名前も触腕締圧体内孕機(プルプ・ヴェルソー)とか書いてあるし。


「私の武器ではどうしても近接で捉えるしかない。シイナや貴様らは銃使い(ガンナー)だろう。貴様らが行くべきだ!!」

「それならば、あのような狭い場所ではスナイパーライフルは使えません。やはり拳銃使い(ハンダー)が行くべきです」

「わ、私はぬるぬるとしたものがダメなのですぅ、お姉様! 至らぬ私をお許しくださいです~ッ!!!」


 三人はそう言いながらチラチラと俺の方を見てくる。アンダーヒルなんかさりげなく【コヴロフ】をちらつかせてるし。


「――で、こうなるわけね……」


 ガシャンとゲートが閉まる音に続いて、


「頑張って下さい、シイナ。第十演習場は私が引き受けますので」

「お姉様の活躍はしかと見させていただきますです~っ!」

「む、シイナにここのモンスターが魑魅魍魎のデザインだと言ってあったか……?」


 などと三人の激励が聞こえ――ちょっと待て、最後のリコの台詞はなんだ?


「どういうこと……なの、リコ!」


 なんとか口調を矯正しつつそう言うと、


「ドクター、つまり魑魅魍魎は本来ROL(ロル)側の人間なのだ。本人はただの外部協力者と言っていたが」

「なんで今まで言わなかった……の!」

「つまり忘れていたのだ。タコ→軟弱→魑魅魍魎と連想して思い出した」


 リコが『ちゃんと思い出したぞ、褒めろ』と言わんばかりのドヤ顔を()めてくるのをスルーして、再び内孕機(ヴェルソー)に向き直る。

 味方となるのは、さっき鹵穫したばかりの潜航機(プワソン)群隊(バスカーヴィル)ぐらいだ。しかしΩの中央広場は直径三~四メートル円で意外に狭い。バスカーヴィルの召喚は頭数やモードをよくよく考えてからするべきだろう。

 もっとも、その余裕があればの話だが。

 俺が中央エリアに入ると、外敵の存在に気づいたのか蛸足がゾゾゾと伸ばしてくる。ボタボタと紫色の粘液を滴らせてくるそれを過剰な距離感で避ける。


「さて、どうやったら倒せるか……」


 幾つかの具体策に頭巡らせながら、【大罪魔銃(エヴァグリオス)レヴィアタン】を抜き、とりあえず様子を見る。


 パァンッ!

 魔力を込めた高威力射撃を放つ。

 いつものような牽制射撃じゃない。機械系には牽制は通用しないからだ。

 銃弾は魔力の尾を引きながら、触手の間をすり抜け――ギンッ!

 思った通りの場所――構造上比較的脆いと踏んだ(かめ)の口部分――には当たったものの、跳弾して別の方向に消える。

 瓶には傷ひとつついていなかった。


(容れ物の破壊は無理、と……。となるとやはり序盤は触手でダメージを与えるしかないタイプか……?)


 仕方なく多少の汚れは覚悟して【群影刀(ぐんようとう)バスカーヴィル】を背中から引き抜く。

 毎度のごとく訪れる心臓の脈動の()()を意識の外へと押しやり、ユラユラと不気味に揺すられながら近づいてくる触手の先端に斬りつける。


 ギイィィィン――。

 刀身の微振動でさっきの跳弾よりも長く金属音が響く。

 俺はその反動を利用して刀を回転させ、逆手に持ち変えたその刃に意識を集中。


「鬼刃抜刀――」


 ちなみに発声する意味はない。


 ギャリィイイイッ!

 【バスカーヴィル】の刃が触手の曲面を撫でるように不快な音を立てて、表面を薄く削り取った。


(チッ……やっぱり切断は無理か……それなら!)


 俺は鬼刃モードの【バスカーヴィル】を振るって相手からの攻撃を殴り飛ばしつつ、


掘式急襲型潜航機プワソン・パルミュール行け(ゴー)!」


 ただ一言発したのは、単純な攻撃命令。

 それを受けた地中の潜航機(プワソン)は上半身を持ち上げるようにヤツの背後(?)に姿を現し――パッ!

 その口から一瞬、円状に並んだ六本のレーザービームが放たれるのが見えた。

 こっち側に来なかったということは貫通はしなかったということだ。レーザー系はそのほとんどが貫通性能を持っている。つまりこの内孕機(ヴェルソー)、こう見えて物理耐性は高いということだ。

 しかしヤツの頭上のライフゲージはわずかに減っている。あながち全てを弾く、というわけでもないのだろう。

 潜航機(プワソン)は再び潜ってから別のところに現れ射撃、と潜伏波状攻撃ヒット・アンド・アウェイで確実にライフを少しずつ少しずつ削っている。状態異常のひとつ、毒と同じ扱いで攻撃させ続けておけばいいだろう。時間経過で一定ダメージを与えてくれる。


(となると……)


 不穏な動きで近寄ってくる触手を【バスカーヴィル】で払いつつ、ウィンドウをなんとか操作して【レヴィアタン】を外し、【永久の王剣エターナル・キング・ソード】を久々に装備した。


(思いっきりぶち抜けるかな……)

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