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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第三章『機甲の十二宮―道化の暗躍―』
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(8)『第三実機試験場』

一行は第三実機試験場を訪れるもそこに敵の姿は見当たらない。しかし、人の目には判らずとも何かが潜んでいるのなら、彼女のセンスはそれを捉えて暴き出す。

 『幽墟(ゆうきょ)機甲兵器演習基地マシンナームズ・トライアル・ベース』第三実機試験場――。

 基地の敷地内に侵入してから十分程歩いた頃、俺たちは最初の目標として定めていたその円形広場に到着していた。ここを選んだ理由もフィールドの入り口に最も近いからという至極単純な理由だったが、何にしても攻略のためにボスの手掛かりとなる情報を探さないといけない以上、まずは手近なところからというわけだ。


「ただの円形広場(サーカス)だと思ってたけど、思ったより面倒くさい地形ね」


 第三実機試験場の区画を四角く区切っている灰白色の壁の上に立っていた刹那がその向こう側に広く視線を遣りながらそうぼやく。俺はと言うと、刹那の足元――壁の手前側で例の調査情報をデータウィンドウで開いて、ここまでの道中で得られた情報を色々と追記しているところだった。


「刹那、何か見える?」

「敵はいないけど、直径100mくらいはあるし、間違いなく戦闘用の地形ね。奥側にゲートがあるから、多分侵入反応で出現(エントリー・スポーン)するタイプだと思うけど、ゲート横の内壁にフィールドコンソールみたいなのも見えるし、もしかしたら召集要請で出現(リクエスト・スポーン)するタイプもあるかも」

「ってことは中ボスかなあ」


 ちなみに、ネアちゃんといちごタルトも第三実機試験場の壁の周りを歩いて確認しに行っている。リコも二人の護衛に付けてあるし、刹那は散々()き下ろしていたが、そもそもいちごタルトも竜乙女の戦闘隊ドラグメイデンズ・アサルトの幹部格であり実力は一線級の折り紙付きだ。余程のことがない限り、多少は俺達から離れても問題はないだろう。おかげで俺も口調を取り繕う必要がなくなって一時の休息って感じだった。


「それと地面ね。丸くなってる区画だけすり鉢状って言うか、真ん中が窪んだ形になってるわ。そんなに深くはなさそうだけど、ちょっと角度的に見辛いかも」

「最悪ガスは警戒しておいた方が良さそうだな」


 自然・人工環境に限らず、毒性のガスを使うモンスターは気体が滞留しやすい狭い空間や窪んだ地形を利用するのはセオリーの一つだ。特に設定上兵器の運用実験のために意図して作られた空間だ。その兵器の強みを活かす設計が為された空間に配置されていてもおかしくはない。


「まあ、うちにはネアがいるから大丈夫だと思うけど」


 刹那の言う通り、天使種(エンジェル)系種族であるネアちゃんには《ウィング・バランサー》という種族資質(タレント)が備わっている。その能力は『素体の飛行翼を展開している限り、自分はデバフによる感覚異常効果を受けない』というもので、そのおかげで毒による体調不良や麻痺・眠気等の感覚異常を得意とするガス系のデバフに強く出ることができる。

 彼女さえデバフの影響を受けなければ、他のパーティメンバーが受けているデバフはその魔法でいくらでも解除することができる。もっとも、あくまでも消えるのは体感覚への影響だけで一部の毒系デバフで発生するダメージが無効になるわけではないから、自身のデバフのケアをしなくていいわけでもないが。

 そんなことを考えていると、少し離れたところからたったっと軽快な足音が聞こえてきた。


「シイナお姉様~♪」


 まだ少し距離が離れたその声に視線を向けると、ちょうど三人が戻ってくるところだった。その先頭では人懐っこい笑顔のいちごタルトがこっちに向かって手を振っている。ネアちゃんはその少し後ろをぱたぱたと慌てたように付いてきていて、リコは周りをきょろきょろと見回しながら最後尾を歩いている。


「気に入られて随分嬉しそうじゃない、()()()()()()?」

「勘弁してくれ、お前まで……」


 正直なところ、普段経験がない分慕われるのも悪い気はしないが、この刹那と罵倒の応酬をしていた姿を思い出すだけでストレスの方が大分勝っていた。

 俺を見下ろしてくるその悪戯っぽい笑みから顔を逸らすと、刹那は「ふーん」と意味有りげな呟きを漏らし、その直後、ふわっと空中に足を踏み出すようにして俺の隣にすたっと飛び降りてくる。


「アンタたち、迂闊(うかつ)に区画内に入るんじゃないわよ」

「そのくらい言われるまでもないですぅー」


 相変わらず若干棘のある遣り取りを交わす二人を無視して、寧ろ距離を取るようにしつつネアちゃんとリコに歩み寄る。


「二人共、何か気付いたことはあった?」

「シイナお姉様、どうして私に聞いてくれないんですか!?」


 怖いから。


「えっと……私は何も。あ、でもリコさんは何か気付いてたみたいです」

「ネアは本当に周りをよく見ているな」


 ネアちゃんに指名されたリコはアホ毛――もとい能動型動体検知(アクティブモーション)センサーをぴこぴこと上下に揺らしながら、感心したようにネアちゃんを見遣る。

 多分ネアちゃんはあのアホ毛が同じように反応しているところでも見かけたのだろう。それにしても、ネアちゃんは圧が少なくて純粋に癒やされるなぁ。


「で、気付いたことって言うのは?」

「ただ何ということもない。そこの奥に高速昇降機(スラスター・リフト)があるだろう。その奥に大型の動力反応が二つあるというだけの話だ」

高速昇降機(スラスター・リフト)?」


 さっきの報告にはなかった情報だ。刹那もそれを不審に思ったのか、俺と刹那はほぼ同時に反動をつけて壁に飛び付き、一息に壁の上によじ登った。

 そして、正面左右と隈なく見回す。

 報告にあった通りのすり鉢状の広い戦闘場(コロシアム)、見るからに頑丈そうな金属製のゲート、その近くの内壁に設置されたフィールドコンソール――――しかし、それ以外の場所には特に設備のようなものは見えず、殺風景なスペースが広がっている。


「私には何も見えないけど、アンタ何が見えてるの?」

「何処にあるって?」


 後ろを振り返ろうとすると、リコは既に俺と刹那の間に登ってきていた。


「二人共何を見ているのだ。あそこにあるだろう」


 リコは俺と刹那の方を呆れたように交互に見上げると、迷いなく戦闘場(コロシアム)の方を指差した。

 俺は裸眼で探すのを即座に諦めてアイテムウィンドウから『オペラグラス』を取り出し、リコの指の先を正確に追って視線を動かす。四倍程度の倍率では心許ない視野だったが、それでも注意深く見ているとすり鉢状に窪んだ地面にうっすらと入った線が見えてきた。

 何も言わず『オペラグラス』を差し出すと、同じように無言で受け取った刹那もその位置を確認するように覗き込む。


「大型の動力反応が二つってことは、あの下に自律兵器が二輌待機してるってこと? どんなものかまでわかる?」

「普通の感覚(センス)ではそこまでは分からないが、二輌なのは確かだ。もう少し調べた方が良さそうならやってみるが」


 リコはちらっと背後のいちごタルトを意識するような視線を遣りつつ、判断を俺に預けてくる。おそらく高精度のセンサー類を展開すれば更に情報を集めることはできるが、わざわざ『普通の感覚(センス)』と言い換えている辺り≪アルカナクラウン≫所属ではないという意味で初対面の部外者に自分の能力(センサー)を見せるのを躊躇っているのだろう。

 信用するしないの問題ではない。基本的に自分の能力の情報は可能な限り身内だけに留めるべきというのは俺も同じ考えだった。


「ううん、今すぐ危険がないなら後でいい。ありがとう、リコ」


 現時点でここにモンスターがいると分かることで幾つか推測は立つし、それだけでも情報としてはかなり大きい。

 このフィールドにある施設は人工知能がある中央の管制タワーと入口とは反対側にある充電施設、その二つの間に併設された居住施設と整備施設と格納施設、そしてフィールド全体に点在する大小合わせて十二個の実機試験場だ。

 その上で、こんな入り口から近いだけの適当な広場にボスモンスターがいるというのは考えにくい。それなら中ボス相当のモンスターが二体配置されていると考える方が妥当だが、どういう条件で出現(スポーン)するにせよまだ姿を現していないというなら、こちらからの干渉(アクション)を待っている状態だ。一度でも死んだらほぼ詰みのこの世界では、他の場所も調査して慎重に情報を集めた方が得策――――本命(ボス)次第では余計な戦闘はスキップできるかもしれないからだ。


「とりあえず一旦(とつ)ってみる?」


 刹那がとんでもないことを言い出した。


「どうせ一回はどっかで戦わないとボスのレベル帯や傾向も測れないし、中ボス程度にビビって負ける程私たちは(やわ)じゃないでしょ。シイナも私もいざって時に切れる手札(カード)はあるしね。コイツがモンスター相手に何処までやれないかも笑いたいし」

「どうしてやれない前提で笑われる前提になるのか、テメェの足りない頭かっさばいてその中確かめてみてもいいですぅー?」


 コイツら喧嘩しかできないのかよ。

 とは言え、刹那の言うことにも理がないというわけではない。あくまでも今日は調査のみのつもりではあるものの、俺と刹那がそれぞれ保有している召喚スキル【精霊召喚式(サモンド・プレイ)】や【魔犬召喚術式バスカーヴィル・コーリング】は単体で個人戦力の域を逸脱した破格の性能を持っている。その時点である程度のリスクを飲み込めるため、ボスの前に何処かで戦闘傾向のデータを取っておきたいというのは至極妥当な選択肢だった。逆にこの戦闘で仮に余裕を残した討伐ができると見込めれば、フィールド自体の電撃的な高速攻略も(あなが)ち不可能ではないだろう。

 本当なら中ボス級ではなくもっと弱いモンスターから確認したいところだが、前情報にもあった通り、このフィールドで見かけるのは今のところ謎の非敵対モンスターだけだ。まったく、無害というのも良いこと(メリット)ばかりじゃないわけだ。


「OK、とりあえずこの試験場の敵を討伐してみよう」


 廃棄された演習基地というバックボーンを信じるなら、兵器の実機試験で初見殺しの理不尽(ワンキル)攻撃や罠のような空間封鎖はないだろうと踏んでそう号令をかけると、やはりと言うべきか、


「流石シイナね。さっさと片付けちゃいましょ」

「何処までもついていくです、シイナお姉様ぁ♪」

「それを待っていた!」


 ネアちゃん以外の戦闘狂(バトルマニア)三人は露骨にテンションが上がっていた。


「が、頑張りますねっ」


 もとい、ネアちゃんも意外と感化されているのか、両の手を握るように自分に気合いを入れていた。

 ちなみに、話が纏まったところで俺が最初に済ませた仕事は、勢い余って直接内側に降りかねないリコの後ろ襟を掴んで壁の外側に引きずり下ろすことだった。

Tips:『フィールドコンソール』


 [FreiheitOnline]において、独立フィールド内に設置された仕掛け(ギミック)を操作するためのある種の舞台装置。基本的に対応するギミックの近くに設置されていて、多くの場合、フィールドコンソール以外の方法でそのギミックを仕様通りに操作することはできないため、フィールドコンソールが破壊された場合そのギミックに干渉する手段はなくなる。

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