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盤外編1 約束の対談

【桃花視点】


「みなさまこんにちは。女優の上弦美兎です。本日の私が対談したい相手は、この方です」


 煌々と照明に照らされたテレビスタジオの袖から飛び出した私は、一直線に親友の元へ殺到する。


「美兎ちゃ~~ん! 久しぶり~~~!」

「こら、抱き着くな桃花! セットした髪型が崩れる!」


 親友にこの塩対応。

 うんうん。久しぶりに会うけど、やっぱり美兎ちゃんだぁ。


「え~、コホン。それでは、改めまして。本日の私の対談相手は、私の高校の同級生で、将棋界の大スター 飛龍桃花八冠です」


「どうも~。けど、今日の格好って、着物で良かったの? 私的には変わり映えしないんだけど。やっぱり、美兎ちゃんと一緒に高校の制服着た方が良かったかな?」


「あのね……私、これでも結構、世界的な女優になったのよ? なんで、バラエティアイドルみたいなコスプレしなきゃいけないのよ」


「え~、楽しそうじゃん。けど、美兎ちゃんも海外に渡って、今やハリウッド女優だもんね。映画、誠君と観に行ったよ」


「誠君って、ああ、お師匠さんのことね」


「未だに、咄嗟に呼ぶ時は師匠って呼んじゃう時もあるよ」

「私も高校時代にもずっと、『師匠、師匠』って桃花から聞いてたから、違和感を感じるわね……って、その子、穂乃花ちゃん!? 大きくなったわね!」


「そうだよ。前に会ったのは、出産祝いを持ってきてくれた時だもんね。ほら、穂乃花、ご挨拶して。ママのお友達だよ」


 傍らに立つ長女の穂乃花に、挨拶するように促す。



「こにちは」


「かわいい……」


ふふふっ、そうでしょ、そうでしょ。

うちの娘、可愛いでしょ。


 何なら、美兎ちゃんの芸能界パワーを使って、子役デビューさせてもいいのよ?


「そういえば、下の娘さんも産まれたのよね。はい、これ。渡すの遅くなっちゃったけど、出産祝い」


「わー、雫のネーム入りのバスタオルだ。ありがとう美兎ちゃん」

「バスタオルならいつ渡しても使えると思ってね」


 2人でキャッキャしていると、スタジオにいるスタッフさんからカンペが。

 ええと、なになに……。



『対談なので、そろそろ席に座ってください』



「「あ……」」



 私と美兎ちゃんはカンペを見た後、顔を見合わせた後に、自分たちが立ったまましゃべり続けていたことに気付き、笑ってしまった。




◇◇◇◆◇◇◇



「下の娘さんは今日はどうしたの?」


「雫は寝ちゃったから、スタジオ裏に用意してもらったベビーベッドに寝てるよ。弟子が見てくれてる」

「もう、すっかりお母さんだね桃花は」


「そうだね~」


 ようやく対談用に用意されたチェアとソファに座った私たちは、じっくりとお話に入る。


 穂乃花も今のところは、この日のために封切った新作の絵本に夢中で、私の隣で大人しく座ってくれている。


「ついこの前まで、高校でお師匠さんのことを惚気てばっかりいた子がお母さんかぁ」

「いえいえ、今でも誠君とはラブラブですが?」


「けど、棋士の仕事の他に保育園のお仕事もあるんでしょ? 四六時中、一緒だと大変じゃない?」

「毎日一緒に居れて楽しいよ」


「いや、あなたはそうでしょうけど、お師匠さんがよ」

「誠君はもう色々と諦めてるよ」


「何となく、ご家庭でのお師匠さんの苦労が察せられるわね」


 苦労とは失礼な。


「あ~、それにしても、こうやって話してると高校時代のお昼休憩を思い出すな~」

「桃花は、いつもとんでもない量の昼食を食べてたわね。流石に、食べる量は減った?」


「今も大して変わらないよ。旦那様の料理が美味しくて」

「私達も20代半ばで、もう若くないんだから、気を抜いてると太るわよ」


「大丈夫。将棋で脳みそ使って、保育園で園児たちと遊んで、家では子供たちと遊んで、カロリーは全消費してるから」


「大変そう……そんなスケジュールで、なんで将棋はあんなに勝ちまくるの?」


「今は、全てが楽しいんだ。将棋も、家族も、保育園の仕事も。楽しいことばっかりしてるんだから、調子がいいに決まってるよ」


「天才って、やっぱり常人とは色々と精神構造が違うのね……高校の時からそうだったけど」


「失礼な。私だって、人並みに色々と悩んだりしてきたんだよ」


「ああ。桃花、将棋辞めようとしてたもんね」

「え!? 師匠から聞いてた?」


 思いがけない美兎ちゃんの発言に、私はもちろん番組スタッフさんもザワつく。


「いいえ。ただ、桃花と話してる時に時々影が差すことがあったからね。何か抱え込んでるなっていうのは、当時感じてたのよ」


「美兎ちゃん、卒業式の時に、お互いビッグになっていつか対談しようねって言ってたもんね。あれはやっぱり、私に将棋を続けてねっていうメッセージだったんだね」


「きっと私には解決できない問題だから、せめてもの激励のつもりだったのよ」


「ありがとう美兎ちゃん」

「まぁ……親友だからね」


「美兎ちゃんがデレた! これは貴重ですよ視聴者の皆さん! 高校時代でもこんな美兎ちゃん見たことない!」

「せっかくいい雰囲気だったのにぶち壊すな! あんたは、本当に昔っからもう!」


 しんみりし過ぎた空気を、私がおどけて破壊したのはわざとだ。


 それを解ったうえで、美兎ちゃんも乗っかってくれている。

 私と師匠だけの秘密の約束について、カメラの前で話さなくてもいいように、話題を逸らしてくれて。


 やっぱり美兎ちゃんは私の親友だ。


 そんな美兎ちゃんの心意気に私も答えなくてはならない。


「じゃあ、そろそろ高校時代の赤裸々暴露大会コーナー行っとこうか、美兎ちゃん」


「そんなコーナー無いわよ」


 たしかに大まかな対談の話題の流れを決めた番組の台本には、そんなコーナーはなかった。


「今、私が考えた。けど、美兎ちゃん。卒業式の日にした約束覚えてる?」


 私はきちんと覚えてるぞ。

 対談では、当時の暴露話をしまくろうって。


「あれは、その場のノリで……今はお互い大人になって立場があるでしょ? 炎上とか怖いし……ね?」


 美兎ちゃんが本気で狼狽している。

 この顔が見られただけでも今日は収穫だけど、私は攻め手を緩めない。


「え~、高校時代の美兎ちゃんは、なんと~! 当時から、アイドルグループを踏み台に女優転身を心に決めて~」


「ちょっ! やめろ桃花! あんたがその気なら、当時、あんたがお師匠さんの部屋を盗聴しようとしてたこと話すわよ!」


「そ、それはヤベェ……い、いいもん。今更だから、きっと誠君なら許してくれるもん」


「もん、じゃない! あー、他にはえーと……師匠の盗撮動画データが」

「なんで美兎ちゃんがその事知ってるの⁉ そういうガチの奴は止めようよ美兎ちゃん! TVショーだよこれ! それ笑えるライン越えてるから!」


「あんたが先に始めたんでしょうが!」


 ギャーギャー言い合う美兎ちゃんとママを、娘の穂乃花はポカーンと眺めていた。




 なお、この暴露大会部分は当然のように全カットで放映されたのだが、後日、食卓にて娘の穂乃花から、



『ママは昔、パパの事が好きでトウチョウやトウサツしてたの?』



 との爆弾発言が飛び出し、食卓の空気が凍った。


 その夜、私は夫婦の寝室で正座させられて、師匠からお説教を喰らった。


 久しぶりの師匠からの説教は、正直、ちょっと心地よかった。


以上、盤外編1でした。


美兎ちゃんは、感想欄でも「もっと出番を!」との要望が多いキャラでした。

棋士とアイドルという意外な組み合わせですが、不思議と馬の合う2人で、作者も書いてて楽しい掛け合いでした。


本編が無事に完結後、皆さまに評価いただいたおかげで、本作は日間ランキングで最高2位にまで上がりました。圧倒的な感謝を! 本当にありがとうございました。


次回の盤外編は桃花と、最終回に名前だけ登場した桃花の弟子の歩美ちゃんのお話です。

「師匠♪ 師匠♪」と言っていたあの桃花が、弟子を持ってどうなったのか。

お楽しみに。


『軍の少将になって帰国したら今さら学園に通えと言われました』 も連載中です。

そちらも是非、下の作者マイページよりご覧ください。

現在、世間に少将バレした後のお話になっております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 徹子の部屋みたいな。まだやっているのよね、あれ。 二人ともお婆ちゃんになっても、関係が続いていったらいいですねえ。
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