番外編 それぞれの幸福③
ポールのところへ顔を出す。
彼は今日も魔導具作りに勤しんでいることだろう。
コンコンとドアをノックする。
「どうぞ!」
珍しい。
集中しているとノックの音にも気づかないことが多い彼が、今日は反応してくれた。
「待っていましたよ! 聖女様」
「こんにちは、ポール。待ってくれていたんですか?」
「はい。いろいろ見せたい物があって、結婚式用の魔導具!」
どさっと、テーブルの上に山盛りの魔導具が置かれる。
何が何なのかさっぱりわからないけど、凄い量なのは伝わる。
「こ、こんなに?」
「せっかくなら皆さんに楽しんでもらいたいですから! いろいろ仕掛けを用意しました。でも全部は使えないので、聖女様に選んでもらおうかと思って」
「そういうことでしたか。もしかして最近はこれをずっと?」
「はい。おかげで毎日楽しかったですよ!」
相変わらず、魔導具のことになるとひたすら真っすぐで、楽しそうに笑う人だ。
彼がこの国に来てくれたおかげで、助けられた人々も多い。
聖女である私より、国の発展に貢献している。
今じゃ有名人で、彼に憧れて魔導具師を目指す者もいるほどだ。
毎日忙しく働いている彼が、仕事よりも優先してくれたのは、私の結婚式で使う魔導具の数々。
心からの感謝と、喜びがこみ上げる。
「ありがとう。ポール」
「お役に立てたなら何よりですよ」
そうして、あっという間に時間は過ぎて――
◇◇◇
思えば、私の人生は順風満帆ではなかった。
スパーク王国での日々は、楽しさや充実よりも、辛く息苦しかった。
それを誰かに見せることは許されない。
聖女として振る舞い、正しくあることが全て。
聖女として生まれたのなら、それが当たり前だと思っていた。
でも、心のどこかでこうも思っていた。
私にも……普通の幸せが掴める日が来るのだろうか。
「新婦入場」
正装のジンさんの呼びかけに応じて、披露宴会場の扉が開く。
一緒に歩いてくれるのはシオンだ。
バージンロードの先に、白い服に身を包んだアクト様が待っている。
私たちの結婚式に、牧師さんはいない。
聖女である私には、神様の声が聞こえる。
もしも誓いを問われるなら、神様から直接でいい。
何より……。
「神様は祝福してくれているか?」
「はい」
言葉に出さずとも、私たちの想いは天に届いている。
祝福の光が、私たちを包む。
聖女の結婚式だからこそ起こる奇跡の光だ。
「長かったか?」
「長いようで、短く感じました」
「同じだな。出会ってから三年……なのに、ずっと前から一緒にいる気がする」
「そうですね」
私も同じ気持ちだ。
もしもこの世に運命があるとすれば、私たちの出会いも、こうしていることもすべて――
運命なのかもしれない。
「誓いの言葉くらい言ったほうがいいんじゃないか?」
「そうですね。皆さんにもわかるように」
ジンさんとシオンから一言。
アクト様は照れくさそうな顔をして、私の手をとる。
「俺は生涯、君だけを愛すると誓おう」
「私も、アクト様のことだけを愛していたいです」
私は彼の手を握り返す。
想いを確かめ合うように、温もりを感じるように。
そして――
短いキスをする。
「この国で、一番幸せな夫婦になろう」
「そうなりたいですね」
「なれるさ。俺たちなら」
「――はい」
今が言葉にできないほど幸せで、嬉しさが溢れて涙が流れる。
聖女としての祈りも、奇跡も必要ない。
ここにお互いの想いはある。
愛がある。
未来がある。
たったそれだけのことで――
私たちは幸せだ。
一人の幸せが二人に、そして三人。
より多くの人に広がっていく。
私たちが誰よりも幸福な二人になるように、同じように幸福な人たちが増えていけば。
いつかきっと、私たちの夢――
世界で一番幸せな人々の国。
スローレン王国がそう呼ばれる日も、遠くないかもしれない。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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