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似た者同士、近づく距離④

 アクト様が倒れた日から一週間。

 無事に回復され、仕事に戻っている。

 ジンさんに注意されながら、仕事の量は調整しているようだ。

 ポールも一日寝たらすっきりしたらしく、今は別の魔導具作りをしているそうだ。

 また無理をしていないか、私とシオンで定期的に見守ることにしている。


「大変じゃありませんか? 素材も不足しているのに、新しい魔導具を作るのは」

「そうですね。大変です」


 シオンの質問にポールが答えた。

 手元では作業をしながら続けて言う。


「でも、これはこれでやりがいはあるんです。前の国みたいに、これを作れと命令されているわけじゃないから、気持ちも楽ですよ」

「だからって、徹夜はダメですからね?」

「うっ……すみません。気をつけます」


 アクト様だけじゃなく、ポールもジンさんたちに注意されたらしい。

 寿命を削る様な働き方は、これから変えて行こう。

 大変な時期はまだ続く。

 けれど、とても順調だった。

 問題も一つずつ、着実に解消されていく。

 それぞれが役割を果たすことで、確実にこの国はよりよい方向に進んでいた。


 そんな時だからこそだろうか?

 運命というのは、時に残酷に加速する。


「イリアス」

「アクト様」


 研究室を出た直後に、アクト様と顔を合わせる。

 単なる挨拶、というわけではなさそうだ。

 いつになく険しい表情をしている。


「どうかされたのですか?」

「……君に客がきた」

「私に?」


 街の人だろうか?

 午前中に教会は開けていたけど、誰も来なかったから午後は閉じている。

 教会に誰かきたのかもしれない。


「教会ですか? それならすぐに向かいます」

「いいや……そうじゃない。相談者ではなく、君の関係者だ」

「関係者……」


 胸騒ぎがした。

 私にとって、関係者と呼べる人物は限られる。

 この場にいる人たち以外なら、思い浮かべるだけで嫌な気分になる人たちばかりだ。

 

「……スパーク王国から、ですか?」

「ああ」

「……」


 やっぱりそうなんだ。

 私はごくりと息を呑み、尋ねる。 


「どなたですか?」


 ライゼン殿下か、マリィか……。

 どちらかだと思った。

 ポールから、魔導具にいずれ限界がくることは聞いていたし、その件で私を探している可能性もあるだろうと。

 もしそうだとしたら……。


「君に会いたがっているのは、ジーク・ノーマン公爵だ」

「――!?」


 お義父様?

 ライゼン殿下や、マリィではなく……?

 私とほとんど関わりを持たず、屋敷でも避けていた人が……どうして?


「会うかどうかは君が決めていい。嫌なら俺が対応しよう」

「……いえ、会います」

「いいのか?」

「はい。これは私の問題ですので」


 アクト様やこの国に、迷惑はかけたくなかった。

 私は覚悟を決めて応接室に向かう。

 扉を開いた先に、懐かしき男の姿があった。


「――ああ、やっと会えたな。イリアス」

「……お久しぶりです。お義父様」


 屋敷で何度も顔を合わせた。

 けれど、こうして名前を呼ばれたのは久しぶりだ。

 この人にとって私は、本当の娘ではない。

 ただ、聖女として生まれたから、ノーマン家に養子として迎え入れただけ……。


「お義父様がどうしてこちらに?」

「それはもちろん、イリアスを探してたどり着いたんだ。謝りたいと思ってね」

「え……」

「イリアス、すまなかった!」


 私は目を疑った。

 まともに名前すら呼ばず、娘とも思っていないこの男が、私に対して頭を下げたのだ。

 嫌々ではなく、ハッキリと。

 アクト様も一緒にいる場で、私に対して謝罪した。


「お、お義父様……?」

「お前がどうしてここにいるのか。なぜマリィが聖女の代わりをしているのか。その理由を知った。信じてもらえるかわからないが、私は知らなかったんだ」

「え……?」


 知らなかった?

 あの出来事を……?

 そんなことが……。


「私はマリィから、お前は逃げ出したと聞いていた。だから自分が代わりをするしかないんだと。そうなのかと思った。マリィが言うならと」

「……マリィさんが……そんなことを……?」


 ありえそうな話だった。

 自分が聖女になるために、多くの人を騙した彼女ならば、そういう嘘を平気でつく。

 でも、お義父様はノーマン家の当主だ。

 私のことだって、聖女としても、娘としても信用していなかったはずだろう。


「……信じられません」

「イリアス……そうだな。今さらこんなこと謝罪に意味はないだろう。だが、今回の件は知らなかった。知っていたらとめていた。こんな馬鹿げたことは」

「……」


 お義父様が怒りをあらわにしている。

 演技なのか、本心なのか……。

 今まで家族でありながら、大した会話もなかった私には、真偽がわからない。


「ノーマン公爵、あなたは謝罪のためにお一人で来られたのですか?」

「アクト様……」

「はい。突然の訪問、まことに申し訳ありません。我が国のことで大変なご迷惑をおかけしました。ですが、今後はお任せください」

「どういう意味ですか?」


 アクト様の問いに、お義父様は私への視線を向けることで応える。


「イリアス、私と一緒に国へ戻ろう」

「――!」

「話は私がつける。マリィやそれに加担した者には、ちゃんと罰を与えるように、国王陛下に進言もしよう」


 私はこの一日で、何度驚かされるのだろうか。

 思わぬ一言に、開いた口が塞がらなかった。

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