似た者同士、近づく距離②
三日後。
寒さはより厳しさを増している。
そんな中、王城の一室でこれまで聞かない音がして、使用人たちも戸惑っていた。
「あそこはポール様のお部屋か。大丈夫なのか?」
「時々もの凄い音が聞こえますね……」
「……」
通りかかったシオンが部屋のほうを見つめる。
ポールはほぼ一日中、部屋に籠って魔導具作りをしていた。
その様子が気になる人が続出しているが、邪魔しては悪いと声はかけない。
シオンもその場を離れて、イリアスの元へと向かった。
◇◇◇
「――ということがありました。皆さん、不思議そうな目で見ていました」
「そうなんですね」
朝の着替えをしながら、シオンが教えてくれた。
どうやらポールは早朝から魔導具作りに励んでいるらしい。
昨日も徹夜だと聞いたし、体調は大丈夫だろうか。
少し心配だ。
「後で様子を見に行きましょう」
「かしこまりました」
着替えと朝の準備を済ませた私たちは、朝食前にポールの様子を見に行くことにした。
ポールの寝室は私の部屋の二つ隣だ。
そっちはスルーして、別の階にある研究部屋へと足を運ぶ。
「ポールさん、ちゃんと寝ているのでしょうか」
「私が確認した限り、ほとんど寝室には戻られていません」
「やっぱりそうですよね」
素材が揃ってからほぼ一日中、研究部屋に籠っている。
アクト様も心配されていたけど、彼も忙しい。
彼もすでに、朝食前から国王としての仕事に励んでいるそうだ。
私もそれなりに早起きなほうだけど、ここでは一番遅い。
なんだか申し訳ない気分になる。
もっとも、私が無理に早起きをしても、やれることなんてないのだけど。
研究部屋に到着する。
中から作業音が聞こえるから、彼がいることは確定だ。
「ポール様」
シオンがノックして声をかける。
返事はないが、作業音は聞こえている。
気づいていないだけだろうか。
「入りますね、ポール様」
そう伝えて、シオンが扉を開ける。
中は散らかっていて、足元にゴミが転がっている。
テーブルの上にも色々物が乗っていた。
ポールはというと、床に座り込んで作業をしている。
私は近づいて、彼に声をかける。
「ポールさん、おはようございます」
「……んえ? せ、聖女様!?」
彼はびっくりして立ち上がった。
思っていた反応と違う。
もしかして……半分寝ながら作業していた?
「お、おはようございます! 聖女様、あ、シオンさん……わざわざどうしたんですか?」
「様子を見に来たんです。もしかして、今日も徹夜ですか?」
「あーはい。あとちょっとだったので」
「大丈夫ですか? 目の下隈ができていますよ」
「へ、平気ですよこれくらい。よくあることなんで」
ポールはスパーク王国で働いている時も、よく徹夜で作業をしていたそうだ。
三日ぶっ通しで働き、一日休むという身体に悪そうな生活をしていた期間もあるらしい。
「そ、そうじゃないと終わらない仕事があったので……」
「そうですか」
無茶な仕事を押し付けられていたようだ。
私はよく働きすぎだなんて言われるけど、ポールのほうがずっと大変な思いをしていたのかもしれない。
「ちゃんと休んでくださいね」
「あ、はい。でも出来ましたよ! ついさっき! 今は調整をしていたところで……はぁー」
ポールは大きく欠伸をする。
よく見ると彼の周りには、手のひらサイズの箱型魔導具が積み上げられていた。
シオンがその一つを手に取る。
「これが暖房魔導具ですか?」
「そうです。一個で大体部屋一つ分の効果しかないですけど。広さより、数のほうがいるって陛下がおっしゃっていたので」
「数日でこんなに……徹夜してまで作ってくださったのですね」
「あははは……作業に集中すると時間を忘れるんです。でも……そろそろ眠く……」
「ポール様!」
ふらついたポールをシオンが咄嗟に支える。
心配そうにのぞき込むと、ポールは寝息を立てていた。
私とシオンは顔を見合わせる。
「眠ってしまいました」
「そうですね。このまま寝かせてあげましょう」
「はい。あとでジンに頼んで、寝室に運んでもらいます」
「それがいいですね」
簡単にソファーの上を掃除して、彼を寝かせる。
ありがとうと、眠っている彼に伝えて部屋を出た。
その後、ポールの頑張りは、朝食の場でアクト様とラクスド様に伝えた。
「そうか。徹夜してまでもう作ってくれたのか。すごいやつだな、ポールは」
「はい、体調を崩さないかは心配ですが」
「そうだな。嬉しいことだが、無茶はさせないように注意しておこう。ジン」
「ああ、今から行ってくるよ」
アクト様がジンさんに、ポールのことを頼んだ。
ジンさんは部屋を出て行く。
朝食をパパっと済ませると、アクト様はすぐに立ち上がり、シオンに尋ねる。
「出来上がった魔導具は研究室にあるんだな?」
「はい。置いてあります」
「さっそく使用テストをしよう。使い方は事前に教えてもらっている。問題なければ使ってもいいだろう。本当はポールが起きるまで待ちたいが……」
そう言いながら、アクト様は窓の外を見つめる。
本日は天気が悪い。
分厚い雲に覆われていて、いつ雨が降り出すかもわからない。
この時期だから雨ではなく、雪の可能性すらある。
「使えるならすぐに街に配ろう」
「アクト様、私もお手伝いさせてください」
「イリアス? そうだな、手伝ってくれ」
「はい」
朝食後、私たちは研究室に戻った。
アクト様が完成した魔導具を手に取り、使用できるかテストする。
使用方法は簡単で、部屋の中心に魔導具を置き、ボタンを押すと四方の穴から温かい風が出る仕組みだった。
本体は少しだけ熱を持つが、触れても火傷の心配はない。
ただしずっと触れていると低温火傷の危険があるので、注意はいる。
私の前世の世界で使っていたエアコンの超小型バージョンみたいなものか。
しばらく待って、部屋の温度の上昇を体感する。
「よし、使えるな。さっそく配りに行くぞ」
「はい!」
こうして、完成した暖房魔導具は街の人たちに配られた。
暖炉がないお年寄りの世帯を中心に。
数に限りがあるから、全員にいきわたらせることはできなかったけど、この国にいるのは理解のある人間だけだ。
必要な人に、必要なものを。
そう説明しただけで、ちゃんとわかってくれるだろう。






