29.それぞれの真実
心配して部屋の中に駆け込んできてくれたもう一人の転生者に、種明かしのように日本語で話しかければ。彼が出て行った後に、思った通りヒロインが話しかけてきた。
『……ってゆーか、元日本人多すぎない?』
『本当にな。流石に転生者がこうも多いとは思ってなかったな』
というか、ここまでくるといっそリジオンも怪しく思えてくるな。
いや、まぁ。それを言うと際限がなくなるから、考えるのもやめておくけど。
『ローズ?とりあえず座ろう?何か飲み物を用意するから』
『え……?あ、いや、その……』
『どこに何があるか知らないだろ?いいからいいから。全員同じ元日本人みたいだし、下手に遠慮する必要はないって』
ヒロインからの質問に、日本語で話そうと答えてから。まだ若干放心状態のローズを促して、一度腰を落ち着かせる。
こっちの言語でいいのなら、繕う必要もないし。
(けど、まぁ……)
要するに、全部を知った上で避けられていたわけだ、と。全員分の飲み物を用意しながら、その事実に軽くショックを受けていた。
理解はできる。自分を殺すかもしれない相手なんて、何とかして避けたいと思うだろう。
そこは分かる、んだけど……。
(基本ローズしか名前で呼ばないのは、身分うんぬんだけじゃなかったんだけどな)
予防措置なのは本当。必要な時にしか、他の婚約者候補の名前を呼ばなかったのも事実。候補者以外なんて、そもそも名前で呼んだことすらない。
ただそれは、俺にとっても都合がよかった。
ローズだけでいい、と。そう思い続けてきた俺にとっては。
『なーんか拍子抜けー。初めから知ってたら、あんなに必死にならなくてすんだのになー』
『いや、むしろ必死過ぎるだろ。何だよ媚薬入りクッキーって。驚き通り越して若干引いたわ。男として』
『だってー。そうでもしないと踏ん切りつけてくれないんだもんー』
紅茶を淹れながら、普段通りに話してはいるけれど。
実際別のことを考える頭の中は、ローズのことだけでいっぱいだった。
『強引にゲームを進めようとしてない所は助かったけどな』
『そりゃそうでしょ。ゲーム的にヒロインのお相手は全員貴族だよ?場合によっては王族じゃん?いやでしょ、そんな窮屈な人生』
『一番窮屈な人生送りそうな王族目の前にして、そういうこと言うのやめてくれないか?』
『ざまーみろー』
『何がだよ!?』
むしろそのせいでローズに避けられてたって分かった今、まさしくざまぁなんだよ!言うなよ!!
俺が王族じゃなく、たとえばリジオンだったとしたら……。
(……いや、その場合は王太子の婚約者候補だから出会えもしないし、たとえ出会えたとしてもどうしようもないな)
結局は、俺が王太子じゃなきゃ意味がないし。ほかの誰かに取られるなんてもってのほかだ。
だから。
『ただ正直な事を言うと、あんまりヒロインは好きじゃなかったなぁ。俺はローズ推しだったから』
『!?』
『あ、分かるー』
『!?!?』
『あのゲーム、ところどころなんか納得いかないというか……。そもそもローズ本人は、何も悪くなくない?』
『そうそう!むしろなんで平民育ちの癖に王妃になれるのこのヒロインってね!』
『この世界に生まれて、実際王族として育ってきた今だから分かるけど…。ゲームとはいえ、あまりにもご都合主義が過ぎるだろ』
同意してくれたヒロインへの好感度も多少上がりつつ、隣でちょっと驚いたように戸惑うローズに。
『それを言ってしまったら、ゲームなのに夢がないんじゃ……』
『あれ…?ローズはあの内容肯定派?』
『否定派です。否定派だけど……』
『ご都合主義なら、ローズが生きて幸せになるルートがあってもいいと思う。少なくとも俺は、必ずローズが殺されることが納得いかなかった』
『っ……』
本気でそう言ってしまったのも、仕方がなかったんだ。
というか、どうせならこのままいい雰囲気に持っていけないだろうか。少しぐらい、俺になびいてくれても……。
そういう下心が出たのがよくなかったのかもしれない。
『口説くのは後にしてもらってもいいですかねぇ?』
『くっ…!?』
『……元日本人なのに、空気が読めないのかねぇ?そこのピンク髪は』
『だーかーらっ!!ピンク髪って言うなぁ!!』
つい、ヒロインがいることも忘れていて。ゼラがよく口にしていたから、ピンク髪なんて言ってしまった。
ただ本当に、もう少しだけ黙っててくれてもよかったんじゃないかと思うんだよ。ついさっき協力するって言ってたんだしさぁ。
なのに。
『ローズは?いつ自分が元日本人だって、自覚した?』
『え?あ、えっと…私は小さい時に、原因不明の高熱で死にかけて……』
『という事は、初めて俺と会った時には既に自覚してたわけか……』
『だ、だから避けてただけで…!!』
『あぁ、うん。大丈夫。納得してるから』
そうやって俺とローズが話しているところに。
『ゲームの中だけで考えれば、ほとんどの人物避けなきゃいけなくなっちゃうんじゃ…?』
途中からヒロインも入って来たかと思えば。
『だから避けてたでしょ?』
『取り巻きーズも含めて?』
『やめて。第一、世間的には彼女たちと同じ括りにされてるんでしょ?私』
『そりゃあねぇ。なんたって王太子殿下の婚約者候補たちだよ?あの中の誰が王妃になるんだって、そう思われるでしょ』
『ゲームだと、全員跳ね除けて王妃になってたくせに』
『それ私じゃないから!!あと王妃とか面倒!!いや!!なりたくない!!』
『私だって死にたくないから…!!』
『現段階で死ぬ要素ないんだからいいでしょ!?』
『……いや、っていうか…。俺ってそんなに避けられる存在だったんだ……』
だいぶ抉る発言を、ローズから引っ張り出してきてくれる。
ホント、何がしたいんだよ。ガチで落ち込むだろうが。
(まぁ、でも。とりあえずは)
全員が全員、ゲームの未来を避けようとしていたのは同じだったわけで。
それぞれの真実は微妙に違えど、向かっていた方向は変わらなかった。それが知れただけでも収穫はあった、と。
そう、思えたのもつかの間。
『っていうか、それならなおのことゲームなんて無視しちゃえばよかったのに。そもそもゲームが始まった時点で、全員破滅ルートしかないんだし』
がっつり爆弾発言を落としてくれたヒロインに、違う意味で驚かされることになるなんて。
思っても、みなかったんだ。




