表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ配信中!】ヒロインがヒロインしてくれません!! ~私は悪役令嬢なんです!だから王太子殿下の婚約者なんてお断りいたします!!~  作者: 朝姫 夢
王太子視点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/356

25.夢だと話す君は

 俯いてしまったその先にある、金の瞳に映る感情が知りたくて。

 俺はさらに言葉を重ねようと、口を開く。


「子供の頃から、ローズは私を避けていた気がしていたんだけれど。気のせい?」

「それ、は……」

「何か気に障る事をしてしまったのか、それとも私が王太子だから、なのか」

「っ…!!」

「本当の事を知りたいだけなんだ」


 そう、本当の事。

 避けられていたその理由こそが、俺の知りたい真実。


 だから。


「ねぇ、ローズ?お願いだから、教えて欲しい…」

「っ……」


 理由もなく王族を避けるような子じゃないって、ちゃんと知ってるから。


「そ…の……」

「ん…?」

「っ…!」


 言いにくいことなのは分かってる。でもだからこそ、話してくれる気になるまで待つしかないんだ。

 まだ俯き加減のままだから、その瞳を覗き込むように見上げれば。


「ぁ……」


 その可愛らしい唇から、小さく声が漏れた。


 その姿が、どこか妙に色っぽくてドキドキして。

 けどさすがにそれを表に出すわけにはいかないから、代わりに微笑んでみせる。

 少しでも、話して大丈夫だと安心して欲しくて。


 たぶん、それがよかったんだと思う。


「とても……個人的な事、でして……」

「うん」

「決して……嫌いだとかでは、なくて…ですね……」

「うん」


 ぽつりぽつり、と。話し始めてくれたから。


「その……小さな頃から、夢を…」

「夢?」


 どうしていきなり夢の話?とは思ったけど。

 ここで話の腰を折るのはどう考えても得策じゃないので、首を傾げるだけに留めておく。


「夢の中で、フレゥ殿下はある女性に夢中になっていらして……」

「ある女性…?ローズではなく、別の婚約者候補の誰かかな?」

「彼女たちの中の誰でもなく、その……」

「…あぁ、なるほど。私の妃にするのに相応しくない相手、なのかな?」

「相応しくないわけでは、ないのです。ただ……」

「ただ?」


 言い淀んだ先が、きっと大切なことなんだろうと。

 少しだけ促すように聞き返してみれば。


「心から想う方がいつか現れるのだと…ずっとそう、思っていたので……」


 そんな風に、言葉が返ってくる。

 しかも。


「私でも他の婚約者候補者でもない女性を、一途に想われる未来があるのでしたら……。私はお側にいるべきではないのだろう、と……」


 夢を見始めた小さな頃からずっと、そう思っていたんだろう。

 まるでそれが当然のように、どこか諦めたような顔でそんなことを言っているから。


(でもそれって、つまり……)


 自分が邪魔にならないように、と。王太子(おれ)が幸せになれるように、と。

 そう、願ってくれていたということでもあって。


(……あぁ、そっか。この子は本当に、優しすぎるんだ)


 俺に気持ちが向く向かない以前の問題で、その夢がもしかしたら本当になるかもしれないと思ったから。

 だから、いつもどこか一歩引いた場所から見ていたんだ。

 自分にはきっと、関係のない場所なんだろうと思いながら。


(正直、その夢について色々聞いてみたいし検証もしてみたいけど)


 でも今はまず、それよりも。


「つまり……私が大切に思う女性と共にいられるようにと、そう思っていてくれたんだね?」


 その優しさゆえに。


「私自身が何かをしてしまったとかではなく」

「そのような事は、決して…!!」

「じゃあ、私の事が嫌いなわけではないんだね?」

「嫌いだなんてそんな…!!」


 慌てて否定してくるローズに、心から安堵する。

 俺自身が嫌われていたわけじゃないと知れただけでも、かなりの収穫だから。

 まだきっと、チャンスはある。


「良かった…。ずっと気になっていたんだ。私はローズに嫌われているのかもしれない、と」

「……申し訳、ありませんでした…」

「いいんだよ。むしろようやく理由が分かって、私としては一安心だから」


 本当はもっと早く、こうしてちゃんと話すべきだった。そうすれば悩まなくてすんだし、ローズに王族を避けるなんていう心苦しいこともさせなくてすんだはずだったから。

 けど、過ぎてしまった時間は戻らないし、もう仕方がない。過去をとやかく言うよりも、今は前に進まないと。

 なにより色々な決定が出てしまう前でよかった。後戻りできないほど進んでしまっていたら、きっと何もできずに終わっていただろうから。


「でも、そうか……。夢、か……」


 ただこのローズの夢に関しては、少し考える必要があるかもしれない。

 なにせその内容は、ゲームとあまりにも酷似していたから。


(仮に本当にローズが聖女だとすれば、その力のせいとかか?)


 とはいえそんな文献は読んだことがないし、なにより聖女の力っていうのはまだまだ解明されていないことが多い。

 そもそもどうして王族だけが聖女を見つけられるのかさえ、理由は分かっていないわけだから。


(でもまぁ、今はとりあえず……)


「ローズ」


 優雅にバラの入ったお茶を飲みながら、どこかホッとした様子の彼女の名前を呼んで。


「っ…」


 少しだけ驚いたようにこちらを見ている、金の瞳と目を合わせる。


「……ぁ…」

「またこうして、時折一緒にお茶をしよう?放課後に、本当に時折でいいから」


 ね?と柔らかく目を細めて、首を傾げつつ聞けば。

 無言のまま首を縦に振って、肯定してくれるローズに。


(もう少しだけ、近づきたいから)


 彼女の負担にならない程度に、ちゃんと時間を取ろうと決意した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ