22.ローズからの叱責
「ローズ……」
「何でしょうか?」
教室に帰ってきたローズに声をかけても、戻ってきた返事は普段以上にそっけないもので。
それに落ち込める立場じゃないのは分かっているのに、それでも声に覇気が乗らないのはどうしようもなくて。
「その…すまなかった……」
「あら、何のお話でしょうか?」
「休み前に……。君はちゃんと自分の物ではないと、頼まれただけだと言っていたというのに…」
「えぇ。そう言いましたわ。けれど信じてくださらなかったのも勝手に他人のクッキーを口にしたのも、全て王太子殿下ご自身ですから」
(名前すら、呼ばれないほど……)
彼女は今までに無いほど、怒っているということなんだろう。
確かにそうだ。ちゃんとそう主張していたのに、信じなかったのは俺の方なのだから。
王太子殿下、なんて。よそよそしく呼ばれるのも、仕方がない。
だから俺は、そのことをただ素直に真剣に、真摯に謝るしかなくて。そこに王族だとか貴族だとかは関係ないから。
謝罪を口にする以外、彼女に対して出来ることなんて一つもない。
「本当にすまなかった…。君の言葉を無視するような事をして…」
そう俺が口にした瞬間、こめかみがピクリと動いたような気がしたのは……きっと、気のせいじゃない。
相当怒っているのは分かってる。けど、このままでいいわけがない。
クラスメイト達も応援してくれているわけだから、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。
「もしかしたら君は既に呆れてしまっているかもしれないが、二度とこの間のような事はしないと誓う。だからどうか、許してはくれないか…?」
今許してもらえなかったとしても、何度だってチャレンジする。
許してもらえなくてもいいなんて、今はもう思わない。
クラスメイト達は、未来の臣下達だから。
彼らが望んでくれた未来を、俺もちゃんと王太子として、叶えたい。
そう強い思いを胸に抱きながら、ローズを仰ぐように見れば。
「王太子殿下。今回は学園内の、しかも学生同士の話で済みましたが、本来は一度でもあってはならない事なのです。その事はちゃんとお分かりになっておられますよね?」
誰よりも厳しいけれど、誰よりも正論を返される。
「王族である以上、何が入っているのかも分からないものを簡単に口にしてはなりません。たとえそれが誰の持っているものであろうとも」
まさにその通りで、本来であれば毒見もしていないような物を勝手に口にするべきじゃなかった。
むしろ本当にそれで何かあったら、誰かが責任を取らないといけなくなるところだったわけで。
俺の勝手な行動で、誰かが罪を背負うことになる。
今回はそのことがすっかり頭から抜け落ちていた上に、もし媚薬が俺に効いていたら大変なことになっていたのだと二重で反省すべきことだった。
もしこれが媚薬ではなく毒だったら、本当に責任なんて言っている場合じゃなかったから。
それに。
「何より、臣下や民の声を王族が聞けなくてどうするのですか。独裁政治でもされるおつもりですか?」
「いや……。ローズの言う通りだ。私は王族として、最もしてはいけない事をした…」
ローズの言葉を蔑ろにしたというのは、そういうことだ。
臣下の言葉を全て鵜呑みにするのでも、全て疑うのでもなく。正しいのかどうかの判断を、常に自分で考えて答えを出さなければいけない立場だというのに。
それをしなかったのでは、確かにローズが言う通り独裁政治を始めてしまうようなものだ。
それじゃあ意味が無いし、下手をすれば国が崩壊する。
第一、自分で妃にしたいと宣言している相手の言葉を聞かないなんて。そんな夫、普通に考えて嫌だろう。
「謝罪は受け取っておきますが、次からは私の話を聞いて下さい」
「あ、あぁ…!!必ず…!!約束する…!!」
その言葉が聞けたということは、今まで通りに接してくれるということ。
正直プラスにはならないし、むしろどちらかというとマイナスになったようなものだけど。
それでも完全にかかわりを断とうとされなかっただけで、十分すぎる。
「私だけではありませんよ?大勢の方の言葉にしっかりと耳を傾けて、真偽のほどをしっかりと確かめてから行動に移してくださいね?」
「ドゥ・フィオーレの名に懸けて誓おう」
王族としてのドゥと国としてのフィオーレの、両方の名前。その二つを使っての誓いは何よりも重い。
それを分かっていて、あえて口にしたのは。
向けた真剣なまなざしを。先ほど改めてした決意を。
王族としての存在意義を、他の誰でもないローズに誓い信じてもらうため。
ローズからの叱責は、全てが正論で。けれどきっと、誰もが王族に対して口にするのをためらってしまうようなこと。
それをしかも女性でありながら、男である王太子と一対一であろうとも口にできる強さ。
彼女がいてくれるのなら、国の未来を背負うことすら重荷にはならない。
真っ直ぐに臆することなく正しいことを口にできるローズは、誰よりも臣下として信じられると同時に。
誰よりも王妃の座に相応しいのだと、改めて思う出来事だった。
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更新のたびに読んで下さっている方も、最近一気読みしたよという方も、本当に本当にありがとうございますっ!!m(>_<*m))ペコペコッ
王太子視点はまだまだ続きますが、こちらが終了次第今度はジャスミンのヒロイン視点をお送りしたいと思っております。
そこの終了時点で合計何話になるのか、まだ分かりませんが…。
今後もお付き合いいただければ幸いです♪




