21.許されるのであれば謝罪だけでも
バレンタインなのに、一番最初に俺にチョコを渡してくる妹に。
『なぁ、俺じゃなくて好きな男子に渡せばいいんじゃないか?』
そう、言ったのに。
『いいの!私が一番最初にお兄ちゃんに渡したいだけなんだから!それに学校の男子は、お兄ちゃんみたいに優しくないし気が利かないもんっ』
『そ、っかぁ……』
それしか言えなかったのは、気が利かないに入らなかったんだろうか?
『まぁでも、可愛い妹から一番最初にもらえるのは嬉しいな。ありがとう』
『うん!どういたしまして!』
今思えば妹はかなりのブラコンで、結婚するならお兄ちゃんみたいな人がいい!!なんて言ってたっけな。
結局ちゃんと、優しくて気が利く男を捕まえて結婚してたけど。
(でも、そっか……)
あの時もしも、先に母さんか父さんが妹のチョコをつまみ食いしてたとしたら……。
(怒って悲しんで、泣いてただろうなぁ……)
それと同じ事を、俺はヒロインにしてしまったわけで。
謝ったからって簡単に許してもらえるわけじゃないのは当然だろう。
『……で?どーすんだよ?もう週末だぜ?明日明後日と休みだぜ?』
この世界も前世と同じように、一週間は七日。学校は土日は休み。
そして今日は運が悪いことに、金曜日。
『…………曜日の言い方も同じとか、ゲームだからってどうなんだろうな……』
『いや、今そこ議論してる場合じゃねぇから』
無意識に現実逃避をしようとしていたのか、どうでもいいことを口走った俺に。素早くツッコミを入れてくれるゼラは、本当にありがたい。
『っていうか、謝りたいのに謝る方法がない……!!』
『手紙だとなぁ、誠意が伝わりづらいもんなぁ……』
『むしろ今のローズなら、受け取ってもくれない気がする……』
『あー……まぁ、なぁ……』
ちゃんとローズはダメだと口にしていたのに、それをまともに受け取らずに勝手な判断を下したのは俺だ。全面的に俺が悪い。
ただでさえローズには避けられてるっていうのに、こんなところで失態を犯すなんて本当に何をやっているんだろうか。
『とはいえ今更どうしようもないからなぁ。今から休日のお誘いとか、急すぎてむしろ嫌われそうだしな』
『だよなぁ……』
貴族の外出というのは、事前に連絡を入れておいてその日に向けて準備をしてからするものだ。
特に王族である俺は、なおさらそれに時間がかかる。
服装にルートに警護にと、とにかく簡単には出かけられないわけで。
『ま、休み明けに声かけるしかないだろ』
『そう、だな……』
許されるのであれば謝罪だけでもローズにしておきたい。
それが俺の自己満足で、かつ彼女に取った行動も身勝手なものだと分かってはいるけれど。
俺がやったことを許してほしいとは言わないから、せめて謝る機会だけは欲しい。
そう、だから。
休み明けの放課後、ローズが職員室に向かったのを見計らって、クラスメイト達にお願いをした。
「少しだけ、ローズと二人で話がしたいんだ。協力してくれないかな?」
別に命令とかではないし、あくまでお願い。無理なら無理で、他の方法を取るだけだと考えていた俺に。
「もちろんです!!むしろお二人はもっと時間を作るべきですよ!!」
「折角お似合いですのに、お二人が並ばれる時間があまりにも少なくて心配しておりましたの!」
なんて、口々に言って応援してくれるクラスメイト達。
「頑張ってください、殿下!」
「私たちはお先に失礼させていただきますわ」
「お二人が仲睦まじく並ばれるお姿を拝見できる日を、一同心待ちにしておりますので」
「みんな……。うん、ありがとう。頑張るよ」
どうやら思っていた以上に、俺とローズが一緒になる事を望まれているのだと。意外なところで真実を知った。
『……よかったな。クラスメイト達は肯定的で』
『ホントに、な』
『じゃ、俺も先帰ってるわ。頑張れよー』
最後まで残っていたゼラがそう言って、教室を出ていく。
そうして一人残されたこの場所は、なんだか普段よりも広く感じられて。
「…………学園内で一人になる事があるなんて、思ってもみなかったな……」
必ず誰かを側に置かなければならない立場上、寝る時以外なかなか城の中でも一人にはなれないのに。
それが外で、しかもこんな風に協力してくれるなんて。
「ちゃんと、それに応えられる王になろう」
だからなおさら、ローズにちゃんと謝って。
二度とあんなことをしないように、気を付けて行かないと。
一人教室でローズを待つ間に。
人としても王族としても、決意を新たにしていた。
実はちょっと心配していたクラスメイト達。
物語上彼らの出番はほとんどありませんが、一番二人の行く末を見守っている人たちでもあるのかもしれません。




