17.ゼラからの報告
『は?』
その日、ゼラからの報告でもたらされた事実は。
予想以上に、自分にとっては衝撃的だったらしい。
『おーーい?大丈夫かー?戻ってこれるかー?』
心配そうなゼラの声と、目の前で振られている手の影に気付いて、ようやく瞬きを思い出して。
固まりすぎていたらしいと、目の乾き具合から自分自身驚く。
『だい、じょうぶ……』
『じゃあ、なさそうだなぁ』
『…………いや、だって……うそだろ……?』
まさか。
まさかあのローズが……!!
『何でよりにもよってヒロインと一緒にいるんだよ!?!?』
ゲーム中だとライバルのはずで、仲が悪かったはずで。
それなのに現実では、お昼ご飯を一緒に食べる仲だとか。
どういうことだ!?!?!?!?
『俺だってよく分かんねぇよ。けどだって、そのヒロインの教室ではかなりの騒ぎになってたらしいぜ?』
『いや、だって……だってローズとヒロイン、何の繋がりもないだろう!?』
『そこは知らねぇよ。けど調べた限りだと、確かに何にも関りはなかったな』
そう、そのはずだ。
だって片や公爵令嬢、片や平民。
いや、実際には平民として育ってきた男爵令嬢だったけども。
けどそうだとしても、公爵令嬢と男爵令嬢なんて接点があるわけがない。身分が違いすぎるんだ。
そう、そのはず、なのに。
『なんでだよ……なんでローズがわざわざヒロインの教室にまで行って、自分から誘ってるんだよ……』
『そればっかりはなぁ……。目撃情報多数なのに、理由は誰も知らないんだとさ。俺にも分からなかったし』
ローズは一体何を考えてそんなことをしているのか。
というか、なんでヒロインのことを知ってるんだ。どこか知らないところで出会っていたとか?王太子との出会いイベントは発生していないのに?
(いやいや、そんなバカな……)
そもそも教室だって一番と言っていい程遠いのに、どうやって出会うのか。
あれか?男爵のしかも庶子だから、他の令嬢にヒロインがいじめられていたところにでも出くわしたとかか?
あり得そうだから怖い。
『このままローズがヒロインに攻略されたらどうしよう……』
『え!?そんなルートあんの!?』
『ゲームではなくても、現実だとどうなるか分からないだろ!?』
こっちは急いでディジタリス公爵のことを調べたいから、昼休みにまで執務塔にまで来てるっていうのに。
その間にヒロインはちゃっかりローズと仲良くなってましたって?そんなの許せるかっ!!
『あー……じゃあまぁ、とりあえず、だ。今日の放課後にでも、確かめてみたらどうだ?』
『確かめる、って……ローズ本人にってことか?』
『それが一番手っ取り早いだろ?』
確かに、それはそうなんだけどな……。
『っつーか、今それを考えてる場合じゃないんだよ。ディジタリス公爵が私用で領地に行った時に、怪しい動きがあったかもしれないっていう報告があったから今ここにいるんだろ?』
『そうなんだけど……!そうなんだけどな……!!』
今はそれよりもローズの方が気になるっ…!!
とはいえディジタリス公爵のことだって、後回しにしていい内容でもないし。
『まずは、こっちの報告書に目を通してからだ。ラヴィソン公爵令嬢に関しては、授業中にでも考えてればいいだろ?どーせ既に帝王学で授業内容なんてほとんど学んでるんだし』
『まぁ、な』
実際学園での授業は殆ど履修済みの内容ばかりだったし、特に国の歴史は自分のルーツとイコールだから。あれもこれも全て、自分の先祖の話だったりする。
おかげで学園の歴史の授業は全て、予習も復習も必要ないくらい諳んじられるほど聞かされて覚えさせられてるものばかり。
まぁ確かに自分の国の王太子が歴史を知らないってのは、さすがにまずいもんな。
ちなみに国の歴史の中には、良くも悪くも王族のあれやこれやが含まれているから。
まぁ、見本にしたり反面教師にしたりっていう側面もあるんだろう。
たまーにいるんだよなぁ。色欲に溺れた王族とか。
あれはなぁ……自分はこうなりたくないって、ホント強く思わせるんだよなぁ……。
そういうあたり本当に、帝王学って大切なんだなって思ったよ。
同時に、ダメなものを切り捨てる非情さも学んでるわけだから。あれはホント、ためになる。
そう、だから。
『上手いことディジタリス公爵の不正を見つけられれば、不必要な婚約者候補全員を排除できるかもしれないんだろ?』
『あぁ。特に前々から怪しかったからな。何かをしているのは、ほぼほぼ確実だろう?』
『まぁ、なぁ』
目的のために、手段はちゃんと選びつつ。
ローズのことはゼラの言う通り、後でどうするのか考えるとして。
まずはやるべきことに集中するために、ゼラが持つ報告書を受け取った。




