14.デビュタントのファーストダンスを
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その日。
ダンスホールの壇上から着飾った姿のローズを見つけるのは、驚くほど簡単だった。
だって、彼女は……。
(どうしてこの中の誰よりも、綺麗で大人っぽいんだろう……)
髪色と同じ鮮やかな赤のドレスに、ふんだんにあしらわれているのは黒いレース。
前に出掛けた時と同じ色合いのはずなのに、あの時よりもさらに大人っぽいデザインになっているからなのか。
それとも、実際にローズが大人に近づいているからなのか。
(十六、だもんな……女の子は、十分大人になってるよな……)
見た目も、中身も。
だからその姿はあまりにも綺麗で。まだ子供であることを忘れさせてしまう。
実際。
王太子の婚約者候補だからと、誰も声をかけていないだけで。
あちらこちらから向けられる視線の数に、その意味に。本人だけが、気付いていない。
(本当に。鋭いんだか、鈍いんだか)
初めての夜会。緊張しないはずがないのに。
あまりにも堂々としているその姿は、別格。
まだ大人の仲間入りをするのに二年もあるなんて、そんなことは微塵も思わせない。
誰よりも輝いて、誰よりも凛としている。
その、隣に。
堂々と、立てるように。
あの日宣言した通り、立派な令嬢になっているローズ。
彼女に釣り合うようにと、こちらも必死になって色々なことを学んできた。
(だから……)
そう、だから。
大勢の男の視線を一人占めしている彼女の。デビュタントのファーストダンスを。
一緒に踊ろうと、決めていたし。
(そろそろ周りにも、牽制をしないとダメだろ?)
横から油揚げを掻っ攫われる前に。
この大舞台で、宣言してしまえばいいんだ。
方法は何も、言葉だけとは限らない。
「大丈夫。今日のデビュタントたちの中で……いや、この夜会会場の誰よりも、ローズが一番綺麗で輝いているから」
ローズの兄であるアスター・ラヴィソン。魔法省所属の彼はラヴィソン公爵家の跡取りというだけではなく、その見た目と優秀さでも有名で。
そして俺にとっては、ある意味で一番のライバルで。
「ファーストダンスを私と踊ってはくれないか?同じく今日デビュタントの、婚約者候補殿?」
少しだけ気取ってかけた言葉。
断れないのを分かっていて、わざと人の多い場所で話しかけていることも。政略なんかではなく、俺が本気でローズを狙っているのだということも。
この人はおそらく、前々から気付いていた。
(今も、こっちを目で射抜き殺さんばかりに見てきてるもんな)
ゲーム中では、妹を溺愛していた相手。ローズと同じ髪色をした年上の研究者は、実は隠しキャラだったらしいが。
今はむしろ、一番よく見る顔だ。
(というか、妹を溺愛しすぎだろ)
一番面倒な場所に奪い去っていく相手なわけだから、確かに多少は睨まれても仕方がないのかもしれないけども。
(それでも俺今は一応、王太子なんだけどな)
ただまぁ、そっちは別にいい。何かを言われたわけでも、されたわけでもないから。
問題は……。
「失礼いたしました、殿下。お声がけいただけると思っておりませんでしたので…」
本人だ。
しかもさっき、耳元で名前を呼んだっていうのに。
顔色一つ、変えてはくれない。
「今日デビュタントの婚約者候補は、君だけだからね。しかも最有力候補である君にファーストダンスを申し込まずに、私は一体誰と踊ればいいのかな?」
手ごわい上に、俺が声をかけないと思っていたなんて。
本当に、困った相手だ。
「まぁ、殿下。先ほどいらしたばかりなのに、私とファーストダンスを、なんて。殿下と踊りたいご令嬢は大勢おりますのに、よろしいのですか?」
「君とのダンスなら、ファーストダンスだけで終わらせてしまうのは寂しいな」
だからローズ、乗ってあげるよ。
「殿下もお上手ですこと。うふふ」
「君の前ではどんな男も憐れな子羊になってしまうさ」
その代わり、君の思惑とは違う方向に、だけどね。
ほら、今だって。
俺たちのやり取りを周りがどれだけ耳を澄ませて、最大の関心ごととして聞き耳を立てているのか。
君が言葉を紡げば紡ぐほど、俺の思う通りに周囲が動いてくれるようになるんだよ?
それなのに、このバラの妖精ときたら。
「ローズ?私とのダンスの最中に、考え事?」
何を考えているかは分からないけど、俺から逃げようなんてことだけは許さないからね?
そんなことを考える暇なんて、与えてあげない。
だってほら、こんなに注目されている中で少し顔を近づけただけで。周りは嬉しそうに色めき立つ。
「もう社交界にデビューする年齢になったのだなと、感慨深く思っていたところなのです」
「そうだね。私達も次の春には学園に入学する」
「えぇ。そこでまた新しい出会いや経験があるのだと思えば、今から胸が躍りませんか?」
新しい出会い?そんなもの必要ないね。
むしろこっちから願い下げだっていうのに。
「……ローズは…学園に行くのが楽しみなのかな?」
「えぇ、もちろん。まだまだ学ぶべきことが多い身ですもの」
家庭教師から、かなり先まで進んでいると報告があるのに。
君はまだ、満足しないんだね。
(あぁ、それとも……)
学びの間は、王太子殿下に会わなくて済むから、かな?
(だとしたら、やっぱり許せないよなぁ)
自分勝手だと、分かってる。
分かってる、けど。
「ふぅん…?けど……」
「……殿下…?」
「逃がさないからね?私は君を妃にすると、既に決めているんだ」
「っ…!?なっ…殿下…!?」
その薄く化粧の施された、なめらかな頬に唇を寄せて。
周りに見せつけるように、キスをする。
(これで、男は誰も寄ってこない)
助けたい。
それは、本当。
けど。
それ以上に、俺は。
(ローズを誰にも、渡したくない)
自分勝手な独占欲だって、分かってる。
それでもどうしても、ローズしか、考えられないから。
だから逃げられないように、囲ってしまおう。
この行動一つで、周りが勝手にお膳立てしてくれるから。
『フレゥ、お前ちょっとやりすぎじゃね?』
そう苦笑しながら言ってきたゼラの言葉に。
俺はただ、不敵な笑みを浮かべただけだった。




