13.ローズと魔法と図書館と
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本当に本当に、ありがとうございます!!m(>_<*m))ペコペコッ
『で?どうすんだ?』
『どうするも何も、しばらくは会えないって言われてる以上何もできないだろ。ま、流石に手紙は書くけどな』
『そーだよなぁ。それしかできないよなぁ』
そもそも彼女は、俺と会いたくないみたいだから。
正確に言えば、王太子に会いたくないんだろうけど。
『あの年でよく分かってるよなぁ。王妃になるってのがどういうことなのかって』
『理解が早いのはいいことだろ?その分優秀だと周りに知らせてるわけだし』
『あーあー、可哀想に。優秀であればあるほど、王家からは逃げられないってのになぁ』
全くもってその通り。
むしろ最も優秀な女性を迎えるのが、王家にとって国にとって、何よりも大切なこと。
『とはいえ、だ。ホントにデビューまで会わない気か?』
『まさか。ようは、こっちから積極的に会いに行かなければいいだけだろ?』
『ん……?』
ローズのあの性格を考えれば、近いうちに公爵家の中の蔵書は読み終えるだろう。家庭教師からも「あんなにも熱心な生徒は初めてですよ」と言われているし。
つまり。
『ゼラ。ローズが図書館に来る日をピックアップしてくれ』
『…………う~わぁ~……。我らが王太子サマが、ついにストーカーまがいの行為を……』
『仕方がないだろう!?そうでもしなきゃ本当に何年も会えなくなるんだから!!』
それだけ避けられているという事実は、かなり心にくるけれど。
今はそんなことを言っている場合ではない。
と、いうか。
ローズに本当に忘れられて、フェードアウトされないように。
何とか接点を持ち続けないといけないんだよ。
『こっちは王太子ってだけでディスアドバンテージ抱えてるんだ。そこをなんとかしない限り、何もできずにゲームが始まる』
『けどなぁ……今のままだったら、むしろ大丈夫なんじゃないかって思ってるんだけどな』
『そんなの何があるか分からないだろ?どこまで強制的にイベントを発生させられるのかも分からない上に……』
もしも、ヒロインも転生者だったら?
『…………』
『…………』
言葉にはしなかったその意味合いを、ゼラは正確に汲み取って。お互い顔を見合わせたまま、しばらく黙り込んでしまう。
だってそうだろう。もしも一番厄介な相手が同じ転生者だったとして、さらにゲームを知っていたとしたら?
俺たちは、どれだけ抗うことが出来るのか。
『あー……そう、だな。その可能性も視野に入れて、リスクは最大限回避しておくべきだな』
俺の言いたいことが分かったらしい。
『俺、ちょっと出てくるわ』
『あぁ、頼んだ』
面倒くさそうにしながらも、困ったように頭をかいて。ゼラは部屋を出て行った。
当然行先は、図書館だろう。ローズが訪問してきた際すぐにこちらに連絡が来るよう、他にも色々と回ってくれるだろうが。
おそらく今から準備をしておけば、きっと間に合うはず。必ず図書館利用の申請もするだろうから、その用意もしておこう。
そう、すぐさま行動を開始して。
一年後には、予想通りローズが図書館へと通うようになった。
その初日に声をかけてから、彼女が図書館へ訪れているという報告を受けて時折会いに行っているけれど。
「ローズはどこまで読み終えたの?」
「どこまで、と申されましても……」
困ったような顔で見上げてくる彼女の腕の中にある魔導書は、今日は光と闇の魔法について書かれているもので。
今のところ両方に適性があるのはローズ一人しかいないので、その本は読むことはないだろうなと思いながらも声をかけてみた。
「その本を読んだところで、私には扱えないからね。本当にローズは凄いね」
「いいえ、そんな……」
その言葉は謙遜から出ているわけではなく、むしろ早くどっかに行けということなんだろう。
(まぁ、ね。本を読みに来ている相手にしつこくするのは、嫌われるからね)
だから毎回は会いに来ないし、話しかけてもすぐに立ち去ることにしている。
ただあからさまではないとはいえ、少しほっとした様子のローズを見るたびに、一人落ち込んでいるけれど。
「それじゃあまたね」
それでも会わないという選択肢だけは、どうやったって選べない。
こうでもして時折顔を合わせないと、本当にデビューまで一度も会えないままになりそうだから。
ローズと魔法と図書館と、そして王太子。
きっと彼女にとって、一番最後はいらない存在なんだろう。王妃にだってなりたくないんだって、分かっている。
分かっては、いるけれど……。
『逃がしてなんて、あげられない』
ローズだけだと、もう何年も前から。
それこそ出会うよりも前から、決めていたから。
「王太子殿下?何か仰いましたか?」
「いいや、何でもないよ」
引き連れている護衛の一人に、そう返すけど。
たった一人、俺の言葉の意味を理解できる護衛が今は部屋の扉の前で警備にあたっていたのは、よかったのか悪かったのか。
(ただきっと、さっきの呟きを聞き取れてしまったことを後悔しながら、あえて聞かなかったふりをするんだろうな)
なるべく厄介ごとには首を突っ込まないようにしようとする、もう一人の仲間の顔を思い出しながら。その彼が立つ扉の向こうで待っている共犯者に、愚痴でも聞いてもらおうと心の中で勝手に決めつつ。
長い長い廊下を、図書館に背を向けて歩き出すのだった。




