12.ローズが聖女だったら
その知らせが自分の元にまで届いたのは、初めから候補者たちの進捗状況も含めて全て報告するようにと、それぞれの家庭教師たちに通達しておいたからだった。
そうでなければきっと、両親のところまでで止まっていただろうから。
『全適性!?そりゃあまた……凄いのに目をつけてたなぁ……』
得手不得手は誰にでもある。それは王族であろうと変わりはない。
だから正直、ローズが魔法学五元素だけじゃなく光と闇の両に方も適性がある全適性能力者なのだと聞いた時は、さすがに凄すぎると思った。
けど。
『考えてみたら、ゲーム的には悪役令嬢って言われるようなポジションになれる存在だったんだもんなぁ。そりゃあチートでもおかしくないよなぁ』
『いや、そこで急に冷静にならないでくれるか?はしゃいだ俺がバカみたいじゃん?』
何か文句を言っているゼラをとりあえず一旦放っておいて、自室の窓から見える晴れ渡った空へとなんとなく視線を移す。
そういえばこの豪華すぎる部屋にも、もうずいぶんと慣れたなぁ、なんて。
こんな前世ではなんとか宮殿とかでしか見ないような豪華絢爛な場所でも、人間慣れればくつろげるものなんだと妙に実感したのはいつのことだっただろう?
元日本人として生きた記憶の方がまだまだ長いとはいえ、最近ではここがゲームの世界にそっくりだということを忘れてるときも増えてきた。
『おーい?一人でどっかにトリップするなー?』
『……なぁ、ゼラ。どうせすべてに適性があるのなら、もうローズが聖女ってことでよくないか?』
『曲解!!私利私欲で聖女を決めるな!?』
そうは言うけど、な。
実際数百年に一度現れるという聖女は、もれなく全適性能力者だったと教わった。
聖女となる存在が生まれた時には、必ず何かしらの印が現れるとも。
『見落としてたんじゃないかって、思ってるんだけどな』
『印だろ?なんだっけ?本来とは違う、白い植物が目印なんだろ?』
『って、言われてるけどな。その季節には咲かないはずの花が咲いたと思ったら、それが白だったっていうことに起因してるんだと』
とはいえ、それは花が咲かない季節だから気づけただけで。
ローズが生まれた時期は、名前の通りバラが咲き誇る季節だったらしい。
となると、だ。
あのラヴィソン公爵家なら、当然庭中のバラが一斉に咲いていただろうし。
そんな中で全てのバラの色を確認するとか、出来るわけがなかっただろう。
『聖女、なぁ……正直眉唾もんだと思ってるんだけどな』
『転生者がいて魔法が使える世界なら、聖女がいてもおかしくはないだろ?』
『だからってはいそうですかってすぐに信じられるとか、意味わかんねぇよ。裏に何かしらの陰謀があったと思う方が自然だろ』
『それなら伝わり方がおかしい。そもそも王族だけが知っていればいいことを、貴族や一般市民が知ってることの方が不自然じゃないか?』
『だからって、聖女はなぁ……。魔物を簡単に排除してくれる、安易な存在に縋りたかっただけなんじゃないかって勘繰りたくなるだろー?』
そうは言っても、実際に聖女という存在が何をしたのかまで詳細に記されている書物が残されている以上。聖女と呼ばれていた女性たちを疑い続けるのも難しいのも事実。
それを分かっていて、それでもなおゼラがそう言う理由は……。
『だいたい、聖女が出てきたら問答無用で王族と結婚だろーが。お互いの意思とか関係ないって、お前はそれでいいのかよ?』
国にとって有益な人物との結婚。それもたった一人の王太子である以上、致し方がないこと。
なんて。
『割り切れるわけないだろ。だからいっそ、ローズが聖女ならと思ったんだよ』
だってそうだったら、一気に何もかも解決する。
なにより、ローズを死なせずに済む。
『一応確認しとくけど、ゲームのヒロインが聖女ってことは……』
『ない。攻略サイトとかのぞいたときも、そんな情報は一切なかった』
『攻略サイト……』
どこか呆れたようにゼラがこっちを見ているのには、気付いていないふりをして。そもそも自分でプレイしていないゲームなんだから、仕方がないだろう。
それにもしもゲームのヒロインが聖女なら、その設定は必ずゲームの中に盛り込まれているはず。
それがなかったということは、ヒロインは聖女ではない。
というか、聖女なんていう言葉すら、確かあのゲーム内では出てきていなかったはず。
『なんかなぁ……続編とか出てそうで怖いんだよなぁ……』
『そこはさすがに知らない』
『人気が出たら続編出すのは、ゲームも映画もドラマも同じだろ?そこは調べなかったのかよ』
『妹がやってただけのゲームだから、本人が満足したらそこで終わりだろ』
『あー……まぁ、なぁ。自分ではそれ以上調べないし、プレイすらしないもんなぁ』
攻略サイトを漁ったのだって、ゲームの結末に納得がいかなかったからだ。
妹はわりと満足してたけど、本当にあれがハッピーなのかと何度問いかけたくなったことか。
『ま、正直これ以上ややこしくしてほしくないんだよな。聖女なんて現れないのが一番だって』
そう言うゼラは、もう一つの真実を知らない。
"フィオーレ王国の王族は、聖女を見つける能力がある"
王族だけが聞かされるそれは、聖女とは出会えないことが多いはずの王族たちの中ですら、途切れることなく伝えられ続けてきた。
それこそが、聖女が存在していたという証なのだと。そう教えられて。
不思議なことに、それを疑ったことはなかった。むしろ当然なのだと、子供ながらに受け入れて。
そしてその思いは、今でも変わっていない。
(ただもし、それが真実でローズが聖女だったとすれば……)
あの日。
初めてのお茶会に出席していたローズを、後姿なのに見つけられたのは。
偶然なんかじゃなかったんだって、思えるから。
(誰なのかも確認せずに話しかけるなんてこと、普通はしないのに、な)
相手がローズだからよかったものの、他の令嬢だったら大騒ぎになっていたところだった。
今頃もう一人、候補者が増えていただろうし。
ただ、だからこそ。
ローズが聖女だったらと、思わずにはいられないのだ。
あの日の自分の行動は、そのためだったのだと。
自分を安心させたいだけなのかもしれないと、どこか冷静に頭の片隅で考えながらも。
この作品とは関係ないのですが、『ヴァンパイアシリーズ』と『王子と姫シリーズ』の現在更新中のおまけの今後につきまして、7月6日に活動報告の方で詳細を更新いたしました。
両シリーズのどちらかをお読みいただいております方には、お手数ですが一度目を通していただければと思っております。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m




