10.少しは自覚してもらわないと
母上と結託して、お茶会後にローズだけを婚約者候補全員の前で残そうという話になって。
さらにはローズが話題に乗りやすいように、ラヴィソン公爵家の新しい商品を宣伝しながらバラ園に向かおうという算段に落ち着いた。
だから、お茶会後の事に関しては特に心配していなかった。そう、お茶会後は。
(本当に、毎回毎回飽きもせず……)
お茶会の会場に選んだ場所から少し離れたところで、候補者全員が揃ったその場を眺めながら思う。
周りに使用人たちがいるにもかかわらず、全員でローズにマウントを取ろうとするその光景は、ただ呆れるばかりで。
実はこれが彼女たちが顔を合わせるたびに行われているのだと、割と初期からこちらが把握しているなんて。きっと彼女たちは誰一人想像もしていないんだろう。
(面倒くさい……。いっそ普通にローズだけ連れ出せたら楽なのに)
そんなこと、出来るわけがないと分かっているけれども。
それでもそう思ってしまうのは、もう仕方がないと割り切るしかない。
ちなみにこれは覗きとかいう悪趣味なものではない。
一応関係性の把握だったりとか、彼女たちの性格や素顔を探るために必要な事だったりする。
何も知らないままの無知で愚かな王族は、国を危うくするだけだからね。
とはいえ流石に限界かなと思った時には、毎回何気ない風を装って顔を出すわけだけど。
その時のローズ以外の候補者たちの変わりようといったらもう、怖いほど清々しいくらいで。
正直呆れを通り越して笑いをこらえるのに毎回精一杯だったりする。
こういう時にも王太子スマイルは便利なので、割と多用するけど。
ただ、まぁ……。
こんな人物たちに囲まれて、あんな風に言われて。
お茶会の間中、ローズが一言も喋らないのも仕方がないのかもしれない。
(俺としては、ローズとだけ喋っていたいんだけどなぁ……)
それに最初に贈り物をした相手は、ディジタリス公爵令嬢なんかじゃない。
流石に候補者だから仕方なく名前を呼んではいるけれど、正直出来ることならローズ以外の女性の名前なんて口にすらしたくない。
ローズを悪く言う相手なら、なおさら。
だからこそ、少し舞い上がらせておいて早めにお茶会を切り上げる。特に花束は、早く持って帰って水につけないとダメになりやすいから。
そう促せば、普段はもっと長くいたいと言い出す彼女たちも素直に頷く。
この辺りは元花屋だというゼラの入れ知恵なので、本当にあの乳兄弟には助けられてると思う。
そうやって彼女たちをいつも以上に素早く馬車に乗せて、王太子スマイルで見送って。
けれど次の瞬間には急いで元来た道を引き返す。
向かう先は母上のバラ園。あそこが集合場所だから。
それと一言も喋らなかった理由が、体調不良ではないのかどうかも確かめておきたい。
だから。
「熱はなさそうだけど……もしかしてあまり体調が良くなかったのかな?お茶会の間も、一言も喋っていなかったもんね」
なめらかな肌に手を添えて、自分よりも体温が高すぎたりしないかを測っておく。
まだ日本人だった頃に妹が熱を出した時は、これだけで分かった。特に子供の時の体温は高いから、少し熱が出ただけでもかなり違って。
ただよくよく考えてみれば、ローズの平時のあたたかさなんて知るわけがないし。何より今は自分も同じ子供だった。
「侍医を呼んで、一度診てもらおうか?」
「いえ、体調は問題ありませんので。ただ皆様が和やかにお話しされていたので、聞くことに徹していただけです」
これで分かるわけがなかったなと反省して、おとなしく専門家を呼ぼうかと提案すれば、そう返してくるけれど。
(本心かどうかなんて、分かるわけがないんだよなぁ)
とはいえ本人がそう言っている以上、これ以上追及は出来ないし。
なので体調には触れずに、話題を変える。
「そうか。それならよかった。…あぁ、そうだ。その髪飾り、つけてくれていて嬉しいよ」
「折角フレゥ殿下から頂いたので、今日のような特別な日にこそ相応しいかと思いまして……」
「そんな風に思ってくれていたんだ?嬉しいな」
特別、なんて。ローズの口から聞けたのは素直に嬉しい。
ただ、やっぱり……。
「でも普段からつけてくれていいんだよ?ローズの髪に似合うようにと思って、この色とデザインを選んだんだから」
いつもその髪を飾るのが、これだけだったらいいのに、と。
思ってしまうのは、もうどうしようもない。
それなのに。
「立派な令嬢になるために忙しいので会えません」
いきなり切り出された話題は、明らかにこちらと距離を置こうとするものだったから。
(流石にちょっと、許せないな)
ローズは誰にも渡さない。
それはある意味、我が家の。王族全員の共通認識。
逃がすつもりなんて、さらさらないんだってこと。
少しは自覚してもらわないと、困るなぁ。




