7.避けられている、気がする…
『なぁ、ゼラ……』
『んー……?』
『俺、ローズに避けられている、気がする……』
『いや、急にどうしたよ』
どうしたもこうしたも。
手紙を出しても、あまり積極的に会話をしようという返事でもないし。
婚約者候補として城に来た時も、バラ園でバラのことばかり話してるし。
『向こうから会いたいって言われたこともなければ、バラ以外の話題を出されたこともないんだよ』
『いや、むしろまともだろ。他の候補者たちがおかしいんだって。なんで王族にそう簡単にホイホイ会えると思ってるんだよ、あいつら』
そうだけど!そうなんだけどな!!
そういう意味でも、ローズはちゃんと分かっているのか一切言ってこない。
言ってこない、けど……。
『一番言われたい相手にだけは、一度も言われたことないんだよ……』
『いいじゃねーか。変に物をねだってくるような女じゃなくて』
『むしろ何か贈りたいのに……』
彼女の好みなんて、この六年間でほとんど知ることができないまま。時折宝石を見て、似合うかどうかなんて考えるくらいで。
『そこでヘタレるなよ。王子様』
『自信なくなるだろ、さすがに……』
他の候補者たちはものすごく積極的に手紙を送ってくるし、次の約束も取りつけたがるのに。
ローズだけは、一切そんなことが無くて。
もちろん他の候補者たちだって、親から言われているからというのはあるんだろう。
逆にローズはあのラヴィソン公爵家の娘だから。権力欲とかがない両親だという報告は、既に六年前に受けているし。
その違いだろうと言われてしまえば、そうなんだろうけど。
『むしろ自分から誘えばいいじゃねーか。それこそ他の令嬢達と平等にするためっていう理由でも付けて』
『いや、別に理由付けをする必要はないんだけどな』
『必要だろ。外出は必ず知られる事なんだから、後々文句を言われないようにするためにも』
『まぁ、なぁ……』
そういう所は、本当に王族の面倒くさいところだと思う。
そもそもなんで婚約者候補がこんなにいるんだっていう話なんだろうけど。
こればっかりは、自分でもどうしようもないから。仕方がないと諦めるしかない。
『せめてローズだけ、他の子たちとは別のところに行こうかな』
『いいんじゃねーの?無難なところは演奏会とかだけど』
『確か今、面白い恋愛劇がやってるとか言ってたなぁ』
『あぁ、あれか。両陛下が観劇に行ったってやつ』
『そうそう。二人とも大満足だったって言ってたから、かなり当たりなんじゃないかと思ってる』
女性は基本的に恋愛劇が好きだけど、男性はそうでもないのが世の常だろうに。
我が父上も、お気に召したらしくて。
大の大人の、しかも男が楽しめたのなら、相当だろうと思ってる。
『そこで一緒にプレゼントでもするか』
『お!ついにフレゥ直々に宝石商呼んじゃうか?』
『それはまずいな。母に相談して、同席する形を取らせてもらった方がいい』
正直、プレゼントはローズだけに贈りたい。手元に残る形でなんて、他の候補者たちには何一つ渡したくないんだ。
それに、花だって最初に贈るのはローズがいい。あの、ローズが好きだと言っていたバラを。
最愛の意味を持つ、アマダという名前のバラを贈りたい。
そう決めてからの行動は、我ながら早かったと思う。
まずは母上に相談して、例の劇のチケットを手に入れてもらい宝石商も呼んでもらった。
六年前からローズに絞る気でいることは両親に伝えていたし、彼女の王妃教育の進み具合や素行の報告を受けてきてさらに安心しているらしく。予想以上に喜んで協力してくれた。
ちなみに贈りたいのは、ゲームでローズが実際につけていたバレッタ。あれならば今後学園に入った時にも常につけていてもらえるし、何よりあの艶やかな髪を自分の贈り物が引き立たせている様を見たいという欲が強かったのもある。
そうして全ての準備を整えて、約束の日に少し早めに向かった先で。
ラヴィソン公爵家の玄関ホールの階段から降りてくる、彼女の姿をこの目に映した瞬間。
(あぁ……やっぱり、ローズがいい……)
髪色と同じ赤を基調としたドレスに、白ではなく黒のレースをあしらって。
まだまだ子供の域を抜けていないのに、妙に大人っぽく見える彼女は。
あまりにも、綺麗すぎて。
(誰にも……渡したくないな)
自分の見た目は、この頃ようやくゲーム中のあのメインヒーローに近づいてきているけれど。
ローズのこの姿を見てしまえば、早くもっとちゃんと大人の男らしくならないとと思ってしまう。
そのくらい、今日の彼女は特別だった。




