5.見つけた相手はゲームと違う?
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予定調和で仕組まれたお茶会に、足を踏み入れたまではよかった。
ローズを探そうと、直前までそう思っていたのも本当。
だけど。
「君、綺麗な髪の色をしているね」
気が付けば自分の口は、顔も見えない相手に向かってそう言葉を発していた。
鮮やかな赤い髪。
その髪と同じ色合いの、鮮やかなドレス。
その、中に。
ひと際存在を放つ、純白は。
見た途端に、不思議な感情を呼び起こした。
(俺が同じ色を贈るから、身に着けて欲しい……)
子供らしいリボンなんかじゃなくて。
いくつになっても使えるような、ちゃんとしたものを。
その赤い髪に、飾りたいと。
振り向いたその子の瞳の色に、見覚えがあったのは。
本当にただの、偶然でしかなかった。
ただ、その瞬間。
よく見られたいと、そう思って。
身に着けた完璧な王太子スマイルを、その子に向けた。
確かゲームでは、このお茶会で彼女は王太子に一目惚れするはず。
それならきっとこの後も上手く進むだろう、と。
だから、彼女を母上お気に入りのバラ園に誘ったのに……。
「行こうか、ローズ嬢」
「……は、い…王太子殿下…」
答える彼女のそれは、憧れや好意などではなく。
王族の誘いを断る術を持たない人の、それだった。
(……おかしい。どういうことだ?まさか……)
見つけた相手はゲームと違う?
いや、まさか。
だって実際に彼女は「ラヴィソン公爵家のローズ」と名乗った。それで赤い髪の人物など、一人しか存在しない。
なのに……。
「ごめんね?急に連れ出しちゃって。驚いたでしょ?」
「あ、の……はい…。正直驚きすぎて、どうすればいいのかよく分かりません…」
混乱は、しているんだろう。
けどそこにはやっぱり、一目惚れした相手への感情が…………
(ない、な……)
「君は素直だね。それに母上への受け答えもしっかりしていたし、とても頭がいいんだね」
「いいえ、まさか…!王妃様が私に分かりやすい話題を選んでくださっただけです…!!」
話しかければ、ちゃんと答えてくれるけれど。
「でも君は、ただお礼を言うだけじゃなかったでしょ?しかも親だけじゃなく領民の事にまで気をまわしていた。その年でそれが出来るのが、まさか当たり前だなんて思ってないよね?」
「それは、その……」
頭の良さも気の使い方も、褒めたところで顔を赤らめることすらない。
むしろ若干警戒されているような気がするのは、いったいなぜなのか?
その理由も分からないまま、気が付けばバラ園の前まで来てしまっていた。
(まぁ、でも……親交を深めない限りは、どうしようもないな)
「実は君の後姿を見て思い出したバラがあったんだけど、その名前が分からなくてね。教えてもらおうと思って連れてきたんだ」
「バラの名前、ですか?」
「これだよ。この真っ赤なバラ。この名前を教えて欲しいんだ」
彼女の髪の色ほどではないけれど、それに近い真っ赤なバラ。
彼女の後姿を見てこのバラを思い出したのは、嘘ではない。
だから。
「これは……ローテローゼ、ですね。赤バラといえばと言われるほど、代表的なバラです」
「ローテローゼ……ローズ嬢の名前に近いね」
そう、王太子スマイルで微笑んだのに。
目の前の少女は、ほんの少しだけ困ったように笑った。
まるで、答える言葉を持たないかのように。
(これは……まずいな……)
連れてきたはいいものの、考えてみれば彼女の実家の領地はバラの産地。しかもラヴィソン公爵家と言えば、タウンハウスにもかなりの種類のバラが咲き誇っている事で有名。
その家の令嬢を連れて来たところで、目新しいものなんてあるはずがなくて。
(選択肢を、間違えた……?)
いや、でも。彼女との話題なんて、出会ったばかりじゃこれ以外に思いつかなかったし。ゲームではヒロイン視点なのもあって、攻略対象の話題しか出てこなかったから。
王太子としてはもちろんの事、元日本人の転生者としてもローズ・ラヴィソンという人物のことをあまりよく知らなかった。
当然と言えば当然だ。
(けど、知らないのならこれから知っていけばいい。そのためにも……)
彼女がバラについて詳しいのは事実なんだから。
それを、利用すればいい。
「ねぇ、また今度時間がある時に、色々なバラの名前を教えてくれないかな?」
「……え…?」
「このバラ園は母上のお気に入りで、私も時折訪れる場所なんだけれどね。やっぱり名前が分かったほうがより楽しめると思うんだ」
「そう、ですか…?」
「少なくとも私にとっては、ね。だから教えて欲しいんだ。ダメかな?」
「え、っと……」
必死でどう答えるべきなのかを考えているのは、簡単に頷くことも拒否することも出来ないと理解しているからなのか。
実際子供同士とはいえ、しかも口約束とはいえ、約束は約束。相手が王族、しかも王太子ならなおさら迷うだろうね。
ただそれが既に、普通の子供たちとは違う頭の良さだと証明していることに。おそらく彼女自身は一切、気付いていない。
(その方が、好都合だけど)
完全に隠されてしまったら、婚約者候補にすら出来なくなる。
けれど、本人が自分の非凡さに気付いていないというのであれば。
今後のためにも黙っておいた方が、自分にとって有利に働くのは間違いない。
「その……私一人でお城まで来ることは出来ませんし、一度お父様とお母様に確認してからでないとダメかどうかは分からないので……」
まだそんなに身長差はないのに、少しだけ見上げるようにしながら告げてくる言葉は。
この年にして分別がついている、何よりの証拠だった。
「あぁ、うん。そうだよね。ごめんね?」
きっとそばに控えている護衛たちが、その返答の仕方に驚いていることにすら気づいていない。
でも、それでいい。それが、いい。
これで本人から言質は取った。
あとは彼女の両親のどちらかを懐柔……もとい、説得してしまえば問題ない。
彼女が帰ったら、すぐに手紙の用意をさせようと画策する内心を綺麗に笑顔で隠して。
もう少しだけ距離を縮めようと、頭の中で計算を始めたのだった。
フレゥ頑張る、ノ巻。




