4.数年でここまで変わる
決意をしたまでは、よかった。
ゼラも協力してくれて、ラヴィソン公爵家の情報もかなり手に入れられた。
しかも味噌汁が飲みたい、米が欲しい、なんていう会話を聞いてたらしい騎士団所属のとある貴族の四男が、誰なのかを確認せずに話しかけてきて。
おかげでもう一人、しかも既に成人済みの転生者まで仲間に引き入れることが出来た。
姿を確認しないで、いきなり飛び出してきた上に話しかけてくるって、かなり凄いなとは思ったけど。
きっとその分、ずっと一人で必死に生きてきたんだろうなとは思った。
とはいえ本来であれば、王太子がいるべきではない場所だったのは事実。
まさか本人も、そんなところにこんな人物がいるなんて思ってはいなかっただろうし。だからいきなり話しかけてきたんだろう。
何より大前提として、そもそも抜け出してきていたこちら側が悪い。
でもまぁその飛び出してきた本人は、その時ひたすら謝ってきたけど。
何なら今でも、日本語だろうが敬語で話すのはやめてくれない。
一応雇い主だから、仕方ないのかもしれないけれど。流石に無理を言って、完全に王太子権限で引き込んだからなぁ……。
四男なら常に傍に置けるからと、両親を説得したから王太子付きに昇格したわけで。
本人にも、僻地に飛ばされるよりは一番安全なところにいればいいと言って説得したのは事実。
実際王太子の側で危なくなるのは、国に危機が訪れた時だから。その時はどこにいても危ないだろう。
ただ。
『ほんっと、数年でここまで変わるか』
『うるさい。仕方がないだろ』
私室でゼラと二人、話すのは王太子として人と接するときの自分の変化。
『どいつもこいつも、へいこらしてよいしょしてゴマすって。そのくせ裏では俺を操る事ばかり考えてるんだからな』
『バッカだよなぁ。見た目通りの中身じゃないってのに。知らないって怖いねぇ』
貴族なんてそんなものだ。分かってる。
けど分かっているからこそ、対処しなきゃならない。こういう立場ならなおさら。
だから覚えた。受け流すことを。
だから身に着けた。完璧な王太子の仮面を。
だから決めた。滅多に心を動かさないと。
『なんだかなぁ……。出会った頃の純粋なフレゥは、どこにいっちゃったんだろうなぁ……』
『前世を思い出した時点で、純粋とは程遠くないか?』
『あ、そこは自覚あるんだ』
『ない方がおかしい』
純粋な子供時代は、数年前に既に過ぎ去った。
特に今年は、婚約者候補を選ぶからと母上から言われているからなおさら。
『けどようやくだろ?未来の婚約者様と顔を合わせられるの』
『そこはせめて未来の王妃って言ってくれよ。婚約者で終わらせる気はないぞ、俺は』
『ハイハイ』
気のない返事だけれど、実際誰よりも協力してくれているのはゼラだ。
ジプソフィール家は代々王家に仕える、諜報専門の家柄。貴族の中に混じって、玉石混交の噂話の中からでも真実を見つけ出す。
その手腕は折り紙付きで、けれどだからこそ外部には一切知られていない。そしてそれを利用して、また新たな情報を得てくるという完璧なループ。
そこの跡取り息子を右腕につけてくれてるわけだから、当然のように情報は山ほど手に入れてくれる。
仕入れ先が気になるところではあるけれど、そこは子供の見た目を大いに利用しているんだろうと思っておく。中身はいい大人だそうだけど。
『で?王妃様のお茶会にサプライズで登場するっていう筋書きなんだろ?』
『もはや予定調和だよな。たぶん毎回そんな感じなんじゃないか?』
『あー……っぽい。…………いや、そういう事じゃなくて!』
『心配しなくても、特徴はちゃんと知ってる。赤い髪は何人かいるけど、一番鮮やかな色なんだろ?』
『らしいな。つか、画面の向こう側の色は知ってるのか』
『自分の見た目が色彩そのままだったことを考えれば、彼女も同じだと思っておいてまず間違いないだろうな』
とはいえ、逆に自分の今の見た目からは将来あんなビジュアルになるとは到底思えないほどだったけれど。
なんなんだろうな、この美少女に近い見た目は。ホントにこれでこの先、メインヒーローになれるような見た目になるのか?
少しは鍛えてみるか?いざって時のためにも。
『ま、それならお手並み拝見といきますかね。ねぇ、王太子殿下サマ?』
そう言って頬杖をつきながら見てくるその顔は、どこか面白そうに笑っていた。
この時はまさか、この数年での変化が後々大きく響いてくることになるなんて。
二人とも、思いもしていなかった。




