3.そもそも悪役令嬢の定義が分からない
『……なんだよ、その顔』
『いや、だって……それが出来なかったから、ゲーム中も候補者どまりだったんだろ?それをまぁ、こんなに簡単に……』
しかも未来の王妃だぞ?国母だぞ?
そんな理由で決めていい相手じゃないだろ。
そう言うゼラは、自分が王太子の右腕になるという自覚が十分にあるんだろう。
だがこちらも、軽い気持ちで言っているわけではない。
『実際努力家なんだ。何よりヒロインさえいなければ、結局選ばれてたんだ。遅いか早いかの違いだろ?』
それに今からなら、いくらでも王妃教育を施すことが出来る。
性格が良いのなら、それに越したことはないのは事実だろうし。
『っつーかさぁ……それなら何で、悪役令嬢って呼ばれてるわけ?一応ヒロインをいじめたのは事実なんだろ?』
『それは魔物に取りつかれたから、だな。本来の性格とは別人のようになったって説明があった』
というか、そもそも悪役令嬢の定義が分からない。
ヒロインをいじめたら悪役令嬢?
じゃあ例えば、ヒロインの方が間違っていたら?
それにいじめってどこからなんだ?
注意をしたらいじめ?身分通りの態度だといじめ?
仲間外れだとか、明らかな悪意を向けない限り悪役とは言えなくないか?
『あー……なるほど。本来ならそういう事を一切しないような性格だったってことか』
『むしろ他の婚約者候補を蹴落とすような事すらしないほど、清廉潔白な性格らしい』
『いや、そっちの方がヒロインじゃん』
『だから、俺にとってはそうなんだって』
"俺"という存在にとっても。
"王太子"という存在にとっても。
ローズ・ラヴィソン以上に最適な相手など、存在しない。
『つってもなぁ……。難しいぜ?正直』
『分かってる』
どうして最有力候補と言われながら、学園が終わるまで選ばれないのか。
それは貴族間の様々な思惑と、力関係が理由なのだ。
ただ実際ラヴィソン公爵家は、今まで特に不祥事も起こしていないし。
むしろ現在は領地の特産であるバラを化粧水に取り入れて、国内外でかなりの人気を誇っている。
国の財源の一つとして、かなりのウェイトを占めているのは事実だった。
『一番手元に置いておきたいよな。国としても、王族としても』
『だから彼女が選ばれるのはほぼほぼ確実なんだよ。それをいつにするかってだけの話なんだ』
『けど、他の家にだって箔ぐらいは必要なんだよ』
『それも、分かってる』
選ばれるかもしれないという、箔。
一度は候補者になったほど、優秀なのだというそれは。
今後の家の発展のためにも、必要不可欠なんだろう。
だから、最初から一人に絞る事はほぼ不可能。
ただ。
『途中で宣言するのは、ダメじゃないだろ?それに初めから一人だけ特別に扱えば、周りが気付く』
『まぁ、だろうなぁ。王太子殿下のお気に入りのご令嬢、なんて。明らかに未来の王妃様だもんなぁ』
家柄容姿共に問題なく、更に候補者にも残るほどの令嬢。
その中の一人だけを特別扱いすれば、嫌でも周囲が動く。
それが、俺が生まれ変わったフレゥという人物だった。
『王族ってのは本当に面倒だよなぁ。そういう事一々考えて、行動しなきゃいけないんだから』
『その王族の右腕なんだからな?しかも未来の国王の』
『なー。マジでなー。気づいた時本気でビビったんだからな?今では当然だと思って受け入れてるけど』
こんな感じではあるが、実はゼラは意外にもかなり真面目だったりする。
実際俺が王族らしくない言動をとれば、すぐに注意してくれるだろうという安心感がある。
先に前世を思い出していた分、妙に達観しているのかもしれない。
『ま、とりあえず何とか頑張りますわ。情報収集なら我が家の十八番だし、俺もスキル磨いておく』
『あぁ。頼んだぞ、ゼラ』
「お任せを、王太子殿下」
最後だけこの国の言葉で言うあたり、茶目っ気だけは元からの性格なんだろう。
流石におかしくて、二人して顔を見合わせて笑ってしまったが。
さぁ、これから忙しくなるぞ。
必ず生き残らせてみせる。
悪役令嬢になんて、させるものか。




