2.助けたいのは…
『で?なんでまた悪役令嬢なんて助けたいんだ?』
ここが前世で妹がプレイしていたゲームの世界に酷似しているのだという説明は、割とすんなりと納得してくれて。
むしろこの不思議過ぎる髪色がようやく理解できた、なんて。軽いノリで言うあたり、ゼラは適応能力が高いと思う。
『そもそもゲームの世界なら、そこから逸脱していいのか?問題とか起きないのか?』
『それを言うのなら、今の俺たちは完全に逸脱した存在だろ?』
『つってもなー。それを知ってるのは俺たち自身だけだし、特に問題なんてなくないか?』
確かにこれがプログラムだったら問題だろう。
けど。
『俺たちは今ここに確かに存在して、生きてるんだ。プログラム通りに動く必要なんてどこにもないだろ』
『おー。すっげーなぁ、お前。言い切れる度胸が凄い』
『……怖いのか?』
『まっさかー。俺も自分がプログラムだなんて思いたくないしな』
ゲームだったらリセットされるかもしれない。強制力が働くかもしれない。
でもそれを恐れていたら、今生きてる自分が何なのかが分からなくなる。
それに、その時はその時だろう。
『そーいや流行ったよなぁ。悪役令嬢がざまぁする展開とか』
『チートとかな』
『もしも悪役令嬢も転生者だったら、お前ざまぁされる側だぜ?』
『むしろ一緒になってヒロインにざまぁしてやるよ』
『うっわ、性格わっる!!』
そうならないように、ではなく、一緒に。
鼻で笑いながら言い放てば、即座にゼラに返されるツッコミ。
打てば響くって、こういう事かな。と思うほど絶妙だった。
『っつーか、なに?その悪役令嬢がお前の好みなの?』
『好み……といえば、好みかも?少なくともヒロインよりは』
『お前一応メインヒーローなんだろ?そういう事言ってやるなよ……』
そんな事言われても、本心なんだから仕方がないだろう。
見た目もかなりの美人で好みだったけれど、それよりも努力家なところが好きだった。
魔物に取りつかれるよりも前のローズ・ラヴィソンは、誰かを蹴落とすような性格ではなかったらしいし。
ただ王妃になるのに相応しくあろうと、常に努力を怠らない女の子だった。
『つっても、まだ会ったこともないのに助けたい、なんて。相当入れ込んでなければ言えないよな』
『それは……』
だって、あまりにも酷いじゃないか。
彼女は何一つ悪くない。ただひたすらに、努力を重ねてきただけなのに。
ある日突然現れたヒロインに。世迷い言を言い出した王子に。
その努力を全て否定され、なかったことにされて。
どう考えたって、ローズという少女に非はなかった。一つも。これっぽっちも。
でもだからこそ、心の隙間に入り込まれて。
そうして結局、命を落としてしまう。
いや。
殺されてしまうんだ。
物語を盛り上げるために。
『助けたいのは……今この世界に生きてる、一人の女の子なんだよ』
でもそれは、ゲームの世界の話だから。
物語だからこそ、仕方がないと諦められるけれど。
現実は、そうじゃない。
何の罪もない、たった一つだけの命だから。
出来るのならば、助けたいと思うのが普通だろう。
『まぁ、なぁ……。死なれるのも嫌だけど、自分が殺すかもしれないなんて事になったら、寝覚めが悪いどころの話じゃないもんなぁ』
頷いたゼラは、ちょっと顔を顰めながらだったけど。その分、納得はしてくれたんだろう。
実際自分が誰かを手に掛けるかもしれない、なんて。考えただけでも嫌だ。
元日本人という平和な国で生きていた人間なら、なおさらだろう。
『で?じゃあ実際にどうやって助けるつもりだ?出会わない、なんて土台無理な話だぞ?』
そう切り出したゼラに、きっとこれが最良だろうと思っていた方法を告げる。
つまり。
『婚約者候補なんて面倒な事せずに、ローズ・ラヴィソンだけに婚約者を絞る』
婚約破棄なんて、そう簡単には出来ないはずだから。
誰かを選べ、ではなく。既に選んだ状態からスタートしていれば、ゲームが始まっても前提が違う。
自分に出来る一番の方法は、きっとこれだろうと。
そう思ったのに。
対してゼラの表情は、どこか面倒くさそうなものだった。




