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38.私ちゃんと、決心してきましたから!!

『いや、ちょっ……!いいから一回ちゃんと話をしてきな!?圧倒的に会話というか言葉が足りてないから!!』

『え?あ、うん……』


 あの後結局、ジャスミンにそう強く言われてしまって。

 流石に私もこのままじゃなーと思っていたので、お時間が出来そうでしたら一度お会いしたいですと、手紙を書いてみた。

 ちゃんとこの国の言葉で丁寧に、だよ!?

 間違っても、日本語でフランクに『会いたいんだけどー』とか書いてないからね!?


 ただそれへの返信は、ちゃんと王太子然とした言葉遣いで「私も会いたいよ、ローズ」なんていう。まぁよくこんな歯の浮くような言葉を書けるなと思うような言葉だったけれど。

 その最後に日本語で『必ず時間を作るから!待ってて!!』と、割と必死そうな感じで書かれていた。

 本心はこっちなんだろうなーと思いつつ、ふとこの手紙も検閲されてるんだよなーと思い至って。


 この文面って、読む人が読んだらまるで恋文では…?


 そう思った私は、きっと間違っていない。

 だってようやく時間が出来たからと呼ばれたお城で、すれ違う人たちからなぜか生暖かい目を向けられたから。


(なんか……微妙にしてやられた気分なんですけど…?)


 これを狙ってやっていたんじゃないかと勘繰ってしまうのは、私の悪い癖なのか。

 それとも本当に狙ってやっているのか。

 いまいちその辺りが掴みきれないんだけど、まぁその辺りはあとで直接本人に問い詰めるとして。


 まずは。


『…………何で…?っていうか、おかしくない…?』

『何が?』

『いや、この状況が!!』


 なぜか通されたのはフレゥ殿下の私室。しかもなぜかジェラーニつき。


『俺のことは気にしないでー。一応二人きりはダメでしょってことで、監視役だから』

『それ以外に人がいないことがおかしいって言ってるんですけど!?使用人は!?なんで王太子手ずからお茶入れてんの!?』

『ここではそういうもんだからー』

『くつろぎすぎでしょ!!』


 ツッコミが追い付かない……。


 いや、分かるんだ。年頃の男女二人きりで部屋の中なんて、本来許されるはずがないんだって。

 いっくら相手は王族とはいえ。婚約者とはいえ。

 むしろ婚約者同士だからこそ、なおさら気を付けないといけないわけで。

 何もないけどね!?何もないけどルールとしてね!?


『本当はローズと二人きりがよかったんだけどなぁ……』

『だーれが許すか。毎日毎日、会いたい寂しいお前ばっかりずるいなんて言ってたやつが、いざ二人きりになったら何するか分かったもんじゃないだろ』

『それを今言うか!?』

『日々の仕返しだ馬鹿め!』


 なんか……二人だけで楽しそうですね。

 っていうか、一応は同じように寂しいと思ってくれてたんだ。そっか。


(……いやいや!何喜んでんの私!!)


 いや、まぁ……ここまで来ておいて何も考えてないわけじゃあ、ないですけどね?

 というか、自分が割と鈍感だったことに多少なりともショックは受けてるんですけれども。


『あの……』

『っ…!!ああぁっ…!!ごめんローズ…!!せっかく来てくれたのに…!!』


 うん。そこまで慌てなくても大丈夫だから。

 この人割と、王太子としてじゃない時は表情豊かだよね。

 よくこれであんな笑顔を常に貼り付けていられたな……。

 今となっては、むしろ逆に感心するわ。


『ってゆーか、ラヴィソン公爵令嬢は意味わかってここ来てるんだよな?王家からの打診……という名の命令を受け入れたんだろ?』

『命令って言うな!!』

『いや、命令だろ。あれはもはや』

『あのっ…!!』


 流石に私もこの短時間で学んだ。

 言いたい事はちゃんと先に言っておかないと、二人の言い合いは止めておかないと、いつまで経っても本題に入る事が出来ない、と。


 なので。


『私ちゃんと、決心してきましたから!!』


 先に結論から告げておく。

 こうでもしないと、それまでに何度邪魔されるか分からないからね。


『…………』

『…………。……え、っと…』


 なのに。

 なんで二人して、私の顔を見たまま止まっているのか。


『何ですか?』

『え、いや……だって……』


 何かおかしなことを言っただろうか?

 婚約もその先の結婚も、更には未来の王妃になる事もちゃんと受け入れて、その決心がついたからって伝えに来たんだけど?


『それ、は……』

『あー…………ラヴィソン公爵令嬢、一応聞いとく。それは要するに、フレゥに抱かれる決心がついた、と。そゆこと?』

『…………だっ…!?』


 なんだその解釈は!?いきなり飛躍しすぎでしょう!?!?


『違うっ…!!いや、将来的にはそうなるんだろうけど…!!そうじゃなくって…!!』


 くそぅっ…!!男ってのはすぐそういう発想に行きつくわけ!?なんでこっちがこんなに焦らないといけないのよ!!


『正式な婚約者になる決心と、王妃になる覚悟ができましたってこと!!このっ…!!発情期のオスどもがっ!!』

『発情期の……』

『オス……』


 あ、流石に暴言すぎた…?

 でもほら……事実は事実じゃん…?


『発情期……発情期…………』

『…………フレゥに関しては、ある意味間違ってないから困るよな……』

『うるさい。お前だって似たようなもんだろうが』

『俺は相手がいませーん。一緒にしないでくださーい』

『へぇ……?じゃあ例えば服飾部門の胸のデカい子に鼻の下伸ばしてたり…』

『わーわーわー!!ちょっ…!!今ここでそれをばらすなよ!!女の子の前だぞ!?』

『さっきの仕返しだ、馬鹿め』


 …………うん……。もはや、どーっでもいいわ。そんな事。

 結局また仲良く言い合いが始まってしまったのを、隠すことなくため息を吐いて呆れ顔を向けていた私に彼らがようやく気付いたのは。

 言い合いがヒートアップして、知りたくもなかったまさに発情期のオス状態の行動や思考を、色々と聞かされてしまった後だった。



 うん、よく分かったよ。


 二人とも立派に、変態だってことがね!!



 二人の言い合いの真相は、文字に起こさない方がいい気がしました(笑)



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