37.婚約、することになりました。
今日は6月2日、ローズの日。
バラの最盛期であるこの日が、実はローズの誕生日です。
という、ちょっとした裏話(笑)
ちなみに本編には全く関係ありません(^^;)
『で?最初に報告することは?』
『え、っと……。婚約、することになりました。……かな…?』
『はぁ~~~~……ようやくかぁ……』
そう言ってサロンのテーブルに突っ伏したジャスミンは、少しだけ恨めしそうな顔をしてこちらを目だけで見上げてくる。
『どうせ逃げられなかったんだから、早めに降伏しておけばよかったのに』
『いや、降伏って何!?降参じゃなくて!?それに私は逃げる気満々だったんだけど!?』
『いやいや、それこそ無理でしょ。あの王太子殿下だよ?逃げられるわけないじゃん』
その言葉に言い返せなかったのは、違う意味でその自覚を私がしてしまっているからなのか。
最近では会えないことが寂しいと、そう思えてしまうくらい目になじんでしまった青色は。
纏う色そのままにクールだったり、逆に熱いほど必死だったり。そんな風に色々な表情を見せてくれていたけれど。
『あんだけの美形なんだから、捕まったって文句ないでしょ?』
『元ヒロインのいう言葉じゃなくない!?』
『現ヒロインは私じゃないですぅー』
ジャスミンの言う通り、とにかく顔がいいのは事実だったから。
先入観さえ持っていなければ、私だって初対面の時に恋に落ちていた……かもしれない。
あの時はどちらかというと、美少女に近い見た目だったけど。
『ってゆーか、婚約と聖女の発表を同時にしたのはいいんだけどさ。その肝心の王子様は、いつになったら登校出来るわけ?』
『さぁ…?まだ仕事が山ほど残ってるって、ジェラーニは言ってたけど……』
『まだ学生の身分じゃん!それで仕事って、王族ってとんだブラックじゃない!?』
『そんな事言われても……。貴族とかだってそういうものでしょ?』
『はぁ~……。ほんっと、貴族とか王族とかってめんどくさいねー』
『そこは否定しない』
自由を愛するジャスミンからしたら、本当に貴族だの王族だのなんてなりたくないんだろうな。
実際彼女と話していて一番自然なのは、日本語での会話だから。
むしろ今更ジャスミンから敬語で話されるとか、なんか違和感しかないんだよね。
『大体正式に婚約者になった相手に、手紙のやり取りだけで会いに来ないとかあるー?信じらんないんだけど』
『王侯貴族なら、割とよくあるけどね?むしろ結婚するまで相手に会ったことがないとかも、結構ざらだし』
『げぇ!?何それやだー』
『まぁ、うん……。気持ちは、分かる』
絵姿で送られてくる物以外、手紙のやり取りしかしていないのに。それである日突然、その人と結婚して夫婦になる、なんて。
見ず知らずの人間とは流石に無理だなーとは、私も思っていた。
だからいずれお父様が見繕ってくれるだろう相手とは、ちゃんと定期的に会って話をしようとは思っていたけれど。
『でもなー。逆に知ってる相手だけど全く会えないっていうのも、それはそれでなんかやだねー』
『まぁ、ねぇ……。でもほら、今回に関しては仕方ないから』
学園が早く再開できたのも、フレゥ殿下が口添えをしてくれたからだって聞いてるし。
実際お城から派遣された人たちが警備にあたってくれなければ、きっと貴族たちは自分の子供を通わせることを拒否しただろう。
あとはまぁ、自分の事だからあんまり考えたくはないけど。聖女が直接浄化したっていうのも、きっと大きかった。
『いっそのこと会いに行けないの?』
『私からってこと?』
『そう。そうしたら話せないかな?』
『話す時間もないから、会えてないんだと思うんだけど?』
『あー、そっかぁ……。もういっそ緑髪のあいつが代わりに仕事やればいいのに!!』
緑髪……って、ジェラーニのことか。
え、なに?髪色で呼ぶことにしたの?
確かに二人とも特徴的な髪色してるけどさ。
いや、私もひとの事言えないけど。
っていうかどうでもいいけど、この世界って本当に特徴的な髪色の人多いよね。
いや、実際にはそういう髪色もあるよってだけで、普通の茶髪とかの方が多いんだけど。
ゲームの主要人物に当たる人たちばかりが周りにいるせいか、どうしても特徴的な髪色しか普段目にしてなくて。
本当はこっちの方が少数派なんだけどねー。
『まぁとにかく、ちゃんとめでたしめでたしで終われそうでよかったよ』
『国としては確かにめでたいのかもね』
『いや、一番めでたいのはあの王太子様でしょ』
『え?』
『え?』
ジャスミンの言葉に、どういう意味か図りかねて疑問を返せば。
全く同じ言葉で返ってきたその表情は、きょとんとした不思議そうな顔で。
しばらく二人して同じような顔をして、見つめ合ってしまったのだった。




