33.積極的なのはお芝居ですか?
「ディジタリス公爵令嬢は重要参考人として連れていけ」
「は!!」
「……それで、ローズは私と一緒に来てもらうよ?色々と話を聞かないといけないからね。そう…色々、と」
随分と含みのある言い方をされているのは、私の気のせいじゃないはず。
っていうか、目が怖いから…!!目が…!!
久々に見たよ!?笑ってるのに笑ってない表情!!
なんで!?私なんかした!?怒らせるような事した覚えないんだけど!?
とはいえこれだけ大勢の人たちの前で、王太子殿下直々にそう言われてしまえば、私に拒否権などあるはずもなく。
大人しく頷いて、言われるがまま促されるまま。
気が付けば執務塔にまで連れてこられていた。
『……で?なーにが作戦成功だって?』
『え、本題に入るの早い……』
『どっかの誰かさんが無茶な事するからだろう!?危うく殺されてたかもしれないんだぞ!?』
『え、いや、だって……ルプレア様を救えるのは私だけだったし……』
そもそも囮作戦って、そういう事じゃなかったの?
私とフレゥ殿下の二人なら、狙われる可能性は私の方が明らかに高い。
だからそのために、護衛もたくさんつけられていたんだと思ってたんだけど……?
『むしろそう理解してたのなら、ちゃんと護衛に守られて大人しくしててくれよ……』
解釈は間違っていなかったけれど、私の行動は間違っていたらしい。彼的には。
とはいえ私しかルプレア様を救えなかったのも事実だし、こればっかりはどうしようもない。
『だからってわざと煽るか?普通』
『その方が感情が表に出やすいでしょう?ゲームの感じからして、負の感情が大きくなった時に魔物が出てくると思ったから』
実際ゲーム中のローズが激昂した時に、黒い影が大きく膨らんだという表現をされていた。
それなら同じことをすれば、必ず出てくるはずだから。
そしてそれを消せるのは、聖女の力だけだ、と。
あの時の私は不思議な事に、何一つ疑いもせずそう思っていたから。
『実際ルプレア様についてた魔物は消せたし、周りの魔物たちも全部退治できたし。囮作戦は成功でしょう?』
『だからって…!!』
なぜか毎回そうだからか、今回も自然に隣に座っていたけれど。
妙に印象的な青の瞳が大きく揺れたかと思えば、次の瞬間には同じ色の髪色が目の前に広がっていて。
なぜか、私はもう一度抱きしめられていた。
今度は先ほどよりも、もっとずっと強い力で。
『それでローズに何かあったらどうするんだ…!!怪我どころじゃ済まなかったかもしれないんだぞ!?死んだら元も子もないんだからな!?』
その言葉も、声も。
責めるような言い方のはずなのに、同時にどこか悲痛な響きを含んでいて。
まるで、本当に大切にされているようで……。
(……ううん…。大切には、されてる。それは最有力候補者だからでもあるし、聖女だからでもあるんだろうけど……)
そう思った瞬間、胸の奥がチクリと痛んだような気がして。
でも、だって……この場で真実を確かめるわけにもいかないから。
積極的なのはお芝居ですか?
思わずこの世界の言葉でそう問いかけそうになったのを、口をグッと固く引き結んで飲み込んだ。
聞いたって仕方がないし、何よりその答えを知って傷つきたくないからと思ったから。
傷つく、なんて。
なんでそんなことを考えたのかも、よく分からないけど。
でもきっと、同じ世界の出身者に"婚約者候補"とか、"聖女"とか。そんな記号みたいな捉え方をされたくなかったから。
私自身がジャスミンをヒロイン、フレゥ殿下をメインヒーローなんて、記号みたいにしか捉えていなかったように。
それはローズ・ラヴィソンという悪役令嬢という記号としてしか、自分を見ていなかったことと同じになってしまうのに。
最近ようやくその事に気づいた。
みんな、ちゃんと。
意思を持って、信念をもって、未来を見据えて行動しているのに。
記号のように見てしまったら、それを否定することになってしまう。
そう、だから。
そう見られていると認識してしまうのが、嫌だったから。
きっと、それだけ。
『頼むから……もう二度と、あんな無茶な事はしないでくれ……』
聞こえてきた声も、かすかに震える体も。
もしかしたら、全部全部お芝居かもしれないけれど。
『……うん…約束、する。もう二度と、あんな事しないから…』
きっとそこに、私と同じように。
同じ転生者だからこそ、仲間意識のようなものがあるのだと。
そう信じたいと思ったのは、私の勝手な思い。
『ローズっ……』
もっと深く抱き込まれるように、更にしっかりと抱きしめられて。
でも不思議と、その腕を嫌だと思わなかったのは……。
彼に対する苦手意識が完全に消えたから、だけではないような気がするのは…。
果たして、気のせいだったのか。
それを確かめる術もないまま、その日私は解放されたのだった。
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