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32.作戦成功!!……って、あれ?

「ラヴィソン公爵令嬢、少しお時間よろしくて?」


 その日、ルプレア様から声をかけられたのは。

 たぶん。いや、確実に。

 偶然では、なかった。


「あら、どうかなさいましたか?」

「少しお聞きしたい事があるの。放課後、迎えに来るわ」


 そう言うだけ言って、私の返事も聞かずに去って行くルプレア様。


 いや、私に放課後用事があったらどうするつもりなわけ?あの人。

 っていうか、そういえばあの人一度も人の名前呼ばないな。

 あれか?たとえ誰であっても、様をつけたくない、とか?

 自分がこの国で一番の女性になるのだと、信じて疑わないって感じなのか?

 選ぶ側からは、だいぶ嫌われてるっぽかったけど……。


「困った方…」


 頬に手を添え小さく呟いてため息を零せば、途端周りから同情した視線を向けられる。


 まぁ、ね。あれだけ一方的に自分の用件だけ伝えて去って行くような身勝手さは、貴族としてもかなりのマイナスだからね。

 ただ困るのは、周りの視線が。

 身勝手な貴族女性に絡まれた可哀想な人、ではなく。

 同じ婚約者候補の中で、最も有力だから睨まれている、というものなのは。

 さて、喜ぶべきか悲しむべきか。


 真実を知った今、別段フレゥ殿下を避ける事もしなくなったせいもあって、前より一段と最有力候補説が濃厚になってるっぽいんだよねぇ。

 何より二人きりでお昼休みも過ごしているし。

 ま、こっちに関しては国王陛下の命令だからね。断れないのはもう仕方がないんだよね。

 その辺りは諦めてるけどさぁ……。



 でも、だからって……。



「フレゥ殿下と二人きりで昼食をご一緒するどころか、休日までお時間を頂いて外出など。貴女は何を考えているの?」


 こんなに簡単に引っかからなくてもいいと思うんだよね、ルプレア様。


 一応ね、私にも護衛が付けられているんですよ。内緒だけど。

 何なら魔術師の監視の目も、あったりするんですよ。ただしルプレア様に、だけどね。


 だから、なぜか人気(ひとけ)のない。生徒だけで行くのは禁止されているはずの場所にまで連れ出して、二人きりだなんて。

 もう疑われても仕方がないと思うんですよ。


 っていうかさ、なんでサロンとかにしなかったの?この人。

 それならまだ令嬢同士のおしゃべり、みたいな感じで許されたかもしれないのに。



 とはいえ、まぁ……。



(こんだけ魔物の気配が強いんじゃあ、ルプレア様が黒なのは確実だな)


 本人からも、周りからも。本来ならこんな場所に存在してちゃいけない気配がするから。

 明らかに、目の前の人物は当たりだった。


(さて、どうするか……)


 正直聖女としての自覚はないんだけれど、じゃあ何もできないのかと聞かれれば、否。

 むしろなぜか、どうすればいいのかは何となく分かるような気がして。


 不思議と体中にあたたかくて優しい力が満ち溢れているから、つまりはこれを使えってことなんだろう。


(できれば、ルプレア様も救いたいんだよなぁ)


 ゲームのローズのように、倒すしかない、なんて。そんな悲しい結末にだけはしたくない。

 本人に問題がなかったわけじゃないけれど、それでもやっぱり死んでしまうほどの何かをしたわけでもないから。

 心の隙間が出来た理由は、自分が最有力候補じゃないからとかそういう事なんだろうけど。それって仕方のない事だし。


(ま、何とかしますよ。そのための聖女、なんでしょ?)


 何よりそのために、私は囮に使われたわけで。

 ここでフレゥ殿下に行かなかったあたり、まだよかったと思うべきなんだろう。

 対処できないだろうからね、他の人じゃあ。


 そう、だから。


「あら、それはこちらのセリフですわ。まさか学園の中に魔物を引き込んだのは貴女だったなんて……」

「なっ…!?」


 ここは一つ、煽ってしまおう。

 で、ケリをつける。


「隠しても無駄ですのよ?何を隠そう、私が本物の聖女ですから」

「貴女が…!?そんなバカな…!!」

「残念ながら本当の事ですわ。その証拠に、この髪飾り。聖女の証にと、フレゥ殿下に頂いた物ですの」


 なーんてね。

 本当は子供の頃にもらっただけなんだけど、まぁそんな事誰も知らないし?

 何よりこのために、わざとつけてきたんだから。


 …………あれ……?なんか私、今悪役っぽくない…?

 おっかしいなぁ……一応配役としては、聖女のはずなんだけどね?


 とはいえ。


「そんな、もの……あなたごと……」


 どうやらうまくいったらしく、魔物の気配はどんどんと膨れ上がって強く濃くなっていく。

 たぶんルプレア様の心の中に潜んでいた魔物そのものが、姿を現わそうとしているんだと思う。

 そしてその魔物を引きずり出して、消し去ってしまえば。

 きっとルプレア様も死なずに済む。


 だから。


「アナタゴトケシサッテシマエバイインダワ…!!」


 私に襲い掛かろうとしてきた魔物たちは、周りの護衛の人たちが引き受けてくれているうちに。

 ルプレア様に急いで駆け寄って、そこから煙のように立ち上り始めていた黒い影をむんずと掴む。


「アァッ!?」

「ごめんなさいね?正直あなたには恨みしかないから、遠慮も手加減もするつもりはないの」


 相手は何のことだかさっぱり分からないだろうけれど、一応それだけ告げて。

 その黒い影に向かって、めいっぱい先ほどの力をぶつけてみれば。


「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!?」


 なんだかよく分からない声を上げて、しゅうぅぅっと消えていった。


「あ、っと……ぁっ…!」


 完全に気配が消え去ったことを確認した瞬間、今度は目の前のルプレア様が崩れ落ちてしまって。

 急いで支えようと思ったけれど、流石に一人では難しくて一緒に倒れ込んでしまった。


 ら。


「ローズッ!!!!」


 なぜか、必死の形相で走ってきたフレゥ殿下に上から覗き込まれて。

 せっかくなので、上手くいったことを伝えようと微笑んで見せたのに。


『作戦成功!!……って、あれ?』

『……ばか…。何無茶な事してるんだ…』


 なぜか抱きしめてきたその体は、かすかに震えていた。



 割と力技なローズさん(笑)

 一応本当は聖女の力の使い方って、そうじゃないはずなんですけれどね?

 恨みの方が大きすぎて、ちょっと行動にも表れてしまいました(^^;)



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