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29.それ、もっと早く言ってよ…

『え、ちょ、待って……なに?偽物の聖女って…?』


 心底不思議そうな顔で聞き返すジャスミンに、今度は言い出した本人の方が驚いた顔をして。


『は…?それもゲームのイベントとかじゃねぇの?』

『いや、だから…ローズ・ラヴィソンが聖女になるっていうシナリオは、文章でちょろっと出てきただけなんだって』

『え。ってことはつまり……?』

『誰にもこの先の展開は分からないってこと』


 いや、そもそも本当に私が聖女なのかっていう話もあるんですけどね?


 っていうか……。


『それ、もっと早く言ってよ…』


 そういう大事(おおごと)って、もっと早く言うべき事じゃないの?

 ジャスミンが関わってるかどうかも、確かに大切な事ではあったかもだけど!

 聖女を語る偽物って、魔物が蔓延(はびこ)るこの世界では身分やら経歴やらの詐称どころの話じゃないからね!?


『いや、うん、悪かった…』


 殊勝な顔をしてるけど、実際今後の対策とか考えるの大変なんだよ?

 しかもなんかさっきからの会話の流れだと、私が聖女みたいだし?

 このままだと私も無関係ではいられないっていうか、むしろ当事者になりそうっていうか……。

 何なら、私の方が偽物判定されるんじゃないかってね。


 魔物化死亡エンドから抜け出せたと思ったら、聖女を騙った偽物として処刑されました、なんて。

 冗談じゃないからね?ホントに。笑えない。


『ローズの言う通りだな。まず真っ先にそれは報告すべき事だっただろ、ゼラ』

『いやだから、悪かったって…!!つい、その……ピンク髪が何か知ってるかと……』

『いや、知るわけないし。ってゆーか、その偽物って誰なの?ぶっちゃけそいつが一番怪しいじゃん』


 ジャスミンのその鋭い言葉に、少しだけ目が泳いだジェラーニ・ジプソフィールは。

 誰とも目を合わせようとしないまま、小さな声でポツリと呟いた。


『……ルプレア・ディジタリス…』

『ほらぁ!!やっぱりあの女が一番怪しいんじゃん!!』

『いやまぁそうなんだけどな!?本人が言い出したわけじゃないから困ってるんだよ!!』

『はぁ…?』


 弁解しようとしているのか、必死に言いつのるジェラーニ・ジプソフィールが言うには。

 どうやら何か異変に気付いた様子だったルプレア様が目を向けた瞬間、そちらの方向から眩い光が見えたのだとか。

 その後侵入していた魔物が消えたことを先生方に報告に行ったジェラーニ・ジプソフィールと、報告を受けた先生方の様子から、周りにいた生徒たちがルプレア様が聖女なのではないかと言い出したとのことで。


『いや、それはあり得ない。王族としても保証する。本物の聖女はローズだけだ』

『原作を知っている身としても、実物を見た身としても証言しますよー?』

『いや、うん、分かってるんだけどな…?』


 まぁ、うん……そう、だよね。

 本人が言い出したわけではなく、周りが勝手に言い出したとなると……。

 完全に怪しいとは、言いにくくなる。


(ジェラーニ・ジプソフィールの言いたい事も、分からないわけじゃないんだけどねぇ……)


 っていうか、いい加減フルネームってめんどくさいな。

 ジェラーニでいいか。


『それでも周りが目撃者になってる上に、先生たちも信じ始めててさぁ……。たぶんディジタリス家に、その情報はもう行ってるはずだ』

『げっ…。じゃあ王家に聖女ですって打診するってことか?』

『たぶん?』

『冗談じゃないぞ!?気が強いだけで周りを見ることも出来なければ、自分本位な女なんて誰が娶るか!!』

『フレゥ、本音。本音が駄々洩れてる』

『あ……』


 私とジャスミン二人、ちょっと顔を見合わせてしまった。

 いや、言いたい事も気持ちも分かるんだけどさ。

 あの完璧な王太子様の仮面の裏で、そんな事考えてたなんて。


『人って、見かけによらないよね』

『それ、超肉食系女子のジャスミンが言う?』


 とはいえまぁ、中身は私たちだって元日本人なわけで。

 この世界で育ってきたから、この世界の常識を知っているだけ。その身分にあった言動が出来るだけ。

 どっちもあって自分だと思ってるから、そこら辺はあんまり深く考えたことはない。


『まぁ……いいか。元日本人だと知られた以上、今更だしな』

『開き直りが早いな、おい』

『今重要なのは、ローズが本物だとどう証明するか、だ。俺やゼラの証言だけでも何とかはなるが……』

『貴族間の力関係の事を考えると、どこまで信じるか、だな』

『それに、だ。もしも本当に聖女を騙るのであれば、相当な罪に当たる。そこで一気にディジタリス家を潰すことも出来るが……』

『次の財務大臣探しはしてる。陛下が候補者をあげてくださっているし、何とかはなるだろうな』

『とはいえなぁ……甘い蜜を吸ってる奴らからすれば、本物かどうかは重要じゃないからな』

『そこなんだよなぁ…。しかも俺たちはまだ学生の身。いくら王族(フレゥ)の言葉でも、ちょーっと効力は弱いんだよなぁ…』


 いや、うん。

 二人して今後の対策を考え始めるのは、まぁいいんですけどね…?

 せめてそういう内部的な話は、私達が退室してからにしてくれませんかね?


 全く関りがないわけじゃなさそうだけど、流石にここまで蚊帳の外感満載だと、ねぇ…?


 思わずジャスミンと二人、もう一度顔を見合わせて。

 二人して肩を竦めてため息を零してしまった。



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