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28.え、つまり私のしてきたことは無駄だったってことですか?

『っつーか、自分じゃないって言うなら誰か心当たりでもあんのかよ?』

『え?なにが?』

『魔物を招き入れた人物に決まってんだろが!!このピンク髪!!』


 あ、そこに会話戻るんだ。


 とりあえず後悔しても仕方がないので、今後はちゃんと気を付けようと気持ちを切り替えて。

 顔を上げた私に、あからさまにホッとした顔をしてたフレゥ殿下にぎこちなく微笑んで見せたら。

 それを見ていたらしいジェラーニ・ジプソフィールが、唐突にそんなことを言い出す。


『ピンク髪ピンク髪うるさいなぁ!!私の名前はジャスミンだって言ってるでしょうが!!』

『知るか!!そんなの今初めて言われたっつーの!!』

『じゃあ覚えなさいよ!!』


 いや、話が逸れてるから。

 なんなのこの二人?犬猿の仲なの?

 出会ったばっかりだよねぇ?さっき顔を合わせたのが初めてなんだよねぇ?


『お前が無実だって証明出来たら覚えてやるよ!!』

『だったら一番怪しいルプレア・ディジタリスでも調べてみなさいよ!!魔物に取りつかれそうな要素満載じゃんか!!』

『父親の不正だったらとっくに調べ終わってるっつーの!!』

『じゃあその父親の可能性もあるじゃない!!とにかく私じゃないんだから!!こっちは必死に滅亡ルート回避してたんだからね!?』

『その回避の方法が分かってるんだったら教えておけよ!!』

『それこそ誰が転生者なのかも分からないのに教えられるかっての!!一番のキーパーソンは王太子様を避けてゲームを始めたがってるし!!』


 ……ん…?それはもしかしなくても、私の事かな……?


『私だってねぇ!?少ない情報から必死に逃げ続けたんだからね!?イベント発生場所だけ避けてても、うっかりがあったら困るでしょうが!!』


 うん、まぁ……それはなんとなく、分かる。

 実際私も、避けられないものがこれまでいくつもあったからね。

 現実はどれがルートに入る選択肢になるか分からないから、そりゃあ必死になって避けるよねぇ……。


 うんうんと頷いていたら、隣から悲しそうな視線が向けられて。

 う゛っ…と言葉に詰まっていたら、それを横目で見ていたらしいジェラーニ・ジプソフィールが。


『なるほど……それで結局、ローズ・ラヴィソン嬢と仲良くなってたわけか』

『それは、まぁ……何というか、不可抗力で…?』

『それも滅亡ルート回避のために必須だった、ってわけじゃないのか』

『正直ゲームさえ始まらなければ、必然的にそのルートになるのが原作だからね。とはいえあれも100%クリアの後で、ちょろっとだけ文章が出てくるだけのやつだから』

『なんだそれ』


 ようやく普通に会話を始めてくれた二人の会話に耳を傾けていたら、ジャスミンの口から語られたのはとんでもない内容で。


『誰とも出会わずに卒業したヒロインのその後が語られるんじゃなく、ローズ・ラヴィソンが聖女として覚醒した後の話が出てくるの。何のスチルもなく』

『え、何それ。乙女ゲームなのに?』

『そう、乙女ゲームなのに。文章だけで、聖女ローズ・ラヴィソンのおかげでフィオーレ王国は魔物からの脅威を退け、国民たちは幸せに暮らせましたーってね』

『もはや誰がヒロインか分かんねぇな、それ』

『ゲームとしてジャスミン・シャルモンをヒロインって言ってるだけで、世界観的には明らかにローズ・ラヴィソンがヒロインでしょ。王太子殿下と結婚して幸せになるところまで含めて』

『へ…?』

『は…?』

『お…?』


 途中までは確かにジャスミンが言っていたように、意地悪な制作陣だなーとか思ってたんだけ、ど……。

 最後の言葉に、三者三様の反応を返してしまう。


 というか、ちょっと待ってよ。

 つまり、その流れって…………


『俺たち、割と遠回りな上無駄な事してたってことか…?』


 ってことに、なるよねぇ……?


 ゲームのシナリオから抜け出そうとしたことは、間違っていなかったんだと思う。

 ただその流れからすると、私がジャスミンにヒロインしてよとゲーム開始を促していたことがそもそもの間違いだったという事で。

 むしろフレゥ殿下の婚約者候補から外れようとしていたこと自体、もしかして間違い……というか、無駄な行為だった……?


『無駄ではないと思うけど……。少なくとも聖女覚醒イベントは起こせたんだし、あとはまぁ……王太子殿下の頑張り次第?』

『責任重大だなぁ?フレゥ』

『いや、まぁ…最初からそのつもりだったから、そこは別にいいんだけどな?』


 え、つまり私のしてきたことは無駄だったってことですか?


 なんか三人が色々言ってるけど、私はそれどころじゃなくて。

 というか、だとすれば私の今までの苦労は…!?必死に生きようとしたあの日々は…!?

 魔物にさえ取りつかれなければオールオッケーってこと!?


 えええぇぇーー…………


『まぁでも、おかげでこれだけ転生者に出会えたわけだからね。正直私としてはラッキーかな。卒業後は晴れて自由の身だし♪』

『自由の身…?』

『卒業したら貴族の籍から抜いてもらえることになりました☆』

『…………はぁ…!?』

『まぁ実際、貴族には向いていなかったんだ。よかったんじゃないか?』

『いや、っつーか……何考えてんだよ、シャルモン男爵』

『ほら、ウチのお母様本物のサキュバスだからさ。下手に貴族の中にい続けたら、普通の人とは違うのバレちゃうし?どっちにしろどっかでドロンしなきゃなんですよ』

『母親は分かるけどな。それともお前もなんか特殊な事出来るわけ?』

『んー……昔は誰彼構わず魅了しちゃってたけど、今はちゃんと訓練して大丈夫になってるからなぁ……。しいて言えば、見た目の年齢が変わらなくなるかもとは言われてるけど』

『……じゃあ、何だよ。単純に、本当に貴族でいたくなかったってことか?』

『まぁねー。かたっ苦しくない?元日本人としてはさ』


 うん、なんか……ふっつーに会話してるよね、この人達。

 私だいぶ、今までの自分の頑張りが無駄だったと知って、ショック受けてるんだけど…?


 なんだかなぁ……。


『はぁ……。なんか、もう……お前と今回の魔物の件は、本当に関係ないんじゃないかって思えてきたわ……』

『いやだから、関係ないんだって。ゲーム中だって、本当は関係なかったんだから』

『一応サキュバスも人間からしたら、魔物認定されてるんだけどな』

『あ、そういう人たちの事は魔物じゃなくって魔族って言うらしいよ?』

『……そこは、ゲームっぽいんだな…』

『元々日本人が作ったゲームだからじゃない?』


 とりあえずジャスミンへの誤解は解けた……っぽい?ので。

 まぁ、よしとするか。



 なんて。


 思った次の瞬間に、まさか。



『じゃあゲームついでに、偽物の聖女の対処法も教えてくれよ』

『はい…?』


 ジェラーニ・ジプソフィールから、まさに爆弾発言が投下されることになるなんて。


 誰も、予想していなかった。



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