25.私の知る真実
『あぁ、ちなみに俺はある時ふと、自分が転生者だって気づいたんだけどね。それまでは知らない単語とか急に出てきてて、周りに不審がられたよ』
うわぁ……。それはそれで、なんかちょっとした恐怖体験……。
『ローズは?いつ自分が元日本人だって、自覚した?』
『え?あ、えっと…私は小さい時に、原因不明の高熱で死にかけて……』
そう、それで思い出したんだ。
今となっては遠い昔の話のように思えるけれど、実際にはまだあれから十年くらいしか経ってないわけで。
いやまぁ、子供の十年って結構昔か。
『という事は、初めて俺と会った時には既に自覚してたわけか……』
『だ、だから避けてただけで…!!』
『あぁ、うん。大丈夫。納得してるから』
要するに、私にとってこの世界で最も避けて通るべき人物だったわけだから。
次点でヒロインなんだけどね、避けるべき人物。
じゃあなんで、今ここにその二人がいるんだって思うけど。
しょうがないよね。彼らこそが同じ転生者だったんだから。
『ゲームの中だけで考えれば、ほとんどの人物避けなきゃいけなくなっちゃうんじゃ…?』
『だから避けてたでしょ?』
『取り巻きーズも含めて?』
『やめて。第一、世間的には彼女たちと同じ括りにされてるんでしょ?私』
『そりゃあねぇ。なんたって王太子殿下の婚約者候補たちだよ?あの中の誰が王妃になるんだって、そう思われるでしょ』
『ゲームだと、全員跳ね除けて王妃になってたくせに』
『それ私じゃないから!!あと王妃とか面倒!!いや!!なりたくない!!』
『私だって死にたくないから…!!』
『現段階で死ぬ要素ないんだからいいでしょ!?』
『……いや、っていうか…。俺ってそんなに避けられる存在だったんだ……』
ヒロインとの言い合いがついヒートアップしてしまっていたら、隣からぼそりと呟かれて。
ハッとして横を見れば、どこか落ち込んだように見える元日本人の王太子様。
『あ、いやっ…!!そういう事じゃなくて…!!』
『うん、分かってる。分かってるんだけどね…?まともな感性してたら、むしろ王妃なんてなりたくないよなぁ……』
あぁっ…!!どこか遠い目をしてるし…!!
違うんだってば…!!別にフレゥ殿下が嫌いとかじゃないから…!!
『候補なんて曖昧な関係じゃなくて、完全に婚約者になっちゃえば未来も変わるかなー、なんて。思ってた俺が浅はかだったよ』
『…………』
…って!
そっちかあああぁぁ!!!!!
だからか!!だからあんなに積極的だったのか!!
なんか今一気に納得したよ!!
『ってゆーか、なんで王太子様の婚約者候補たちってあんなのばっかなの?』
『まともなのはローズだけだって言いたいんだろ?その通り過ぎて何も言えないけど、まぁ貴族って力関係気にするからな』
『一市民として、個人的にはあの人たちが王妃っていうのはちょーっと嫌だなー』
『安心していい。俺もローズ以外の候補者を選ぶ気はない』
『じゃあ安心かー』
……って。
そこで安心しないでくれる!?!?
『私の意見は無視ですかね!?』
『えー?じゃあ逆に聞くけど、他の誰だったらいいわけー?』
『ぐっ……。そ、それは……』
正直ルプレア様に押し付けられるのなら、それが一番いいと思っていたけど。
あの人も結構アレな感じだからなぁ……。
『ローズが一番避けたかったのは、自分がゲーム通りに殺される未来?それとも王妃になる未来?』
『っ…わたし、は……』
ゲーム通りに進みたくなかったのは、死にたくなかったから。
私がゲームから外れた行動を取ればきっと、この先の未来も変えられるんじゃないかって。
そう、思ったからで。
『死にたく、なかったから……。誰にも殺されたくなかったから、誰とも関わり合いになりたくなかった。けど……』
だからって、ゲームが本当に進まないのも不安だった。
だってこのままだと、目が笑ってない王太子様と結婚しなくちゃいけなくなったから。
そうなったら、この先本当にどうなるのか分からなかったから。
本当は、先の事なんて誰にも分からないはずなのに。
その事すら、私は忘れていて。
『ゲームが始まらないと、それはそれで怖くて……』
『うん。だからローズはヒロインを探していたんでしょ?』
『そう、だけど……。でも、本当は……きっとゲームなんて、始まらない方が良かったはずで……』
それでもやっぱり、怖かった。
そう、私は怖かったんだ。
分かっている未来も、分からない未来も。
自分が生きていられるのかどうかすら、他人よりも確証がなかったから。
『っていうか、それならなおのことゲームなんて無視しちゃえばよかったのに。そもそもゲームが始まった時点で、全員破滅ルートしかないんだし』
だから、考えた事なんてなかった。
前提そのものが。
私の知る真実が。
実は最初から間違っていたなんて。




