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20.少しだけときめいた

「子供の頃から、ローズは私を避けていた気がしていたんだけれど。気のせい?」

「それ、は……」

「何か気に障る事をしてしまったのか、それとも私が王太子だから、なのか」

「っ…!!」

「本当の事を知りたいだけなんだ」


 本当の事、なんて……。

 全部を言えるわけが、ない。


 むしろ何を言えっていうの?


 この世界が実はゲームとして存在していましたって?

 私はそのゲームが存在していた世界からの生まれ変わりですって?


 それこそ頭のおかしい人認定されてしまう。



 なのに。



「ねぇ、ローズ?お願いだから、教えて欲しい…」

「っ……」


 その、()は…………ずるい……。


「そ…の……」

「ん…?」

「っ…!」


 ちょ…待って……。

 お願いだから、ホントに待って……。


 そんな、優しい声で……。


 覗き込むようにしながら、微笑まないで……。


「ぁ……」



 どうしてだろう。


 メイン攻略対象から、この王太子様から、離れなきゃって思ってたのに。

 嫌われてしまえば楽なのにって、死なずに済むって。



 そう、思っていたはず、なのに……。



(なんで、いまさら……きらわれたくない、なんて……)



 そんな風に、思うようになってしまっているのか。


 頭のおかしい女だと、思われたくない、なんて。


 この間までの私だったら、今の状況に喜んで飛びついて。

 はい嫌いです、って。そう、言えていたはずなのに。


「とても……個人的な事、でして……」

「うん」

「決して……嫌いだとかでは、なくて…ですね……」

「うん」


 どうしてこんな事、私はこの人に話しているんだろう。


「その……小さな頃から、夢を…」

「夢?」


 そう、夢。

 夢の話だとしてしまえば、きっと頭がおかしいとは思われないし。

 最悪笑って流せるはずだから。


 だから、そう。


 これは全部、夢の中のお話。


「夢の中で、フレゥ殿下はある女性に夢中になっていらして……」

「ある女性…?ローズではなく、別の婚約者候補の誰かかな?」

「彼女たちの中の誰でもなく、その……」

「…あぁ、なるほど。私の妃にするのに相応しくない相手、なのかな?」

「相応しくないわけでは、ないのです。ただ……」

「ただ?」


 ただの夢、の、体だけれど。


 ある意味、たくさんある未来の内の一つでもあるから。


「心から想う方がいつか現れるのだと…ずっとそう、思っていたので……」


 魔物化ルートとは別に、ずっと心の中で思っていたこと。

 私自身気づかないほどの、奥深くで。

 ずっとくすぶり続けていた、それは。


「私でも他の婚約者候補者でもない女性を、一途に想われる未来があるのでしたら……。私はお側にいるべきではないのだろう、と……」


 そうすれば魔物化ルートからも遠ざかる事が出来るし。

 愛されない結婚も、しなくて済む。


 だって、怖いじゃん?

 夢中になって、必死でアピールして。

 でもその先で、いつか自分ではない誰か別の女性に心惹かれていく姿を見続けて。

 最後には拒絶されて、魔物化して。


 そして、殺される。


 そんな未来、誰だって怖い。

 誰だって、避けたいと思う。


 それの何がいけないの?


 言っても理解なんてしてもらえない。理解を得られるわけがない。

 でも現実に、その未来(ルート)は確かに存在していたから。



 なのに。



「つまり……私が大切に思う女性と共にいられるようにと、そう思っていてくれたんだね?」



 そんな優しい声で、いい方向に解釈されると……。


 自分のこの考え方が身勝手なんじゃないかって…すごく、怖くなる。



「私自身が何かをしてしまったとかではなく」

「そのような事は、決して…!!」

「じゃあ、私の事が嫌いなわけではないんだね?」

「嫌いだなんてそんな…!!」


 人としてなら、好きな部類に入る。

 攻略対象じゃなければ、王太子様じゃなければ。

 普通に友達になりたいと思うくらいには。


 でも。


「良かった…。ずっと気になっていたんだ。私はローズに嫌われているのかもしれない、と」


 避けていたのは、事実だから。


「……申し訳、ありませんでした…」


 もっと早く。

 それこそ婚約者候補なんてものにされる前に、言っておけばよかったんだ。


 そうしたら、きっと……。


「いいんだよ。むしろようやく理由が分かって、私としては一安心だから」


 こんな風に、二人きりで話すこともなかったはずだから。


「でも、そうか……。夢、か……」


 突拍子もない話だけれど、生まれ変わったんですとか言うよりはまだマシだろうし。

 なんだか考え込んでいるみたいだけれど、きっとこれで話は終わりだろうから。


 一息つこうと紅茶に手を伸ばして、ひとくちふたくちと口と喉を潤す。

 バラジャムの微かな香りと温かい紅茶は、妙に相性が良くて。


(もしかして……最初からこれに合うような紅茶を選んでくれていた……?)


 相手が私一人だから、その可能性は大いにある。


(本当に……つくづく気が利く王太子様だわ)


 なんて感心しながら、心地よい香りにホッとしていたら。


「ローズ」


 名前を呼ばれたので、反射的に顔を上げた先で。


「っ…」


 それはそれは、優しい表情(かお)で。

 こちらを見ている青い瞳とバッチリ目が合って。


「……ぁ…」

「またこうして、時折一緒にお茶をしよう?放課後に、本当に時折でいいから」



 ね?と柔らかく目を細めて、首を傾げたその人に。


 思わず少しだけときめいた私は。



 つい、無言のまま首を縦に振ってしまっていたのだった。



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