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19.素顔のままで

「あぁ、よかったローズ。来てくれたんだね」

「お約束、しましたから…」


 何とかそれだけ言葉として絞り出したけれど、その後は何も続けられなかった。



 だって…!!


 なんかふんわりした笑顔で、目の前の人物が完璧なエスコートをしてくるから…!!



 執務塔にある王太子殿下専用の部屋は、奥に執務が出来るよう机と椅子が用意されているけれど。

 その前にはなぜかテーブルとソファ。


 来客用というよりは、たぶん息抜き用なんだろうけれども。


 そのせいで、ソファは二人掛けの物が一つしかない。



「ローズは紅茶はストレート?それともジャムを入れる?」

「え、っと……」

「あぁ。ちゃんとラヴィソン公爵領のバラジャムも用意してあるよ」

「…でしたら、それを……」


 っていうか、近い近い…!!

 いっくら二人掛けのソファだからって、余裕をもって座れるはずなのに…!!

 なんでこの人こんなに近いの…!?


 あとさり気なく我が家の特産品用意するとか、相変わらず抜け目ないというか隙が無いというか…!!

 ほんっと、完璧な王太子様だな…!!


「何杯入れる?」

「え…?あ、いえっ…!自分でやりますので…!!」

「いいじゃない。やらせてよ。こんな風に二人きりでお茶が出来るのなんて、初めてなんだから」


 言われてみれば、確かに。


 二人きりで会う時は、いつも王宮のバラ園だったし。

 その時だって、必ず周りには護衛が隠れてついていたはずなのに。



 今は、なぜか。



 本当に、執務塔の王族専用執務室の中に、二人きり。



(あ、あれ……?これって、いいのかな……?)


 仮にも王位継承者と、その婚約者候補で。

 学園に通う王侯貴族の子息令嬢。


 本来ならば、部屋に二人きりなんて……。


 許されないはずじゃあ……?


「あぁ、そうだ。ローズ。今日の事は内緒だよ?そういう約束で、みんな許してくれている事だから」


 ちょ…!!こらぁ…!!

 あんたもあんただけど、周りも周りだろうが…!!

 許すなよ!!こんなこと!!


 第一、使用人くらい一人はつけとけよ!!

 なんで全部セルフなんだよ!!

 仮にも王族だぞ!?私だって公爵令嬢だぞ!?

 この国こんなんでいいのか!?いいのか本当に!?!?


「私がどうしてもローズとちゃんと話をしておきたいと頼んだんだよ。外にはちゃんと護衛たちがいるから、大声を出せばすぐに入って来てくれるよ」


 え、っと……?


「勿論ローズがそんな事をしなければならないような事、私はするつもりはないから。安心していいよ」

「っ…!」


 にっこり、って……きっと、こういう顔に対して使う言葉なんだろうな。


 なんて、頭の片隅で思いつつ。

 私は至近距離で見てしまった綺麗な笑顔に、思わず固まってしまって。



 いや…!!だって…!!


 今まで怖い笑顔だった人が、急にちゃんと笑うんだもん…!!


 しかも無駄に顔がいいし…!!



 恐るべし、攻略対象キャラ。



「それに、誰かほかの人間がいては……私は王太子として振舞わなければいけないからね。素顔のままでローズと話すことなんて出来ないと思ったんだ」


 素顔のままで……?


 じゃあ、なに?

 今までの私や他の人たちに対するときは、いつも王太子としての仮面を被っていたってこと?



 ……いや、うん。被ってたんだろうな。

 だから笑顔が全部一緒だったんだろうし。



 とはいえあの笑顔をこの一日で何回も見てしまっている私としては、確かに同じ笑顔のままの方が安全だなとは思ってしまう。

 あれは、ダメだ。完璧な王子様が、甘い笑顔で話しかけてくるとか。

 婚約者候補の令嬢達以外も群がって、今以上に困ったことになるんだろうから。


 もしかしたらそういう事も、帝王学の一つだったのかもしれないけど。

 その辺りは、私には分からない事だからね。


「ねぇ、ローズ?正直に答えて欲しい」

「え、っと……。はい、何でしょうか…?」


 とはいえ、ここにきて二人きりの時にそれを解放されるとですね…?

 見たこともないくらい真剣な目をして見つめられると、折角の王妃教育で培ったポーカーフェイスが……。


 これでも公爵令嬢として恥ずかしくないように、しっかりとした教育も受けてるんだけどなぁ…。

 なんか、こう……調子が狂うというか、ペースを崩されるというか……。

 困ったなぁ……。



 なんて。


 呑気に考えていられたのは、ここまでだった。



 だって……。



「ローズは私の事が、嫌い?」

「っ!?!?」


 そんな風に直接的に、しかも本人から聞かれることになるなんて。

 予想すら、していなかったから。


「い、え……その……」

「ここには私達二人だけだから。本当の事を教えて欲しい」



 その、懇願するような青い瞳に。



 私は一瞬、呼吸さえ忘れてしまって。




 なぜか泣きたくなってしまった、自分でもよく分からない感情を理解できなくて。


 思わず俯いて、スカートを強く握って。

 涙が零れてしまわないように、ぎゅっと瞼を閉じて。



 その訳の分からない感情をやり過ごした。



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