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18.怖い笑顔、じゃ、ない…?

(何か、あったのかな…?)


 ヒロインが男爵との賭けに勝ったと聞いた翌日から、王太子殿下の様子がおかしい。


 対外的には普段と変わらないように見えるだろうけれど、その実時折何かを考え込んでいるようで。

 ここ数日ほど、朝と放課後の挨拶以外話しかけられることもなくなった。


(ありがたいのは、ありがたいんだけど……)


 何らかのイベントがあったのだろうかと考えても、特に思いつくようなものは何一つなくて。

 安心できる状況のはずなのに、どこか胸の奥がざわざわするというか、モヤモヤするというか。



 自分でも原因が分からないその感情を、一人持て余すしかなかった。


 そんな、ある日。



「ローズ」


 珍しく名前を呼ばれて振り返れば、いつにも増して真剣な表情の王太子殿下その人。


「どうかなさいましたか?」


 驚きは顔に出さないようにしつつ、それでも内心はただひたすらに驚きだけに満ちていた。


 だって…!!あの王太子殿下だよ…!?

 普段は誰にでも笑顔の、隙を見せない王太子殿下が…!!

 学園内で、非常事態でもないのにこんな真剣な表情をしているなんて…!!


 何かあったのかと思うじゃん!?


 私の内面の感情に気づく気配もない王太子様は、更に珍しい事にどこか言いにくそうに口を開いて。


「その……今日の放課後、時間を取れないだろうか…?少し、話しておきたい事があるんだ」


 なんて。

 まるで懇願するかのように、情けなく目じりも眉尻も下げてくるから。


「え、えぇ…、構いませんが……」

「本当か…!?ではサロン……あぁ、いや。執務塔にしよう。あちらならば側に護衛もいるし」


 思わず頷いてしまえば、途端に驚いたような顔をする目の前のこの人は……。


 本当に、あの王太子殿下なの……?


 なんだか普段とだいぶ雰囲気も違うような気がするし。

 でも見た目は明らかに真っ青な髪と瞳の、この国の王太子様だし。


 第一執務塔なんて、使えるのは王族とその側近候補たちや関係者だけだ。


 学園に通っていても、執務の時間が減るわけではない。

 むしろ卒業したら完全に大人の仲間入りで、王族は特に今以上に様々な執務に関わっていくことになるから。


 正直学校に通いながら同時に仕事までしなきゃいけないなんて、それなんてブラック?とか思った事がないわけじゃないけど。


 まぁでも、それが王族として生まれた人の定めなんだから仕方がない。

 だからこそ代わりに、誰にも邪魔されないようにわざわざ学園内に執務塔なんていうものが作られているわけだし。



 なんてことを、なんとなく思い出していた私に。


「美味しいお菓子と紅茶も用意しておくよ」


 と、笑いかけてきた王太子様の笑顔は……。



 怖い笑顔、じゃ、ない…?



 え、あれ…?見間違い…?

 私の目の錯覚かなぁ…?



 おっかしいなぁ……。

 私が知っているこの目の前の人物の笑顔といえば、目が笑っていないもので。

 定型文ならぬ定型笑顔だったはずなのに。


 今、確かに。


 目元がふんわりと、笑っていて……。



「それじゃあローズ、放課後楽しみにしているね」

「っ…!?!?」


 どこか上機嫌にそう言って去って行く背中を、私はただ茫然と見送るしかなかった。



 いや…!!だって…!!



 え?え?

 今のは、なに……?



 去り際もにっこり笑顔だったんだけど……!?!?



 どうしちゃったの…!?

 何か心境の変化でもあったの…!?



 え、待って。

 ホントに待って。


 これ、何かのイベントのフラグとかじゃない、よね……?


 放課後ヒロインと会ってる王太子様とか、ゲームの中じゃあ散々見てきたけど。

 現実世界では、一度たりともなかったぞ…!?


 っていうかヒロインが放課後一目散に帰るから、二人での会話どころか出会うチャンスすらなかったわけで…!!


 それが今更、なんで私は執務塔に呼ばれてるんだ…!?

 そもそも悪役令嬢が執務塔に行くイベントとか、全くなかった気がするんだが…!?



 いやいやというか、それよりも…!!!!



「…………なに、あの……笑顔……」



 今まで一度も見たことがなかった、ちゃんとした(・・・・・・)笑顔。


 それをよりにもよって、どうして今更。

 しかも、私の前で。


「…………っ…!」


 思い出して、知らず顔に熱が集中する。



 だってっ…!!あれっ…!!


 破壊力強すぎる…!!!!



 か…顔がいいってずるい……。


 あれか…!?あの笑顔を見せたらあっちこっちでご令嬢方をさらに落としまくるから、普段は感情を乗せていなかったのか!?

 もしそうだとすれば、その選択は正解だったと言わざるを得ない…!!!!



「こ……怖いとか…………思ってる場合じゃ、なかった……」



 思わず呟いてしまった本音は、誰にも聞かれずに済んだけれど。


 まだ引いてはくれそうにない顔の熱は、パタパタと手で仰ぐことで何とかやり過ごした。



 できればこの姿もやり取りも、誰にも見られていませんように…!!!!



 乙女ゲームの攻略キャラ。しかもメインヒーロー。

 当然完璧な顔面造形をしているのがお約束。



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