16.ヒロインよ、私の逃げ場はどこにある?
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本気で好きになってくれるのなら問題ない――
そんな事、考えたこともなかった。
私にとって王太子殿下というのは、ヒロインにとってのヒーローで。
悪役令嬢にとってのヒーローじゃなかったから。
第一学園に入ってゲームが始まれば、無条件でヒロインと出会って恋に落ちるのだと。
ずっとそう信じてきた私にとって、今の状況は説明できない展開で。
でも、やっぱり……。
『死にたく、ないのよ……』
職員室からの帰り道、少しだけ遅くなってしまった私は廊下で一人、日本語でポツリと呟く。
だってずっと、今でも思う事がある。
ローズがゲーム通りに行動しなければ、同じ思考を持たなければ、魔物化せずに済むんじゃないかって。
死ななくて済むんじゃないかって。
実際ヒロインはゲームとは違う行動を取って、シナリオとは違う結果を手に入れてみせた。
見事に決められたルートから外れて、自分の幸せを手に入れたわけだ。
でも、それはある意味ヒロインだからこそ、出来た事。
私には、王太子殿下の婚約者候補という枷がある。
今のままでは本当に、私が最有力候補者として王家に嫁がされてしまう。
それを、嫌だと思ったのは。
死にたくないからだけじゃ、なくて……。
「笑わないんだもの……」
今度はこの世界の言語で呟く。
実際出会った当初から今まで、あの青い瞳が笑っているところを見た事なんて一度たりともない。
いつもいつも、まるで作ったかのような同じ笑顔で。
誰に対しても同じ顔しか向けない彼にとってはきっと、条件さえ揃っていれば誰でもいいんだろう。
私じゃなくたって、いいはずなんだ。
そう、思っていたから。
だったら王妃になりたい人が、国母になりたい人が。
自分の娘をその地位につけたい親がいる人が。
王太子殿下の婚約者になればいいと、思ったのに。
じゃあいざ、本気で好きになられたらと、考えたら……。
本人の性格が嫌いかと聞かれれば、別に嫌いじゃない。
むしろ帝王教育の賜物か、本人の資質なのかは分からないけど。
周りをよく見ているし、ちゃんと色々な事に気が付く人だと思う。
誰かを不快にさせるような発言は当然しないし、傷つけるような言動だってしたことがない。
王族らしく少し強引なところはあるけれど、権力で何もかも押さえつけようとすることもなく。
そして何より、この間のように自分の非をちゃんと認めて謝ることも反省することも出来る。
将来の王としてかなり有望なのは分かっているし、きっと男性としてもかなり魅力的なんだろう。
これで彼が私の魔物化ルートに一切かかわりがない人だったら。
もしかしたらここまで苦手意識はなかったのかもしれない。
もしも彼が、ただの貴族の跡取りだったら?
ゲームには一切登場しない、モブキャラクターだったら?
そう考えた時、彼を避ける理由がない事に気付いてしまった。
友人としてであれば、普通に話をするような仲になっていただろうし。
親同士が決めた婚約相手だったとしても、きっと受け入れていた。
ただ、現実はそうじゃない。
彼は王太子殿下で。
自分の立場と国のために、最適な相手を求めているだけで。
だから、心から笑わない。
「あぁ……」
今更ながら、ようやく気付いた。
私が彼を避けていた理由は、魔物化ルートから外れたかっただけじゃなくて。
あの笑わない瞳が、怖かったからだ。
愛されないんじゃないかって。
いつかやっぱり本当に愛する人を見つけて、その時に魔物化はしなくても違う意味でつらい思いをするんじゃないかって。
心のどこかでずっと、そう思っていたんだ。
「私には……」
そうなった時に、逃げ場がない。
王太子殿下に嫌われていないことは知っている。
むしろ割と好かれている方なんだろう。
ただしそれは、候補者の中で一番有力だから。
だから彼は私を選んだ。
ただそれだけにすぎない。
『ヒロインだけ、ずるい……』
自分だけ、シナリオから逃げて。
与えられた役目から逃げて。
それでも決して、誰にも咎められることがないんだから。
これを不公平と言わずして、何と言うのか。
一人だけ逃げるなんて、ずるい。
どうせ逃げるのなら、私だって一緒に逃げたかった。
ヒロインよ、私の逃げ場はどこにある?
世界から愛されていて、何をしても許されるのなら。
一緒に逃げ場を探してくれたって、良かったんじゃない?




