13.謝罪は受け取っておきますが、次からは私の話を聞いてください
「ローズ……」
「何でしょうか?」
教師に質問に行って、戻ってきたときにはなぜか教室に王太子様一人だけ。
放課後だからみんな早く帰るのは分かるけど、それにしたってこの状況はおかしくない?
(この…!!身分は関係ないとか言っておきながら、権力を使ったな…!!)
これだから学園内最高権力者は…!!
「その…すまなかった……」
私があまりにもそっけなく返事を返したからなのか、声をかけてきたときよりもさらにしょんぼりとしているけれど。
それで簡単に許されると思うなよ?
「あら、何のお話でしょうか?」
「休み前に……。君はちゃんと自分の物ではないと、頼まれただけだと言っていたというのに…」
「えぇ。そう言いましたわ。けれど信じてくださらなかったのも勝手に他人のクッキーを口にしたのも、全て王太子殿下ご自身ですから」
あくまで私は関係ないと言い張る。
こんなことで後から何か言われても困るし、これで機嫌を損ねるのならもうそれでもいいよ。
正直あんなに人の話を聞かない王太子様だなんて、相手するのも疲れるだけだから。
元々婚約者候補なんてものからも外してほしいこっちとしては、ここでその宣言を得られるのならむしろラッキー。
っていうか。
気分的に、名前だって呼んでやりたくない。
自分勝手によく分からない誤解をして、勝手に媚薬入りのクッキーを口にして。
こっちはちゃんと言葉にして伝えているのに、一切信じようともしなかったんだから。
いくら王族とはいえ、腹が立つことに変わりはない。
「本当にすまなかった…。君の言葉を無視するような事をして…」
あぁ、理解はしているけど無視してたんですね。
なおさら腹立つな。
「もしかしたら君は既に呆れてしまっているかもしれないが、二度とこの間のような事はしないと誓う。だからどうか、許してはくれないか…?」
私が本気で怒っている事にはちゃんと気づけているし、その上で自分の非を認めて謝罪が出来る所は評価できるのかもしれない。
しれない、けれど……。
「王太子殿下。今回は学園内の、しかも学生同士の話で済みましたが、本来は一度でもあってはならない事なのです。その事はちゃんとお分かりになっておられますよね?」
確かに学園内では彼も私もヒロインも全員が学生で、そして王家が掲げるように全員が平等に学ぶ権利がある。
ただ。
だからと言って彼がこの国の唯一の王太子殿下であることに変わりはないし、私がラヴィソン公爵家の令嬢であることにも変わりはないのだ。
そこは間違ってはいけないし、忘れてもいけない。
「王族である以上、何が入っているのかも分からないものを簡単に口にしてはなりません。たとえそれが誰の持っているものであろうとも」
今回は特に、ヒロインお手製の媚薬入りクッキーだったからなおさら。
効力があるなしにかかわらず、そのせいで国が荒れてしまっては意味が無いのだ。
個人的に彼がヒロインに夢中になる分には構わないが、これで毒殺なんてされた日には目も当てられない。
「何より、臣下や民の声を王族が聞けなくてどうするのですか。独裁政治でもされるおつもりですか?」
「いや……。ローズの言う通りだ。私は王族として、最もしてはいけない事をした…」
誰かの言葉を鵜吞みにするのも危ないけれど、独りよがりに突っ走ってしまうのはもっと危ない。
そうやって国が崩壊してしまったのでは、それこそ私の幸せは夢のまた夢。
だから、そう。
そのために必要だから。
だからやりたくもないようなお説教みたいなことをしているのであって。
決して私は、自分の言葉を信じてもらえなかったから怒っているわけではない。
「謝罪は受け取っておきますが、次からは私の話を聞いて下さい」
「あ、あぁ…!!必ず…!!約束する…!!」
「私だけではありませんよ?大勢の方の言葉にしっかりと耳を傾けて、真偽のほどをしっかりと確かめてから行動に移してくださいね?」
「ドゥ・フィオーレの名に懸けて誓おう」
王族と国としての名前、その二つを使っての誓いは何よりも重い。
それを分かっていて、それでも真っ直ぐに青い瞳を向けたまま真剣な表情でそういう王太子殿下の言葉は。
確かに、この国の未来を背負う人物のものだった。




