表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/356

11.誤解×誤解=自業自得

「はぁ…全く……」


 自覚の有無はともかくとして、本当に型破りなヒロインが走り去ってしまったから。

 仕方なく言われた通り調理実習室に入って待っていようと思った私が、扉に手をかけたその時だった。


「ローズ?こんなところで一人でどうしたんだい?」


 運悪く。


 えぇ、そう。本当に運悪く。


 王太子様に見つかってしまって。


「いえ、少しばかり待ち人を……」


 で、合ってるのかな…?

 むしろ強制的に待たされているので、この言い方はなんだかちょっと納得いかないけど。

 でも本当にヒロインが帰ってくるのを待っているのだから、仕方がない。


「待ち人…?」


 そう言いながら、目線は私の手元のクッキーに。


 ちなみにこの王太子殿下は、しっかりと後ろに使用人を連れている。

 ただどうしてこんなところを通りがかっているのかは、正直謎だけれど。


「えぇ。ここで待っていて欲しいと、言われましたので」


 なぜか媚薬入りだというクッキーを持たされた上で、ね。


 もう本当に意味が分からない。

 そもそもなんで媚薬?ヒロインはこれで何するつもりなの?

 こんなものが本当に効いたところで、好きな人の心が手に入るわけじゃないって分かってるでしょうに。

 それともここまでしなきゃいけない理由があるわけ?


 そんな風に目の前の王太子様よりも、ヒロインの行動の意味に気を取られていたから。


 だから、気付かなかった。


「へぇ…?それで?私以外の誰に、そのクッキーを渡そうというのかな?」


 危険な気配を漂わせながら、青い瞳が私を射抜きそうなほど見つめていたなんて。


「…………はい……?」

「こんなところで、使用人もつけずに一人で。よっぽどその待ち人は、ローズにとって特別な相手なんだろうね?」

「え、っと……?」


 あ…あれ……?

 なんだろう…?


 普段から確かに目は笑っていない笑顔を向けてくる人だったけれど。


 こんなに、本気で背筋が凍りそうな笑顔は……。



 初めて、見た。



「こんな風に……わざわざ可愛らしい見た目にまでして…」

「あっ…!!」


 私が呆気に取られている間に、クッキーが一つ、その指に摘ままれていて……。


「だ、ダメです…!!それにこれは、決して私がどなたかにお渡ししようとしたものではなく…!!」

「それならどうして、ローズが持っているのかな?しかも大事そうに、人を待ちながら」


 いやいやいやいや…!!

 まさにその待ち人が、作った本人なんですって…!!


「私は頼まれただけなのです…!!ですからどうか返して下さいませ…!!」


 というか、何があってもそれはこの王太子様の口に入れちゃいけない…!!

 だってこれ、媚薬入りなんでしょ!?

 今食べたら私に効いちゃわない!?


 それは困る…!!


「ふぅん?その割には……必死だね?」


 必死にもなりますって!!


 そりゃあね!?今ここにヒロインがいて、その状態で食べてくれるならいいんですけどね!?

 そうじゃないじゃん!?



 ……あれ…?


 でも逆に考えれば、ヒロインが戻ってくるのを見越して食べさせたら…………。



 いやいや、流石にそれはダメだ…!!バレたらただじゃ済まない…!!

 そういう形でのログアウトは望んでいないんだから…!!


 なのに。


「あっ…!?」


 私の一瞬の隙をついて、目の前の王太子様は摘まんでいたボックスクッキーを口に入れてしまった。


「ダメです…!!吐き出してください!!早く!!」


 私のせいじゃないけど…!!勝手によく分からない誤解をしたのはこの青王太子だけど…!!

 ぶっちゃけ完全に本人の自業自得だけど…!!


 だからって…!!


「ローズ様!お待たせいたしましたー……って…あれ……?」


 ヒロイン!!ナイスタイミング!!


「ジャスミン待っていたわ!ほら、貴女のクッキー」

「え、あ、はい……。え、っとー……」

「フレゥ殿下がね、一つ食べてしまわれたみたいなの。だからあとの事はお願いできるかしら?責任を取って(・・・・・・)

「え…………えええぇぇーーーー!?!?」


 困惑しているヒロインと、真実を知って驚愕しているヒーローを置き去りにして。

 私は優雅に、けれど確実にこの場から逃亡を図った。



 そう、私は悪くない。


 ちゃんと私の物じゃないと主張したし、食べちゃダメだって忠告もした。


 それを聞かなかったのは、あの青王太子本人だから。


 自業自得でしょ?



 何よりこれで本当にヒロインに惚れてくれるのなら、これほどありがたいことはない。



 私は何も知らなかった。そう、何も。


 ただちょっとした、何らかの誤解があった。


 そう、それだけ。


 それだけ、なんだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ