8.悪魔が怖い笑顔でこっちに向かってくるんです
あらぁ…?私の目の錯覚かしらぁ…?
なんだか、悪魔が怖い笑顔でこっちに向かってくるんですけど…?
気のせいかなぁ…?
「ローズ」
あ、これ気のせいじゃないですね、はい。
全くもって、気のせいじゃありませんでした。
逃げたい!!
「今日のお昼休みに、シャルモン男爵令嬢と一緒にいたと聞いたのだけれど?」
「えぇ。楽しく過ごさせて頂きましたわ」
ってか、どっからそんな事聞きつけてきたんだ、この青王太子。
確かに教室まで迎えに行って、目立つような行動を取った覚えはあるけどさ。
そんな暇があるなら、早いところジャスミンと出会ってきてよ。
「珍しいね?ローズが誰かと二人きりだなんて。一体どこで知り合ったの?」
「まぁフレゥ殿下。学園内ではどこででも誰とでも出会う可能性はありますわ」
うふふと笑ってごまかしておく。
実際誰とどこで出会うかなんて、学園内じゃ誰も把握しきれないだろうからね。
まぁこの王太子殿下だけは、全部把握されてそうだけれども。
「そうだね。だけどたまには私とも昼食を共にして欲しいな」
「私が、ですか?」
「そうだよ?私だってローズと同じ時間を共有したいからね」
「まぁ…」
こんなところでそんな事口にするなよ…!!
それぞれの家の子供たちが使用人たちと合流している廊下のど真ん中で、なんてことを言い出すのか、この青王太子は。
あっちでもこっちでも聞き耳を立てている人たちが、面白おかしく噂にするのは目に見えているはずなのに…!
わざとか…!!わざとなんだな…!?
「だから今度お誘いをかけるつもりでいるから。ご令嬢同士で楽しむのもいいけれど、たまには私の相手もしてね?」
…って!!だから王太子様、そんな怖い笑顔で近づいてこないでええぇぇ!!!!
「え、えぇ……」
そう答えるしかないじゃん!!私に選択肢なんてないじゃん!!
私がヒロインにやったことを、今度は私がこの青王太子にやられ返すなんて……。
くっ…!所詮私は悪役令嬢なのか…!!
「あぁ、それと。今度折角だからシャルモン男爵令嬢を紹介してくれないかな?」
お…?おぉ…!?
「ローズの友人なら、一度会っておきたいからね」
おおおぉぉ!?
これはもしかして、強制イベント発生か…!?
天は私を見捨ててはいなかった…!!
「えぇ、もちろんですわ!」
この機会を逃すものかと、私は素早くそれに頷いておく。
これでヒロインは逃げられない。
出会いたくないとか言ってる場合じゃなくなったし、接点も持たせられる。
あとはきっと放っておけば大丈夫でしょー。
……と。
思った私の思惑なんて、ものの見事に外れてくれて。
「ローズが仲良くしている相手だと聞いてね。一度会ってみたいと思っていたんだ」
「そ、そうだったんですね…。はい、えっと…この間はお昼休みにたくさんお話させていただいて……」
「うん、そうみたいだね。ローズが楽しかったと嬉しそうに話していたよ」
「そ……ローズ様、そうなんですか…!?」
どうしてこうなった……。
「あら、貴女は楽しくはなかったの?」
同じ転生者同士、気兼ねなく話が出来て。
「いや、その……楽しくなかったわけではないですけれど……」
ヒロインと悪役令嬢の組み合わせって、いかがなものなの…?
「それなら今後も楽しくお話しましょうね」
だからこそ、でしょう?今後ともなが~~くお付き合いしましょうね。
「うっ……。は、はい……」
困ったような顔で複雑そうに頷くけれど、たぶん副音声は間違っていなかったはず。
つまり、私自身に対して何か嫌だとか思っているわけではない、と。
そもそもにして今回だって結局サロンに一緒にいるわけだしね。
なぜか青王太子もだけど。
「あぁ。もしかして私がいるから、いつものように気兼ねなく話せないのかな?」
「えぇ、そうかもしれませんわね」
むしろ当然だろうけど。
っていうか、さ……。
なんでこの王太子様、さっきから体はずっとこっち向いてるの…?
ヒロインに目だけ向けて話してたけど、なんかこう……運命的な出会い、って感じじゃないんだけど…?
なんか、私の想像していたのとはチガウ……。
「ローズ?どうかしたの?」
「い、いえっ…!!」
まさか、あなたの運命の相手ですよ、なんて。
流石に口にする訳にはいかないから。
いや、まぁ…ヒロインに好きな人がいる時点で、たとえこの王太子様が恋したところで実らないんだろうけどさ。
でも、ほら、その……。
もうちょっと、何かあってもよくない!?
ねぇ、なんで?
なんでヒロインとメインヒーローを対面させたのに、何も起こらないの…?
ゲームは?ねぇ、ゲームは?
乙女ゲームは始まらないの…?
ねぇ!誰か教えてよ!!
自分自身で上げて落とすローズ。
表面上はそう見えないけれど、心の中は常に忙しないのです(笑)




