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1.乙女ゲームの始まりです

 本日より第三章、学園編スタート!!



 桜舞い散る景色の中、私は馬車から降りて学園内をゆっくりと歩く。

 今日は入学式当日だから、当然のことながら身を包むのは学園の指定制服。


 丸襟のシャツに細い赤のリボンを胸元で結んで、高校の制服のようなブレザーを羽織って。

 女子生徒は当然スカート。しかも脚がほとんど隠れてしまうような、ふんわりと裾が広がるようにデザインされた品のいいロングスカート。


 どうして異世界に桜があるのかとか、制服があるのかとか、そもそもなんでその季節に入学式なんだとか。


 そんな野暮なことは言いっこなしなのだ。


 だってここは乙女ゲームの世界!!

 日本で作られたゲームなのだから、入学式も日本風の景色の中!!

 もうこれは仕方がないの!様式美なの!!


 ……と、私自身は思い込むことにして無理やり納得した。


 ちなみに桜は相当珍しい植物らしいけど、私は前世で見慣れすぎててもう何とも思わない。

 知ってた?桜ってバラ科なんだよ?

 もしこれが和風な世界観だったら、私の名前は桜だったのかもね。


「ふふ…」

「お嬢様?」

「何でもないわ」


 誰もいないのに頭の中で一人、誰かに問いかけるような言葉を選んだ自分がおかしくて笑えば、不思議そうな声が後ろからかけられて。

 当然のように後ろをついてくるメイドがいるのは、これもまた様式美なのかもしれない。


 知らんけど。



 さて。

 実はこの入学式こそが、乙女ゲームの始まりなわけだけれど。


 残念ながら、今日私がヒロインと出会うことはない。


 理由は簡単。そういうシナリオだから。


 でも代わりに、王太子様がヒロインと出会うイベントがあるんじゃなかったかな?

 私はのぞき見とかしに行くつもりはないけど。


 巻き込まれたらいやだからね。親睦を深めて親密度を上げるのなら、見えないところで勝手にやってほしい。

 私は婚約者候補から外れることが出来れば、ぶっちゃけ何でもいいから。

 あ、我が家と私自身に害のない範囲内なら、ね。


(これでもしヒロインが同じ転生者で、無理やりシナリオ通り進めようとするのなら何か対策しないといけないけど……)


 今のところまだ何一つ判断できる材料がないので、それは本当にもしもの場合として一応考えておく、という程度に留めておく。

 目下の問題は、残念ながらそこじゃないというのも理由。


 だって……。


「やぁ、ローズ」

「フレゥ殿下、ご機嫌麗しゅうございます」


 なぜか私は、この青王太子にすぐ見つかるのだから。


 分かってる…!!

 この赤い髪色が目立つからだってことは、分かってるんだけど…!!


 それってもうどうしようもないじゃない!?


 大体あんたは今日この日に、運命の相手と出会うことになってるの!!

 私にかかわってる暇なんて、本当はないはずなんだからね!?

 真に愛し合う相手の元に行きなさいよぉ!!


 まだ出会ってもいない相手に押し付けるわけにはいかないから、流石にそんなこと顔にも態度にも、もちろん当然ながら口にも出さないけど。


「先にクラス発表を見に行くのかい?」

「はい。入学式の後では、人が多くなってしまうそうなので」

「よく知って……あぁ、そうか。ローズには兄がいたね」

「はい。お兄様からアドバイス頂きましたの」


 学園は流石王侯貴族の子供たちが通うだけあって、当然入学式は学園内に併設されたホールで行われる。そこはまぁ、理解できる。

 でもなぜか、クラス発表が掲示板に張り出されるという超庶民的手法。


 そんなもの貴族しか通わない学校なんだから、入学通知に一緒に入れておきなさいよ…!!


 とはいえ、だ。

 実はクラスの順位なんて、初めから決まっているし。

 家格が上から順に、だ。当然席順も。


 だから本当は、私がわざわざそれを見に行く必要なんてなかったりする。


 ありがたくないことに。

 ほんっとうにありがたくないことに、今の私はこの青王太子の婚約者候補の一人。

 当然、王太子様と同じクラスってわけ。


 あー、もう。面倒だし憂鬱だし、ホントやめて欲しい。


 でも仕方がないんだ。

 だってそうしないと、ゲームのシステム上ヒロインと悪役令嬢が出会う機会がないから。


 ちなみにこのクラス発表の方法は、一応二年目もある。

 というか、二年目はある程度一年目の成績も加味されて決まる。

 で、ヒロインは見事最上位のクラスになるわけだけど。

 実は二年目のクラス発表でしか出会いがない攻略キャラもいるという、何とも面倒なゲームだった。


(イベントに必要だからあるんです、なんて。制作者も割と手抜きだよねー。学校側はどんな理由でこんな方法にしたんだか…)


 流石にそこは私も分からないからね。知りようがないけど。

 まぁ事前に通知したら、文句を言いに来る親がいる可能性はゼロじゃないからね。そういう理由はありそうだけど。


 ただ今回、私が自分のクラスを分かっているのにわざわざ確認しに行くのは。

 ヒロインの存在を、確かめるためだ。


 少しだけ。

 そう、ほんの少しだけ。

 お兄様や王太子様の態度が、ゲームと違うような気がしたから。


 もしかしたら私の勘違いかもしれないし、ゲーム開始前だからだったのかもしれない。

 でも一応。そう一応。

 この青王太子を押し付けるべき相手が、ちゃんと学園に入学しているのか。

 それを確認しないと、この不安は無くならないから。


「ローズは私と同じクラスだよ?」

「えぇ、存じております」


 存じておきたくなんかなかったけどな!!


「じゃあどうしてわざわざ足を運ぶのかな?」

「どなたがどのクラスにいらっしゃるのか、単純に知っておきたいだけなのです。何かの緊急時に、役に立つかもしれませんから」


 ヒロインのクラスが知りたいんです、なんて。

 誰が教えるか!!


 むしろ早くヒロインに出会いに行けよ!!私に構うな!!

 いっそ今日から私への興味を一切失ってくれて構わないんですけどね!?


 必死に本音をひた隠しにしながら、なぜかついてくる青王太子をそれはそれは華麗に無視して。

 辿り着いた先で、必死に目を凝らして。


(ジャスミン……ジャスミン・シャルモン…………あった…!!)


 男爵家だからか、クラス分けは天と地ほどの差があったけど。

 それでも確実に名前が書かれているのを確認できたから。


 そこでようやく、私は確信した。



 さぁ、ヒロイン。王太子様。


 私は一切邪魔しないから、思う存分イチャイチャしてください。



 そう、まさに今日。今この瞬間から。


 乙女ゲームの始まりです。




 名前しかヒロイン出てきてない…(汗)


 彼女が出てくるまで、もう少々お待ちください…!!



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