第29話 発砲
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
ペイン 爆弾犯
「待てよ。長さん。待てって。そう怒るなよ。分かった」
ペインは、ふざけた様なやる気が抜けた様な口調で長に話しかけ、ある提案を持ちかけた。
「そうだ! 子供を解放しよう!」
「何!?」
「子供を解放しようって言ったんだよ。なっ、デキる男だろう?俺って……」
ペインは勝ち誇った様な表情を長に披露し、そう告げた。それに対して、少し笑みを含んだ表情で長は彼に返す。
「嬉しいね」
しかし、奴の言葉には続きがあった。
「だが、条件がある。ほらっ、この銃で長さん。あんたの頭に撃てそうすれば、子供は解放してやる! それが嫌な場合は、全員死ぬ。リモコンを押すだけだ。あの柱に隠れている刑事も道連れだし、子供も道連れだ。さて、どうする?」
シルバーマンはペインの要求に対して、怒りを感じながら、長に注意を呼びかけた。
「ふざけている。警部、そいつを信用してはいけません!」
ペインは、柱に隠れているシルバーマンに叫ぶ。
「黙れ! 今、こいつが決断をしようとしているんだ! 邪魔するんじゃねぇ!」
長は、ちょっとの間、沈黙したままだったが、答えは出る。
「『解放する』……ねぇー。その言葉を聞きたかった。ははは。流石、デキる男は違うねぇ……」
ペインと長は、笑い始め、1、2分、笑う。その場の空気とは全く違う雰囲気がシルバーマンやボウラーを襲った。
「はははははは」
長はいきなり笑うのを止めて、大笑いしているペインに言葉を放った。
「自分で自分を撃つのは嫌でね。断る」
シルバーマンがいる方向に片目をつぶり、長は合図した。
その合図をシルバーマンはしっかりと見つめている。
「まさか? 今のは……」
ペインは、笑いながら、グロッグの銃口を長に向けて一言告げた。
「はっはっは。残念だよ」
その瞬間、ペインの人差し指がグロッグのレバーを引く。数発の炸裂音が長の胸に襲い掛かる。それによる激痛が長の胸から、頭へと突き抜ける様に生じていき、2秒後には、施設の固い床に倒れ、目を閉じた。
シルバーマンは、それと同時にブラッドやボウラーに無線で告げた。
「今だ!」
『ほい、きたっ!』
ブラッドはエンターキーを強く叩き、施設の照明をダウンさせ、消灯させる。
施設の奥から照明が消え、だんだんと暗くなっていき、ペインたちがいるステージの明かりが消えた。
暗くなっている空間の真ん中で焦燥に駆られた。
「おいおいおい! 一体何が起きたんだ」
ペインの声が真っ暗な空間で響く中、シルバーマンは走って爆弾魔がいるステージに上がって近づき、暗い中で子供の手を捕まえ、赤く光るリモコンを払い、子供を抱きかかえる。
抱きかかえたと同時に、少年の足を利用して、ペインの頬にぶつけた。
「うっ!」
ペインの激痛は頬からスタートする。先ほどのシルバーマンが繰り出した子供の足を利用した頬蹴りの衝撃によって、リモコンを持っていた手が緩み、その衝動でステージの床に転がっていった。
子供の存在がいない事に気づいたペインは辺りを見わたすが痛みと真っ暗な空間に立っている状態の為か見えない。
「ち、畜生! ど、どこだ!?」
ボウラーは暗視ゴーグルで爆弾魔の手をBB弾で狙撃する。黄色い弾丸は奴の手に当たった。
「よっしゃ!」
グロッグを持っていた手から激痛が走る。
「あああああ!!」
ペインの悲鳴が暗くなった施設内で轟いた。あまりの痛みにグロッグをその場に落とし、当たった手をもう片方の手で押さえ、痛みを和らげようと努力する。
激痛にもがき苦しんでいる時に非常灯がついた。
「ああああああ。手が! 手が!」
ペインは痛みで閉じた瞼を完全に開かせる。ベインは施設が明るくなっているのを非常灯が照らす光で感じ取った。
「おい!」
ペインが痛めた手を抑えながら声のする方へ目を向けると、そこには自分の凶弾で倒れたはずの長の姿あった。手にはグロッグが構えられている。
彼は軽く笑みを含んだ表情で、ペインに告げた。
「デキる男ってのはな、常に先を読んでるんだよ!」
長は引き金を、痛みで苦しんでいる爆弾魔に向けて引き、弾丸が放つ。引き金が引かれたと同時に重い炸裂音が施設内を響き渡らせた。
弾丸は一瞬の間に、彼の眉間に着弾する。大きな着弾音と激痛がペインの脳に直撃し、体内が揺れた様に、震盪を起こす。
ペインは勢い良く体勢を崩して、ステージの床に全身を叩きつけた。崩れていく視野の中で断片的な過去映像が脳裏で逆再生し始めているのがペインは理解した。
その逆再生も直ぐに終わり、一面真っ黒な実像が、自分を覆う様に出迎える。ペインはそれに誘われていく。目をつぶり、つかの間の闇を無理矢理、体験する事になったのだ。
長はグロッグの銃口を奴に構えながら、倒れているペインを見つめる。ゆっくりと立ち上がり、転げ落ちている爆弾のリモコンに近づいて手にとった。
「これで爆破は一生起きないはず。
リモコンのスイッチは押されておらず、自分の身が安全なことから爆弾の起動に免れた事を警部は理解する。その後で、倒れて気を失っているペインのところまで近づき、奴の状態を確認する。
額には、紫のあざが綺麗に写っている。長は、勝ち誇った顔で、倒れているペインに向けて言葉を突きつけた。
「なかなかいい腕前だろ? せっかくのイケメン顔が汚れちまったな」
それに対して反応なく、彼は倒れたままで気を失っている。
2階フロアの方から聞き覚えのある声が聞こえ、長は目を向けた。
「長!」
ボウラーがBB弾用ライフルを片手に上げて、自分が呼んだ事を長に知らせ、そのままライフルを持って長のいる1階のフロアへとエスカレーターを使って降りる。
その間に警部は自分の持っていた手錠をペインの両手にかけた。
「長。お前、大丈夫か?」
荒々しい呼吸を整えながら、長の腹部を見つめながらボウラーは訊く。
「やはり、ゴム弾は痛いな。身にしみてくるよ」
「おまえ、分かってたのか? 和尚の拳銃の弾がゴム弾だったのは?」
「非殺傷主義だろ。坊さんとこの息子だから、すぐに理解できたよ。それに前から言っていただろう? ゴム弾か空砲で……」
「ああ、なるほど、それで撃たせたわけだ」
「子供には可哀想なことをしてしまったがな」
長は周りを見ながら現時点の状況を把握。ペインの眉間にはゴム弾の跡が、綺麗についており、その衝動で目を閉じ、失神していた。
「やっぱり威力が強いな、このゴム弾。落語家に言っとかないと……そういや、爆弾は解体できたのか!?」
すると、長のスマフォには先生からのメールが着ていた。
『警部! 爆弾の解体に成功しました!』
「これで、奴のゲームは終焉ってやつだな」
警部の言葉に、シルバーマンは反応する。
「ええ、みたいですね。これでいい酒が飲めますよ」
ボウラーは、全ての結果が上手くいった事に対して喜びを大きく示していた。
「ああ。よし! よくやった!」
長は気絶しているペインを見つめて、ため息を着く。
「まぁ、喜ぶのは奴のベストを外して連行してからだな」
「よぉし、もう安心だからな坊や! 大丈夫だぞ」
シルバーマンは泣いている子供を抱きかかえたまま施設の出口へ歩いて向かい、ボウラーと長は気を失っているペインを運ぶ作業へと取り組み始めた。
第29話。 決着です。話は続きますよ!!




